銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第3話:スノン・マーダーの一夜城

#39

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 キノッサをはじめ、“一夜城”を守備した多くの将兵が、疲労の極みで眠っている間にも、ノヴァルナはさらなる行動を取っていた。

 まず自身が直率する第1艦隊は、確保した“一夜城”の防衛任務に就き、イースキー側の攻撃に備えさせる。
 そして第1艦隊から見て、“一夜城”の後方約八千万キロの位置に、廃棄艦集団を遠隔操作して来たヨヴェ=カージェスの、『クォルガルード』以下戦闘輸送艦六隻が、積載していた資材を使って、早くも宇宙城の基礎部分を組み立て始めた。この『クォルガルード』型戦闘輸送艦は、作業用の大型ロボットアームを装備しており、工作艦としての能力も有している。

 その一方でカーナル・サンザー=フォレスタの第6艦隊は、すぐさま現地を離れた。『スノン・マーダーの空隙』の“下流”方向で、イースキー側の恒星間防衛艦隊と対峙したままの、築城部隊を迎えに行ったのだ。築城部隊は戦力的にはウォルフベルト=ウォーダの第5艦隊と、シウテ・サッド=リンの第7艦隊がおり、数では劣っても、火力的には恒星間防衛艦隊三個よりは上だったが、こちらにはメインの築城資材を積んだ、本命の輸送艦隊がいるため、迂闊に戦闘に入る事は出来ないのである。

 しかし結果的に、ノヴァルナの対策は杞憂に終わった。

 イースキー側の『スノン・マーダーの空隙』失陥に対する反応は消極的で、第1艦隊が備えていた新たな迎撃部隊は出現せず、築城部隊と対峙していた恒星間防衛艦隊は、サンザー艦隊が到着する前に逃走。応援に向かっていたサンザー艦隊は途中で、向こうからやって来る築城部隊と鉢合わせする事になったのだ。

 だが実は、このノヴァルナの第1艦隊だけが、“一夜城”の護衛に残っていた間の時間こそが、イースキー家にとって最もチャンスだったのである。
 消耗しきった“一夜城”の火力はあてに出来ず、本城の建設作業に入っている戦闘輸送艦も六隻足らず。第6艦隊も不在の状況で、例えば“ミノネリラ三連星”などの歴戦部隊に一斉に押し寄せて来られると、如何にノヴァルナであっても敗走、最悪の場合討ち取られていたかもしれない。

 そしてイースキー家にも、このチャンスに気付いている者がいた。ノヴァルナの意図を悉く見抜き、ミノネリラ進攻を阻止して来た若き将デュバル・ハーヴェン=ティカナックだ。
 ハーヴェンの才の恐ろしさは、『スノン・マーダーの空隙』にウォーダ軍のものと思しき基地が、忽然と姿を現したという報告を聞くなり、基地の移動手段を推理するより先に、これはノヴァルナ・ダン=ウォーダを討つ機会となると、考えた事である。
 
 こういった大掛かりなトリックまがいの作戦を仕掛けて来る際は、必ずノヴァルナ自身が最前線まで乗り込んで来ると読んだハーヴェンは、舅のモリナール=アンドアを通じ、“ミノネリラ三連星”を含む全力出撃を、主君オルグターツ=イースキーに進言した。

 ところがその意見具申をまず受けるのが、側近のビーダ=ザイードとラクシャス=ハルマである事が問題だった。
 二人は自分達の子飼いの武将の、セレザレスら三人が“一夜城”をすぐ陥落させ、たとえノヴァルナが艦隊を率いてやって来ても返り討ちにするに違いないと、たいした根拠もなく考えたのである。それに何よりハーヴェンが、自分達に批判的な“ミノネリラ三連星”ら“旧主派”に属しながら、功を重ねて頭角を現して来ているのが気に入らない。
 そう言った極めて私的な理由で、ハーヴェンの進言を伝えに来たアンドアには、「早速、オルグターツ様のお耳に入れますわ」と応じ、そのまま握り潰してしまったのであった。もっともビーダとラクシャスが進言しても、酒とドラッグと色欲に溺れるばかりのオルグターツは、面倒臭そうに「おまえ達に任せる」としか告げぬであったろうが………



皇国暦1562年4月5日15:40―――

 本命の築城部隊も到着し、第1・第5・第6・第7の四個基幹艦隊が揃うと、ノヴァルナは『スノン・マーダーの空隙』確保を宣言した。“フォルクェ=ザマの戦い”でイマーガラ家を破って以来、一年半をかけてようやくミノネリラ進攻の、本格的な橋頭保を手に入れる事が出来たのである。

 そしてキノッサは、ハートスティンガーやティヌート=ダイナンら四人の協力者達と共に、総旗艦『ヒテン』に招かれていた。ノヴァルナの待つ執務室へ向かうキノッサは、珍しく…いや、初めてウォーダ家の紫紺の軍装に身を包んでいる。これまでは事務補佐官であったために、動きやすい作業着だったのだが、ノヴァルナの「これを着て来い」との伝言付きで、軍装を支給されたのだ。

 しかしながら…どう見ても不似合いである。事実、着替えに手間取り、待合室に一番遅れて入室した時などは、ハートスティンガー達全員が噴き出して笑い転げ、元イル・ワークラン=ウォーダの家臣であった実直なダイナンまでが、笑いをこらえきれなくなっていたほどだ。

 今も笑い出しそうになっているハートスティンガー達を連れ、ノヴァルナの執務室の前に到着したキノッサは、背後の“笑いをこらえている空気”を感じ、ハートスティンガー達をひと睨みしてから、インターホンを押して申告する。

「トゥ・キーツ=キノッサ以下六名。参上致しました!」
 
 スピーカーからノヴァルナの「おう。入れ!」という威勢のいい声が返ると、キノッサは「失礼致します!」と言い、入室する。するとその途端、正面の執務机にいたノヴァルナの、「ウッぷ!…」と噴き出すのをこらえる表情が眼に映る。初対面となるハートスティンガー達がいなければ、この失礼な主君は、指を差して大爆笑していたに違いない。

「キノッサ。参りました!」

 ツカツカと歩み寄ったキノッサが背筋を伸ばして申告すると、「お…おう」と、どうにか可笑しさを抑え込んだ表情でノヴァルナは応じる。それに話が本題に入ると、さすがに表情も真剣なものとなった。席を立って凛とした声で告げる。

「まずはキノッサ。良くやった!」

「はっ! ありがとうございます!」

「キノッサに協力してくれた皆にも、厚く礼を言う。多大な損害を出しながら、よくぞ仮設基地を確保してくれた。このノヴァルナ、心から感謝し、また死んでいった者達を深く哀悼させて頂く」

 ハートスティンガー達の一人一人の眼を見て述べたノヴァルナは、最後に深く頭を下げた。裏社会に生きるハートスティンガー達であるから、人を見る眼はある彼等だ。ノヴァルナの星大名家当主としては、似つかわしくないとすら思える真摯な態度に、全員が感じ入った。武家でもあるハートスティンガーが代表して応じる。

「ノヴァルナ公の御言葉、恐悦至極にて。公の御人柄に、死せる者も報われた思いにございます」

 ハートスティンガーの言葉に頷いたノヴァルナは、彼とその協力者に厚く報酬を与えること、そしてウォーダ家に仕官を望む者には、今の立場に応じた地位を与えて遇することなどを伝え、ハートスティンガーら五人はその場で、仕官の希望を申し出て受諾された。さらにハートスティンガーらを喜ばせたのは、惑星ラヴランにいる難民や、協力者たちの関係者―――銀河皇国の市民権を失った者に、その復活をノヴァルナが確約した事であった。

 その後、仕官等の手続をすぐに始める事と、いずれ然るべき祝宴の場を設ける事がノヴァルナから告げられ、ハートスティンガー達はキノッサを残して退出する。キノッサにとってはここからが本題だ。

「サルっ!!」

「はいっ!」

 ところがノヴァルナは、話をいきなり脱線させた。

「まずはてめーに、見せたいもんがある!」

「は?」

 眼を白黒させるキノッサを前に、ノヴァルナは執務机に取り付けられている、インターホンのスイッチを入れて、「入って来い」と命じる。すると隣の休息室と繋がるドアが開き、ウォーダ家で一般的に使用している、量産型汎用アンドロイドが入って来た。
 “えっ…?”と思うキノッサに向けて、その量産型アンドロイドが聞き覚えのある口調で話しかける。

「やぁ。お猿」




▶#40につづく
 
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