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第3話:スノン・マーダーの一夜城
#37
しおりを挟む司令官席で戸惑うキノッサに、戦術状況ホログラムのもとでオペレーター席を覗き込んでいたハートスティンガーが、振り向いて告げる。
「キノッサ。ノヴァルナ公から直接通信が入った」
それを聞いて司令官席から跳び上がり。一本棒のように直立不動の姿勢になるキノッサを見て、ハートスティンガーは戦闘中にも関わらず噴き出しそうになった。
「おう、キノッサ。生きてたか!」
「はっ。ノヴァルナ様!」
ノヴァルナはいつもの不敵な笑みを大きくして頷く。その表情には、安堵の色が僅かに混じっているように見えた。ノヴァルナはスクリーンの中で、さらにハートスティンガーに視線を移して声を掛ける。
「貴殿がマスクート・コロック=ハートスティンガーだな?」
「はっ…」
軽くだが礼儀正しく頭を下げるハートスティンガーに、ノヴァルナは告げる。
「ウチのキノッサが世話になった。礼を言う」
これを聞いたハートスティンガーは、「恐縮至極にございます」と言葉を返しながら、“ウチのキノッサ”という言い回しをしたノヴァルナに、好印象を抱いた。ノヴァルナはハートスティンガーに頷き、キノッサに視線を戻して言い放つ。
「てめーへの陣中見舞いに、手土産を持って来てやったぜ」
「手土産?…この廃棄艦が、ですか?」
「おうよ。コイツらを盾にして、防御に使え!」
「なるほど!」
ノヴァルナが五十隻以上もの廃棄艦を引き連れて来たのは、カーナル・サンザー=フォレスタの第6艦隊が同行しているように、イースキー家に思わせるのと同時に、“一夜城”と敵艦隊の間に並べて、防御力の弱い“一夜城”の守りの足しにさせるためであったのだ。
事実、“一夜城”への攻撃を、唯一継続していたラムセアル艦隊の砲撃は、大半がこの廃棄艦に命中して、“一夜城”へは届かなくなった。
「じゃ、俺は敵艦隊を叩く。てめーもしっかり守れ!」
そう言って通信を終えたノヴァルナは、不敵な笑みを苦笑いに変えて呟く。
「ふん。サルの猿真似なんざ、面白くもねーがな」
ノヴァルナが“一夜城”の防御補助に、廃棄艦を使おうと思いついたのは、放置状態であった旧サイドゥ家の整備・補給基地を移動させるという、キノッサの着想がヒントになっていたのだ。また時期的にちょうど、宇宙海賊『クーギス党』に、旧式艦を供与する案件があったのも、思考を持って来る手助けとなった。
一方、ノヴァルナとの通信を終えたキノッサは、すぐに思考を巡らせて、ハートスティンガーに指示を出す。
「今のうちに、周囲に重力子を放出して、均衡場を形成するッス」
キノッサが言っている事は、無重力の宇宙空間に重力子を大量投射し、一時的な重力場を形成するという話であった。通常はBSIユニットが機動戦闘で“足場”として使用したり、宇宙基地などで無重力状態では手間取るような外部作業に、使用するもので、防御力とは直接の関りはない。
「重力均衡場? そんなもん、どうするつもりだ?」
「考えがあるッス」
「そっちにエネルギーを回すと、せっかく回復したシールドの出力が、また大きく下がっちまうが…いいんだな!?」
「承知の上ッス!」
主君ノヴァルナとサンザーという力強い援軍の到着で、キノッサ自身の選択は、“一夜城”の防御をさらに固めること一択のはずである。それからすれば、やや的外れな指示ではあったが、きっぱりとした口調に、ハートスティンガーは「分かった」と応じるのみだった。指揮官はキノッサであり、ここまでの働きでその判断能力は、信じるに値すると評価しているからだ。
「重力子投射機の調整に入る。少しだけ待ってくれ」とハートスティンガー。
これに対し、麾下の艦隊に“一夜城”を砲撃させていたラムセアルは、射線上に一斉に突進して来て壁のように並んだ廃棄艦に、眉間へ深い皺を刻んでいた。セレザレスの艦隊とバムルの艦隊が、ウォーダ軍の艦隊と交戦している間に、一気に城を落してしまおうと考え、攻撃を強化したところへ、この廃棄艦の壁が出現したのだから、苛立つのも当然である。
「複数の艦で一隻を狙って、急いであの艦のスクラップを砕いてしまえ。爆砕した慣性で、射線上から弾き飛ばすのだ!」
力押しの命令を下すラムセアル。その考え方は間違っていない。無重力状態の中で艦を爆砕すれば、砕けた艦体は爆発によって生じた慣性で、障害となっていた元の位置に留まることなく、彼方へと飛び去って行くからだ。そして案の定、まず重巡航艦らしい廃棄艦が、複数の戦艦からの主砲ビームに中央部で大爆発。五つに砕けた艦体は、それぞれが別々の方角へ飛んで行く。
「ふ…この通りというわけだ。つまらぬ時間稼ぎを…」
一隻目を上手く排除して、ラムセアルは嘲りの笑みを浮かべた。所詮は時間稼ぎだろうが、大したことはない…と続けて考える。ところがその直後、二隻目となる軽空母が爆発した際、異変が起きた。
▶#38につづく
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