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第二十七話 実家へ
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一緒にクッキーを作ってから何日か経った頃、父から実家へ来るようにと手紙が届いた。大事な話がある、と記載されている。
(どういった話なのかしら……)
なぜか不思議と悪い話ではなくいい話だと思い込んでいる自分がいた。手紙にはみんな健康に暮らしている旨が書かれてある上に、姉だけでなく私も婚約した身となり、いわばグレイン家全員が幸せな状態に思えるからだ。
ふと、ベンと私の結婚式の話が進められるのかもしれないと頭によぎったが、そのことを考えるだけで胸がきゅっとなり、一方で複雑な気持ちも膨らんだ。すでに気持ちは固まっているのだが、まだベンにはそれらしいことは伝えていないのだ。
すでに私の気持ちはバレているだろうが、きちんと言葉にして伝えることができていない。いざ言おうとしてタイミングを計るも照れくさい気持ちから機会を逃し、いまだ言えずにいる。
「ソフィア」
かっちりと身だしなみを整えたベンが目に映る。
「ベン様」
「十分後に出発する」
「承知しました」
お手洗いを済ませるのかと思いきや、ベンは私を抱きしめた。
「ぁ……ベン様……?」
「この十分はソフィアと触れ合うための時間だ」
「……えっ――」
ちゅ――――――
唇が重なり、ベンの手は私の脇腹や背中を撫でていく。
「っ! ……~~……~~っ」
前に脇腹をなでられて以来、当たり前のように脇腹の際どい場所や背中をすりすりと触られるようになったのだが、このなんとも言えないぞくぞく感には一向に慣れそうにない。
にゅる――ぬちゅぅ――――
「~~~~っ!!」
口の中に入ってきた熱い舌が、にゅるにゅると動いていく。
(うそうそ……出かける直前なのに……っ!?)
熱いキスが交わされたまま、そっと指で耳の弱い部分を触れられ、
「っんぁ……っ」
と声が漏れ出てしまう。
十分よりも長く感じるキスが終えられると、私の目はすぐには完全に開かなかった。ぽわぽわとした感覚がまとわりついている。
「大丈夫か?」
「はぁぁ……ベンさま……っ。お口の中が溶けてしまいますわ……はぁ……はぁ」
がばっと抱きしめられ、耳元にベンの唇が触れる。
「何煽ってんだ」
「…………?」
ベンは私をひょいっと抱えると、部屋を後にした。
「あっ……ベン様! 自分で歩けますわっ……!」
「キスにとろけて頭ボーッとしてんだろ」
「っ……違いますわ! ボーッとしてなど、おりませんわ……っ」
言い返すも楽しそうに笑われてしまう。
結局、馬車まで運んでもらう形となった。甘えすぎているように感じ恐縮に思うが、愛してもらえているという実感を強く感じてつい甘えてしまう。
ひょっとすると、ベンに見初めてもらえたことが私の人生の中で最も幸運な出来事になるかもしれない――そんなことを思うほど幸せでいっぱいの私に父が放った言葉は、あまりにも心を暗くする内容だった。
グレイン家に到着し、父の待つ部屋へ行き面と向かって顔を合わせるや否や、父はとんでもない内容を口にしたのだ。
「早速で申し訳ないが、単刀直入に話すよ。ジェシカがロバート君との婚約を破棄した」
「……………………」
「どうしてそうなったか、こちらも簡潔に言うよ。ロバート君が――」
「あのっ……な…………そ……そんなはず、は…………お父様は一体何をおっしゃっているのですか……?」
(お姉様が婚約を破棄……?)
何も飲みこめない。飲みこめるはずがない。姉はロバートといる時、とても嬉しそうで……いつも仲が良くて……破棄する理由などあるはずないのだから。
「驚くのも無理はない。私も非常にショックだよ……まだ嘘であってほしいと思っている。でもね、これが現実なんだ」
「…………そんな…………っ…………」
「ロバート君が不倫したんだ」
「……………………??」
予想外の言葉に頭も心も理解しようとしてくれない。
(ロバート様が……不倫…………?)
(どういった話なのかしら……)
なぜか不思議と悪い話ではなくいい話だと思い込んでいる自分がいた。手紙にはみんな健康に暮らしている旨が書かれてある上に、姉だけでなく私も婚約した身となり、いわばグレイン家全員が幸せな状態に思えるからだ。
ふと、ベンと私の結婚式の話が進められるのかもしれないと頭によぎったが、そのことを考えるだけで胸がきゅっとなり、一方で複雑な気持ちも膨らんだ。すでに気持ちは固まっているのだが、まだベンにはそれらしいことは伝えていないのだ。
すでに私の気持ちはバレているだろうが、きちんと言葉にして伝えることができていない。いざ言おうとしてタイミングを計るも照れくさい気持ちから機会を逃し、いまだ言えずにいる。
「ソフィア」
かっちりと身だしなみを整えたベンが目に映る。
「ベン様」
「十分後に出発する」
「承知しました」
お手洗いを済ませるのかと思いきや、ベンは私を抱きしめた。
「ぁ……ベン様……?」
「この十分はソフィアと触れ合うための時間だ」
「……えっ――」
ちゅ――――――
唇が重なり、ベンの手は私の脇腹や背中を撫でていく。
「っ! ……~~……~~っ」
前に脇腹をなでられて以来、当たり前のように脇腹の際どい場所や背中をすりすりと触られるようになったのだが、このなんとも言えないぞくぞく感には一向に慣れそうにない。
にゅる――ぬちゅぅ――――
「~~~~っ!!」
口の中に入ってきた熱い舌が、にゅるにゅると動いていく。
(うそうそ……出かける直前なのに……っ!?)
熱いキスが交わされたまま、そっと指で耳の弱い部分を触れられ、
「っんぁ……っ」
と声が漏れ出てしまう。
十分よりも長く感じるキスが終えられると、私の目はすぐには完全に開かなかった。ぽわぽわとした感覚がまとわりついている。
「大丈夫か?」
「はぁぁ……ベンさま……っ。お口の中が溶けてしまいますわ……はぁ……はぁ」
がばっと抱きしめられ、耳元にベンの唇が触れる。
「何煽ってんだ」
「…………?」
ベンは私をひょいっと抱えると、部屋を後にした。
「あっ……ベン様! 自分で歩けますわっ……!」
「キスにとろけて頭ボーッとしてんだろ」
「っ……違いますわ! ボーッとしてなど、おりませんわ……っ」
言い返すも楽しそうに笑われてしまう。
結局、馬車まで運んでもらう形となった。甘えすぎているように感じ恐縮に思うが、愛してもらえているという実感を強く感じてつい甘えてしまう。
ひょっとすると、ベンに見初めてもらえたことが私の人生の中で最も幸運な出来事になるかもしれない――そんなことを思うほど幸せでいっぱいの私に父が放った言葉は、あまりにも心を暗くする内容だった。
グレイン家に到着し、父の待つ部屋へ行き面と向かって顔を合わせるや否や、父はとんでもない内容を口にしたのだ。
「早速で申し訳ないが、単刀直入に話すよ。ジェシカがロバート君との婚約を破棄した」
「……………………」
「どうしてそうなったか、こちらも簡潔に言うよ。ロバート君が――」
「あのっ……な…………そ……そんなはず、は…………お父様は一体何をおっしゃっているのですか……?」
(お姉様が婚約を破棄……?)
何も飲みこめない。飲みこめるはずがない。姉はロバートといる時、とても嬉しそうで……いつも仲が良くて……破棄する理由などあるはずないのだから。
「驚くのも無理はない。私も非常にショックだよ……まだ嘘であってほしいと思っている。でもね、これが現実なんだ」
「…………そんな…………っ…………」
「ロバート君が不倫したんだ」
「……………………??」
予想外の言葉に頭も心も理解しようとしてくれない。
(ロバート様が……不倫…………?)
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