銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第2話:キノッサの大博打

#05

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 宇宙要塞『ウォ・クーツ』攻略戦は、ノヴァルナの敗北に終わった。

 ここで記憶を遡れば、戦闘開始直前のアイノンザン軍参謀は、“惑星の裏側に配置した二個艦隊も、命令を待っている”とヴァルキスに告げていた。そのうちの一個艦隊はノヴァルナの本体に立ち向かって来た、通常編制の恒星間打撃艦隊だが、もう一つは二十八隻もの高々度ステルス艦からなる、潜宙艦隊であったのだ。

 アイノンザン=ウォーダ家は、公式には恒星間打撃艦隊を五つ保有している事になっている。しかし実際には極秘にもう一つ、この潜宙艦隊を整備していたのだった。ただ無論、高額な潜宙艦隊など一朝一夕に作り出されるものではない。ヴァルキスはウォーダ家が勢力争いをしていた頃から、中立を保ちながら潜宙艦の建造に力を注いでいたのである。

 戦艦と空母からなるノヴァルナの本隊を、包囲陣の中に誘い込んだ二十八隻の潜宙艦は、一斉に宇宙魚雷を発射した。別の世界の大戦で、“Uボート”と呼ばれる潜水艦が行っていた、敵船団を複数で取り囲み、一斉に魚雷を発射して戦果を拡大する、“群狼戦術”と似たものだ。昨年のイマーガラ家とノヴァルナの戦いにも戦闘に加わらず、情報収集に徹していたアイノンザン軍の潜宙艦の全てが、遂に牙を剥いた瞬間だった。

 仕掛けるタイミングも完璧である。宇宙魚雷の迎撃と潜宙艦狩りに適した、宙雷戦隊やBSI部隊はノヴァルナの本隊から離れており、至近距離からの魚雷攻撃に対処しきれない状態となっていたのだ。ヴァルキスがノヴァルナ軍の艦隊運動の見事さを称賛していたのは、自分の見立て通り、作戦がスムーズに運んでいたというのもあった。

 だがノヴァルナの反応も早かった。宇宙魚雷を迎撃しきれず、戦艦11・空母6が被雷すると、即座に赤・赤・赤の信号弾を射出し、全軍に反転180度の一斉撤退を命じたのである。
 撤退過程を含めると三個艦隊合わせて、さらに戦艦4・重巡5・軽巡12・駆逐艦18・空母2・軽空母2という、少なくない数を損失したが、それでもあれ以上長く戦場に踏みとどまっていては、もっと損害が拡大するだけだったのは明白で、負けは負け…と、割り切ったノヴァルナの決断の早さは的確だと言える。この戦いはノヴァルナとウォーダ家にとって、命運を賭けるような戦いではないからだ。

 そして、撤退していくノヴァルナ軍の姿をスクリーンで眺めながら、ヴァルキスは苦笑い交じりに呟いた。

「ノヴァルナ様を逃がした以上…私達の負けだね」


 
 三日後。ノヴァルナはキオ・スー城へ帰還すると、すぐに次の手を練り始めた。いや、正確には惑星ラゴンへの帰還途中で、すでに原案を練っていたのだが。

 そしてさらにその二日後、重臣達を会議室へ集めて告げたのが、ヴァルキスの本拠地アイノンザン星系と、宇宙要塞『ウォ・クーツ』を有するダイゴードル星系の両方を見据える位置にある、カーマックという植民星系に新たな基地…司令部と艦隊の修理・整備機能を持った、本格的大型基地を建設するというものである。

 主君のいきなりの方針変更に戸惑いを隠せない重臣達の中から、筆頭家老のシウテ・サッド=リンが代表するように問い掛ける。

「それでは、ダイゴードル星系の方は如何されるのですか?」

「どうもしねぇ。ほっとく」簡単に言い放つノヴァルナ。

 これを聞いて重臣の幾人かは顔を見合わせた。宇宙要塞『ウォ・クーツ』とダイゴードル星系を占領は、惑星ラゴンからミノネリラ宙域進攻用の前線基地建設を目指す、『スノン・マーダーの空隙』までの航路の安全確保と、アイノンザン星系攻略の足掛かりとするための、重要な戦略目標だったはずだったからだ。

 その事をナルガヒルデ=ニーワスが確認すると、ノヴァルナは事も無げに言う。

「あそこじゃいてぇ目にあったからな。もう懲りた。んで、どうせならカネにモノを言わせて、要塞そのものの存在理由を無くしてやろうってワケさ」

 それはノヴァルナの大胆な戦略転換であった。ミノネリラ宙域への本格進攻を控えた今の時期、これ以上ヴァルキスに関わって、実働戦力の損耗は避けるべきだと考えたノヴァルナは、意固地になって宇宙要塞『ウォ・クーツ』の再攻略を試みるのではなく、アイノンザン星系とダイゴードル星系の連絡を絶つ位置に、新たな拠点を建設し、分断を図ろうというのである。

 ノヴァルナが「カネにモノを言わせて」と言った通り、新たな本格基地を建設するには、それに比例した大きな予算が必要となる。しかし旧キオ・スー家にイル・ワークラン家を加えてオ・ワーリ宙域の全てを統一した、現在のノヴァルナが当主を務めるウォーダ家の財力を持ってすれば、難しい事ではなかった。ヤヴァルト銀河皇国の初期の頃から、植民が行われていたオ・ワーリ宙域は、元来、皇国有数の豊かな経済力を持つ宙域なのだ。

「基地が完成するまでは、四個艦隊でカーマック星系を防衛する。居住区画もしっかり造営させっから、みんな、家族ごと移ってもいいぞ」

 かなり重要なはずの話だが、ノヴァルナの口調は軽い。
 
 さらにノヴァルナは、同時進行で『スノン・マーダーの空隙』にも、再度宇宙城建設を試みるよう命じた。ノヴァルナ軍がヴァルキスとの戦いに傾倒していると、イースキー家に思わせて、その隙を突こうというのである。
 指揮官は第9航宙戦隊司令官のカッツ・ゴーンロッグ=シルバータと、重巡第8戦隊司令官のシンモール=ザクバー…ともにノヴァルナ直卒の第1艦隊に所属する武将だ。第1艦隊は先の宇宙要塞『ウォ・クーツ』攻略戦でそれなりの損害を出したが、シルバータとザクバーの部隊は無傷で済んだため、第1艦隊の損害艦が修理を行っている間に派遣される事となった。



 皇国暦1562年2月18日。ノヴァルナは、第3・第5・第8・第9・第11の五個艦隊を護衛に付け、基地建設用の大規模輸送船団をカーマック星系へ送り出した。カーマック星系はそれ自体がかなり発展した植民星系であり、現地調達できる資材も豊富で、前述の通り予算さえ捻出できれば、短期間で基地建設を完了させる事も可能なはずである。 

「カネで解決する話なら、そうすりゃいいんだよ」

 惑星ラゴンの月面基地『ムーンベース・アルバ』から、基地建設部隊の出港を見送るノヴァルナは、腕組みをして少々ワルっぽく言い放つ。その隣にはちょうど、惑星カーティムルの災害救援から一時帰国して来たノアがいた。

“ホントは悔しいくせに…”

 ノアは、ノヴァルナの横顔の向こうにある本音を見抜いて、苦笑いを浮かべる。ヴァルキスに行動パターンを読み切られて、まんまと罠に嵌ったのであるから、自分の夫が悔しがらないはずがない。以前、皇都キヨウへ旅をした時、BSHO同士の戦いに苦戦したのが悔しくて、伝説のパイロットのヴォクスデン=トゥ・カラーバを探し出し、弟子入りしようとしたぐらいの負けず嫌いだ。
 にもかかわらず、戦略を転換して宇宙要塞攻略に拘ることなく、新たな基地の建設を考えたのは正解だとノアは思う。たぶん自分の個人的な意地を通して、多くの兵を死なせたくはないと考えたのだろう。

「ね。ラゴンに降りたら久しぶりに、ツーリングいこっか?」

 ノヴァルナの顔を覗き込むようにして誘うノア。

「ん?」

「いいでしょ? お互いこのところ、別行動だったんだし」

 戦略を転換したのだから、気分も転換しよう…澄んだ紫色の瞳で、暗にそう付け加えて来る妻を見返し、笑みを浮かべたノヴァルナはわざとらしい口調で応じた。

「おまえがそう言うんだったら、ま、しょーがねーなぁー」




▶#06につづく
 
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