銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第4話:ミノネリラ騒乱

#04

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 またしてもハーヴェンに出し抜かれた!…『ヒテン』の司令官席に平然と座りながらも、ノヴァルナの内心は当然の如く穏やかではない。ましてや、BSI部隊のみを別動隊として伏せておくのは、昨年の11月末にウモルヴェ星系の戦いで、自分がイースキー軍に対して使った戦法ではないか。

 周囲を守る壁を失ったノヴァルナの第1艦隊へ、ハーヴェンはモリナール=アンドアの旗艦から、落ち着いた口調で次の命令を出す。

「第7、第14、第15、第19宙雷戦隊は、敵第1艦隊へ向け突撃。イナルヴァ艦隊の突破口を作り出せ」

 ハーヴェンの戦術の最終的な局面は、少ない戦力の中でウォーダ軍の攻勢を上手くいなし、ノヴァルナの第1艦隊に、一番強力な攻撃力を持つイナルヴァ艦隊を、出来るだけ短時間に、一対一の状況でぶつけるというものであった。戦力的に見ると、やはり自分達が数的不利であるのは事実で、奇襲じみた戦法で翻弄したところで、やがては数で押し返されるのは間違いないからだ。

 命令を受けた四つの宙雷戦隊が、それぞれに単縦陣を組んで、四本の強弓のように飛び出して行くのを見ながらハーヴェンは思った。

“それでもやっぱり…ノヴァルナ様はお強い”

 ここまでの作戦は、大筋では上手く行っている。だがそれでも、自身が想定したタイムスケジュールとの遅れが目立ち始めていた。その要因はウォーダ軍の粘り腰にある。こちらの奇策で緒戦から翻弄されはしたが、根っこの部分で崩れないのである。いま四つの宙雷戦隊に突撃を指示したのも、ノヴァルナの第1艦隊の前面にいる部隊を、崩し切れていないからだ。


“オ・ワーリの兵はそれほど強くはないと聞くが、強将のもとに弱兵なし…これもノヴァルナ様の存在が、そうさせているのだろうな…”


 事実、オ・ワーリの軍自体はそれほど強くはない、これはオ・ワーリ宙域が銀河皇国の版図の中でも比較的古い植民宙域で、開拓の進んだ豊かな植民星系が多く、領民性が穏やかであるからと言われている。それでもこの粘り腰のように、強さを見せるのは、おそらく今のウォーダ家が、ノヴァルナのもとで一枚岩になる事に成功したからだろう。分裂し、長年内紛を続けて来たウォーダ家を、一つに纏めた手腕、そして将兵がそれを支持しているのは、ノヴァルナ・ダン=ウォーダがそれを為すだけの、器量を有しているからに他ならない。

 翻って我がイースキー家はどうであろうか…と、ハーヴェンは暗鬱な気分で思考を巡らせた。主君は放蕩に耽り、二人の側近は国政を壟断し、家老や文官の間では政治汚職が広まり、軍は派閥化が進んでいる………
 
 ハーヴェンが何よりも失政だと思ったのは昨年、皇国暦1561年の7月にミノネリラ宙域内の、ウモルヴェ星系第四惑星カーティムルで起きた、惑星全土に及ぶ火山の大量噴火災害だ。
 この大災害に対し、政治の実権を握っている二人の側近、ビーダ=ザイードとラクシャス=ハルマは現地行政府に救援活動を命じただけで、それ以上なんの施策も行わなかったのである。

 そしてこれが結果的に、ミノネリラ宙域にウォーダ家を招き入れる事になった。カーティムルを脱出した難民達は、領主のイースキー軍ではなく、隣国のノヴァルナを頼ったからだ。そしてノヴァルナは11月に大規模な救援部隊を派遣。その指揮をかつての領主ドゥ・ザン=サイドゥの娘で、領民にも人気であった、妻のノアに執らせた事で絶大な支持を得たのだった。

 自ら先頭に立って、献身的に救援活動を指揮するノアの姿に感銘を受けたのは、カーティムルの被災者だけに留まらず、周辺の植民星系や独立管領星系の住民も同じであり、戦略的に重要ではないものの、ノヴァルナはミノネリラ宙域に支持基盤を築く事に成功した。

 しかもその一方、事もあろうかイースキー家はカーティムル救援ではなく、主君オルグターツの個人的欲望に基づく命令で、ノア姫の拉致を目的に四個もの迎撃艦隊を差し向けたのだ。
 無論、そのような破廉恥な目的がある事など、情報統制で秘匿されてはいたが、ウォーダ家に敗北したイースキー軍の捕虜の口から、その話は野火のように広がって行ったのである。


“あまりにも違う主君の格…このような事でいいのか…”


 ハーヴェンがそう思った直後、オペレーターが報告する。

「敵第1艦隊より、艦載機第二波発艦。『センクウNX』の識別信号、『流星揚羽蝶』の金紋確認」

 我に返ったハーヴェンは「潮時だな」と呟いた。やはり時間が掛かり過ぎたようだ。ノヴァルナが専用機で出て来たあとは戦場が荒れる。何を起こすか予測不能だからである。正直ハーヴェンにとって、これが一番怖い。

「撤退する。全部隊に伝達」

 淡々と告げるハーヴェンに、アンドア付きの参謀が“よろしいのですか?”という眼を向ける。まだ戦果を上乗せする機会がありそうだからだ。しかしハーヴェンは淀みなく応じた。

「もう少し…と思う、そこが落とし穴になる。撤退でいい」

 流れるような敵の撤退行動を見たノヴァルナは、『センクウNX』のコクピットで舌打ちし、苦笑する。同じく専用機で出撃していた、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータが「敵が撤退して行きますぞ」と通信を入れて来ると、ノヴァルナは苦々しげに言い放った。


「バーカ。ああいうのは“撤退”じゃなくて、“勝ち逃げ”ってんだ…」



▶#05につづく
 
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