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第4話:ミノネリラ騒乱
#11
しおりを挟むノヴァルナ達が真摯な態度で現状に臨んでいる一方、イースキー家の迷走…いや二人の側近ビーダ=ザイードとラクシャス=ハルマの暴走は、6月に入ってもはや留まるところを知らなくなってきていた。
二年前に実権を握るようになって早々に行った、領民への大幅増税。それを財源にして6月15日、ビーダとラクシャスは『ミノネリラ宙域開発五か年計画』なるものを、イナヴァーザン城で発表する。
これはミノネリラ宙域内にある、居住可能な惑星を有する恒星系を二十二個、新たに植民星系化し、宙域全体の経済力の底上げを図るというものである。移民と予算を集中して投入し、短期間で各新興植民星系の支出を黒字へ転換。第一期開拓が終了した時点で、税率は以前の数値に戻すという話だ。
上辺を聞くだけなら理解できなくはない政策だが、これが発表された大会議室では、直後に反対の声が上がった。“ミノネリラ三連星”をはじめとする、サイドゥ家時代からの重臣達からだ。その理由は、先日この話をビーダから聞かされたデュバル・ハーヴェン=ティカナックが、不審に思ったのと同じ理由である。
ミノネリラ宙域に植民星系の数は、現状で足りている―――
これが理由の全てである。植民星系を増やすのはよいが、移住する人間はどうするつもりか?…リーンテーツ=イナルヴァがそのように問い質すと、ビーダは“もちろん、現有の植民惑星から抽出するのですわ”と告げる。
そしてこの素人丸出しのビーダの返答が、言葉の応酬を呼び込んだ。簡単に現有植民惑星から移民を抽出すると言うが、短期間で黒字への転換を目指すとなれば、各惑星に初回植民として、最低で五百万人の人間が必要となって来る。そしてそれが惑星二十二個分となれば、一億一千万人もの人間を移住させる事になるのだ。
これだけの数の人間を移住させるとなると、ミノネリラ宙域全体が大混乱に陥るのは必然だった。現在、ミノネリラ宙域にある植民星系は四十三。単純計算すると現有植民星系一つから、約二百六十万人もの人間が引き抜かれる事になり、現有植民星系までも社会的・経済的に大きなダメージを受ける。
簡単な話だ。しかし旧サイドゥ家時代の重臣達がそれを訴えても、ビーダとラクシャスは聞く耳を持とうとしない。それに会議の場には、ビーダとラクシャスの子飼いの家臣達が、かなりの数加わるようになって来ており、それらがビーダとラクシャスの計画に、こぞって賛同したのである。
結局、旧サイドゥ家重臣達の反対は押し切られ、『ミノネリラ宙域開発五か年計画』は七月一日に公布と同時に施行される事が決定する。
そしてその夜、イナヴァーザン城の広大な敷地内にある、モリナール=アンドアの屋敷に、旧サイドゥ家重臣が集まっていた。深刻さが増す一方のイマーガラ家の現状に、どのように対処するかを打ち合わせるためだ。開口一番、リーンテーツ=イナルヴァが吐き捨てるように、ビーダとラクシャスを批判する。
「あの奸臣どもめ。主家を完全に私物化しおって!」
アンドアの屋敷の応接室は、比較的多めの人数も入れるようになっており、さながら小会議室のようであった。“ミノネリラ三連星”の他は六人、その中にはハーヴェンもいる。
「リーンテーツ。我等は愚痴を言いに集まったのではないぞ」
一番不満を溜め込んでいそうなイナルヴァに、アンドアは機先を制して本題から外れるのを防ぐ。「わかっとるわい」とバツが悪そうに座り直すイナルヴァ。
「そもそもオルグターツ様は、今の状況をどこまで把握されておられるのか?」
眼光鋭く言うのは“ミノネリラ三連星”の一人、ナモド・ボクゼ=ウージェルである。三連星の中では一番若い黒人武将だ。
「なにも把握されているはずがあるまい―――」
吐き捨てるように応じるのは、『シン・カーノン星団会戦』で三連星と組み、ノヴァルナに勝利したダルノア=サートゥルスだった。
「聞くところによるとオルグターツ様は、先日の『シン・カーノン星団会戦』の勝敗どころか、『スノン・マーダーの空隙』を奪われ、ウォーダ家の拠点を築かれた事すら、耳に入っていないらしい」
これを聞いて口を開いたのは、セーリン=マクシミリアム。ドゥ・ザンに従っていたミノネリラ宙域の独立管領の一人だ。
「それではオルグターツ様は、現状をどう思われてあそばすのか?」
「どうもこうもあるか、ミノネリラは安泰、世は太平なり…よ」
イナルヴァは天井を見上げ、肩をすくめて言い放つ。するとアンドアが僅かに身を乗り出して尋ねた。
「“ウモルヴェ星系会戦”はどうなのだ? あの戦いでは…その…オルグターツ様は、ノア姫様を捕えて来るよう、戦死した司令官達に命じていたではないか?」
些か下衆な話で言い難くそうなアンドアだが、確かにノア姫の捕縛はオルグターツが、直接命令したものである。そしてウモルヴェ星系周辺はすでに、ウォーダ家を支持するようになっていた。
ところがアンドアの問い掛けは、サートゥルスの言葉によって、簡単に空回りで終わった。
「それなら聞いたさ。四人の司令官は命と引き換えに、ウモルヴェ星系からウォーダ軍を排除したものの、ノア姫は取り逃がした…ザイードとハルマは、オルグターツ様へそのように報告したそうだ」
イースキー家内で勢力が縮小していく一方の彼等だが、それでも古参の武将として、個々に情報源となる使用人や城の職員などはいる。それらによってオルグターツやビーダとラクシャス、さらにその取り巻きの動向は、断片的にだが伝わって来ていた。
現在のイースキー家で一番の問題であるのは、オルグターツが孤立している事であった。“孤立”というと語弊があるかもしれないが、ビーダとラクシャスに政治の全てを任せているため、現在のミノネリラ宙域の状況も、ビーダとラクシャスの口を通して、情報を得ているだけなのである。
したがってオルグターツに与える情報は、ビーダとラクシャスによって取捨選択されており、オルグターツに対しては耳触りが良く、二人には利となるものに限られてしまっていた。
「どうにかオルグターツ様に、ミノネリラ宙域の真の実情をお知らせできれば、まだ可能性はあるのだがな…」
難しい顔になって腕組みをするウージェル。サートゥルスは首を振って応じる。
「だがそれが一番の難題だぞ」
この言葉に、居合わす誰もが溜息をつく。この話はいま続けても堂々巡りにしかならないと感じたアンドアは、話題を植民星系の増加計画に向ける。
「しかし植民星系を二十二も増やすとは…浅はかな考えこの上ないが、なぜあんな事を言い出したんだ? あの二人は」
するとここまで発言を控えていたハーヴェンが、落ち着いた口調で告げる。
「子飼いの武将に、褒美として与えるためですよ」
「なに…?」とイナルヴァ。
「前回の『シン・カーノン星団会戦』が終了した直後、私もザイード殿から打診されましたから」
「貴殿にか?」
ハーヴェンの舅であるアンドアが、困惑気味に問う。
「ええ…もっとも、準備段階の計画をうっかり口に出してしまったため、それを取り繕おうとしたように見受けましたが…」
「つまり…領地をくれてやるから、味方になれという事か」
イナルヴァがそう言うと、ハーヴェンは無言で頷いた。
▶#12につづく
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