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第3話:スノン・マーダーの一夜城
#19
しおりを挟むFT‐44215星系第十一番惑星の衛星軌道から離脱した、旧サイドゥ家の宇宙ステーションは、三度の統制DFドライヴを行って、3月31日の深夜にミノネリラ宙域への侵入を果たす。
軍艦ではない民間の貨物船、しかもメーカーもバラバラで乗組員の練度にも差がある状況の中、統制DFドライヴを行う事は困難を極めたが、彼等はどうにかそれをやり遂げていた。
これにはダイナンの三隻の重巡航艦が大いに役立った。宇宙ステーションとそれを曳航する貨物船団を、三角形の中に置くように展開した三隻が、シンクロフィールドを展開し、各貨物船はそれに“ぶら下がる”ように、航法コンピューターを同期させる事が出来たからだ。
次の統制DFドライヴまでは六時間。中央指令室から見る前方ビュアーには、微かに『ナグァルラワン暗黒星団域』が、宇宙に横たわる巨大な龍のように見えて来ている。キノッサは中央指令室から離れる事無く、司令官席で居眠りをしていた。時間的には真夜中であり、中央指令室には当直の人間が数名いるだけだ。カズージはどこか空いてる個室で寝ればいい…と言ったが、今のキノッサにとてもそこまでの余裕はない。
「バカ野郎! てめキノッサ。休む時は休む! もちっと真面目にやれ!!」
レム睡眠状態の頭の中にノヴァルナの怒鳴り声が響き、驚いたキノッサは司令官席からずり落ちそうになって、目を覚ました。自分がどこにいるのか失念した様子で、大きな眼をキョロキョロさせ辺りを窺う。そして自分が夢を見ていた事に気付き、ふぅ…と息をついた。
“やれやれ…何千光年離れても俺っち、叱られるッスか”
頭を手指で掻きながら、寝直そうと司令官席にもたれ直すキノッサ。ところがその時、前のオペレーター席に見覚えのあるアンドロイドの、後頭部がもたれかかっているのを発見し、またもや司令官席からずり落ちそうになる。
「ポッ…PON1号!」
そう言って立ち上がるキノッサ。オペレーター席を回転させて振り返ったP1‐0号は、冷静沈着にツッコミを返した。
「だれがPON1号やねん!」
「再起動できたんスか!? いつしたんス!?」
一気に眼が覚めた様子のキノッサは、司令官席を離れ、P1‐0号のもとへ急ぎ足で歩み寄る。自分が居眠りを始めるまでは、そのような報告は受けていなかったからだ。
「一時間ほど前…正確には63分と23秒…24秒…」
「なんで起こしてくれなかったんスか!?」
「必要を認めなかったからさ」
淡々と応じるP1‐0号に、キノッサは大きなため息をついた。
素っ気ないP1‐0号の返答に、肩を落としたキノッサだったが、気を取り直して、平静な口調で問い掛ける。
「それで? もう大丈夫なんスか?」
「問題ない。機械生物と同化しかけた演算回路を自己チェックし、プログラムを構成し直すために、再起動まで時間が掛かったんだ」
P1‐0号の返答を聞いて「そうッスか…」と応じたキノッサは、それでも文句を言わずにはいられない。
「なんで、ウイルスプログラムが作用したら、自分まで機能を停止してしまうか、言わなかったんスか!? おかげでみんな、大慌てしたじゃないッスか!」
するとP1‐0号は逆に、我が意を得たり…といった感で告げた。
「それこそがまさに、僕が発言に加えなかった理由だよ。どうもお猿や親分達は、アンドロイドの僕を人間扱いしようとする傾向がある。そんな状況で、僕が一時的にせよ機能を停止すると知れば、不必要な議論を招いて時間を浪費するだけだよ。だから、発言を避けたんだ」
「仲間を心配して、何が悪いッスか!?」
キノッサが言い放つと、P1‐0号は軽く首を振り、説くように言う。
「僕を仲間だと認識してくれる事に対しては、“有難う”と言わせてもらうよ。だけどこの言葉を含め、僕は君達への最適解と思われる反応を選択して、実行しているのに過ぎない。これは何度も言って来た事だよ」
「そんな事は…言われなくても分かってるス!」
強い口調で言い返したキノッサは、不貞腐れた様子で司令官席へ戻って行く。一見すると、最適解の選択に失敗したように見えるP1‐0号だが、自身への評価としては正解であった。今後、同じような問題に突き当たった際、またキノッサ達に不可解な情けを基とした、非論理的行動をさせない布石となるからだ。
司令官席へ座り直したキノッサが寝直そうと、背もたれに上半身を沈めるのを見て、P1‐0号はコントロールパネルに体の向きを変える。
そう。今の自分の態度と言葉は、キノッサに対する最適解ではあった。しかし…もしP1‐0号に“眉をひそめる”という機能があれば、今のP1‐0号はその機能を使用していただろう。
それは最適解を選択し、キノッサの反応も想定の範囲内でありながら、P1‐0号としては自己評価が極端に低いためだった。いわば“成功”と“失敗”が、演算回路の内部で同居しているようで、不可解としか表現できない。
“なにを間違ったのだろう………”
圧倒的な速さでキーボードに入力しながら、P1‐0号は電子脳の中で、検証を繰り返したのであった。
▶#20につづく
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