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第3話:スノン・マーダーの一夜城
#24
しおりを挟む一方で、偵察駆逐艦からの通報を受けた、イースキー家の三武将は混乱の極みにあった。何もないはずの『スノン・マーダーの空隙』内部に、いきなりウォーダ軍のものと思われる“宇宙要塞”が出現したのだから、混乱しないはずがない。
「どういう事だ!? 何が起きている!?」
「宇宙要塞! どこかから運んで来たのか!?」
「いや。宇宙要塞の移動など簡単じゃない。それなら事前に情報が入るはずだ」
「と、ともかく、すぐに攻略に向かうべきだ。偵察駆逐艦からの連絡では、迎撃の出て来たのは付近にいた重巡で、要塞自体には、センサーを作動させてるとかの動きが、全く無かったらしいからな」
イースキー家第11艦隊司令のラムセアル=ラムベルと、第13艦隊司令のバムル=エンシェンが意見を交わし、第9艦隊司令のセレザレス=アンカが早急な攻略を提案する。
「そうだな。そうするべきだ」
人一倍功名心が高そうな割に自主性に欠けるのか、バムルは即同意して何度も頷いた。これに対し、ワンヴァル星人の女性武将ラムセアルは、幾分冷静な判断力を有しているようで、自分達だけでの攻勢は危険だと感じたようだ。
「待て。当初情報のあった、築城部隊にも備える必要がある。ここは付近の基地から、応援を呼んだ方がいい」
『ナグァルラワン暗黒星団域』は戦略的に重要な場所であり、周辺の植民星系には相当数の、恒星間防衛艦隊が配備されている。ラムセアルはそれらの艦隊に応援を要請し、少しでも戦力を整えようというわけである。しかしセレザレスの反応は鈍い。
「だがな…そうなると、イナヴァーザン城にも知らせなければ…」
増援を要請した事が下手にイナヴァーザン城に知られると、ビーダとラクシャスの不興を買う恐れがある、セレザレスはそう考えて同意を渋ったのだった。それでもラムセアルに、同僚たちが似たような考えを持って臨んだウモルヴェ星系で、どのような結末を迎えたかを説かれると、仕方ないといった体で了解する。いずれにせよ彼等の三つの艦隊は、築城部隊が出現したら、三方向から襲撃する事を目的に分散してしまっており、再集結する必要があった。
「うぬぅ…再集結とは、面倒な事になった。本国が騒ぎ出す前に、早急に叩かねばならないというのに!」
忌々しそうに言うセレザレス。ただそもそも、セオリー通り『スノン・マーダーの空隙』内部で待ち伏せしていれば、キノッサ達の宇宙ステーションの出現にも、もっと早く対処できたのであり、なまじ小細工を弄して裏目に出るという、もたつきパターンの典型となってしまっていたのは否めない。
結局のところ、セレザレスら三武将の艦隊が再集結を終えたのは、それから約四時間も後の事となった。それに比べ、周辺星系に配備されていた恒星間防衛艦隊の方が、余程しっかりとしており、セレザレス達からの急な要請に対し、二時間後には三個艦隊が緊急出動し、『スノン・マーダーの空隙』へ向かっている。
そしてこの四時間と言うのは、キノッサ達にとってもギリギリのラインだった。突然の対消滅反応炉の停止で、星間ガス流から放り出された宇宙ステーションが受けたダメージを、一定のレベルまで回復する事が出来たからだ。一定のレベルと言うのは、センサー類と防衛システムが、どうにか使えるレベルという意味である。
「ともかく、サンザー様の第6艦隊が、援護に駆けつけて来てくれるまで、何としても持ち堪えるッス!」
セレザレス、ラムセアル、バムルの三武将が指揮するイースキー家の艦隊が、統制DFドライヴを完了し、ひたひたと迫る中、ウォーダ軍築城司令官トゥ・キーツ=キノッサは、宇宙ステーションにいる人員と、周囲に展開する貨物船に対して、短くとも力強い訓示を行っていた。
「だけどみんな、死ぬんじゃないッス! 戦いは生き残ったもん勝ちなんス! だからみんな生き延びて、お祝いに大好きな人と美味しいものを食べるッス!!」
美辞麗句を抜きにしたキノッサらしい訓示に、その放送を聞く誰もがつい、微笑みを浮かべてしまう。そういうキノッサも、頭に一人の女性を思い浮かべながら、締めくくりの言葉を口にした。
「いいッスか!? 大好きな人と、美味しいご飯のために、いざ頑張るッスよ!!!!」
期せずして起こる「おおお!」という鬨の声。そこに前衛として哨戒活動を行っていた、高速貨物船から連絡が入る。
「敵艦隊発見。方位12度、下方6度。距離約4万」
戦術情報共有システムとリンク出来ない、民間の貨物船からの情報であるため、ホーリオが手動で戦術状況ホログラムに敵の位置を入力する。
「もういいッス。哨戒の貨物船に、すぐに撤退するように告げるッス」
距離4万―――4千万キロと言えば、宇宙戦艦の主砲の射程圏内だ。防御力など無いに等しい貨物船を、置いておいていい距離ではない。
「敵はやっぱり、基幹艦隊が三個のようッスね」とキノッサ。
「ああ…」とハートスティンガー。
ティヌート=ダイナンの重巡が拿捕したイースキー軍の駆逐艦から、敵戦力の規模を聴いていたキノッサは、口を真一文字に引き締めた。こちらの戦力は、宇宙ステーションの防御兵器と、ダイナンの三隻の重巡航艦。そして武装を持ったタイプの貨物船が二十五隻しかない。
やがてステーションの長距離センサーにも、接近して来るセレザレスらの艦隊の反応が捉えられる。キノッサは奥歯を一度噛みしめると、強い口調で命じた。
「合戦準備! 武装の無い貨物船は後退!」
戦術状況ホログラムに、二百隻を超えるイースキー軍三個艦隊の輝点が、ズラリと一気に表示される。それを見て、自分達が圧倒されるような不吉な表示方法に、ハートスティンガーは小さく舌打ちした。
距離が縮まって、光学センサーが拡大映像の表示を可能にすると、キノッサ達の宇宙ステーションの姿を見たセレザレスは、怪訝そうな表情になって首を捻る。
「あれが…宇宙要塞だと?」
オンライン回線を開いたままにしている、ラムセアルとバムルも、口々に疑問の言葉を発した。
「とてもそんな風には見えんな…」
「あれは…我が軍の補給基地にも思えるが…」
バムルの意見は正解である。外観こそハートスティンガー達の持ち込んだ、補強材で改造が為されているが、元は旧サイドゥ家の艦隊補給・整備基地なのであるから、見覚えがあって当然だ。
これを聞いたセレザレスが、前方の基地に識別信号を発してみた。するとやはりサイドゥ家の家紋『打波五光星』が表示される。しかしこれはこれで、混乱のもととなった。
「どういう事だ?…サイドゥ家の家紋だぞ」
一方キノッサは、ステーションが自動的に敵艦隊からの識別信号に反応し、旧サイドゥ家の家紋を表示させた事を知ると、この時を待ってましたとばかりに、ホーリオに指示を出した。
「ホーリオ。例のアレをやるッス!」
「了解」
寡黙なホーリオはそれだけ言い、コントロールパネルを操作する。
「アレってなんだ?」とハートスティンガー。
ニタリと笑ったキノッサは、景気づけとばかりにハートスティンガーを振り向いて、元気よく言い放った。
「この時のために用意したんス。俺っちが考えた、俺っちの“家紋”ッスよ!!」
そして次の瞬間、セレザレス達三武将が見ていたスクリーンの、『打波五光星』紋が消えて、奇妙な家紋が新たに出現する。銀河を意匠した渦巻きの上に、重なった五つのヒョウタンだ。
「なんだこりゃ?」
三人のイースキー軍武将とハートスティンガーが、眉をひそめて声を揃える。対するキノッサは、小柄な体に堂々と胸を張って告げた。
「俺っちの家紋。『銀河に千成瓢箪』ッス!!」
▶#25につづく
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