銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第4話:ミノネリラ騒乱

#14

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皇国暦1562年6月27日―――

 ビーダ=ザイードとラクシャス=ハルマの排除計画が、イースキー家重臣達の間で進んでいる一方、ナルガヒルデ=ニーワス、コーティ=フーマとともに誘引外交活動を行っていたトゥ・キーツ=キノッサは、早くも成果を上げていた。6月22日のマトゥーラ星系の独立管領リティ・ゲルバ=トボルに続き、この日はウネマー星系の独立管領、ジローザ=オルサーのウォーダ家への寝返り誘引に、成功したのである。

「いや、これは本当にありがたい事ですオルサー様。オルサー様のご英断で、無駄な血が流れる事を避ける事ができました」

 ウネマー城の会議室でオルサーと向かい合ったキノッサは、平身低頭、何度も頭を下げた。対するオルサーはキノッサはとは父親ほども歳が離れていたが、恐縮する事しきりで「いやいや、なんの」と、キノッサが頭を下げる度に、右手を左右に振る。

「わたくしとしては、“名高きノヴァルナ公の軍と、一戦交えるのもまた一興”と思うておりましたが、ここで死なせては家臣達もまた哀れと思い直し、賛同致しました」

「そのご英断こそが、双方の多くの将兵の命を救ったのです。ノヴァルナ公もさぞお喜びになられる事でしょう」

 左側にコーティ=フーマ、右側にナルガヒルデ=ニーワスを置いて座るキノッサは、再びオルサーへの賛辞を口にする。これまでにも述べて来た通り、時には慇懃過ぎるように思えるキノッサの態度だが、それを受ける相手は不思議と、不快感を感じないのである。キノッサの“人たらし”たる所以だろう。

 この数日前に誘引に成功したリティ・ゲルバ=トボルのマトゥーラ星系と、このオルサーが統治するウネマー星系は、共にミノネリラ宙域とオウ・ルミル宙域との国境付近に位置しており、イースキー家とロッガ家を結ぶ航路の要衝であった。したがって、ロッガ家の動きを警戒しているノヴァルナにとって、この二つの独立管領を味方につけるのは、大きな意味がある。
 特にここウネマー星系は一個だけだが強力な恒星間打撃艦隊を保有し、ウォーダ軍がイースキー家の本拠地惑星バサラナルムを攻略する際、側面を突かれる恐れがあった。ノヴァルナがハーヴェンに敗れた先日の戦いで、戦場をシン・カーノン星団としたのも、このマトゥーラ星系とウネマー星系の存在が、進軍路の選択肢を減らしたというのが一因だ。

「ときにキノッサ殿はお若いですな。お幾つになられます?」

 交渉が一段落したところで、オルサーは話題を非公式レベルのものに変える。この問いにキノッサは、少々照れを見せながら応じた。

「はあ…二十一です」
 
 キノッサの年齢を聞いたオルサーは「ほう」と、僅かに眼を見開いた。キノッサはどちらかというと老け顔で、実年齢よりも上に見られる事が多くある。ノヴァルナに与えられた職務の性質上、若く見られない方が有利ではあったのだが、そのぶん、実際の年齢を尋ねられると、気負いと恥ずかしさを感じるのであった。しかしオルサーの方はむしろ、感心したように反応する。

「その若さで、ノヴァルナ公から全権を預けられておられる…公は余程、キノッサ殿をご信頼あそばされておられるのですな」

 それを聞いたキノッサは一瞬、座ったまま席から跳ね上がりそうになって、慌てて右手を振りながら否定する。その顔は真っ赤だ。

「いっ!…いえいえいえいえ!! 俺っち!…いえいえいえいえ!! わたくしめはノヴァルナ様の、ただの使いっパシリにございます!!」

 キノッサの慌てように、左隣のコーティ=フーマは噴き出しそうになったのを、必死に堪える。右隣のナルガヒルデ=ニーワスは対照的に、僅かに口元を緩めただけだった。オルサーは「ハッハッハッ…」と笑い声を漏らして応じる。

「そうご謙遜なさらずに」

「いえいえいえいえ!!…そもそも今回のこのお話もこちらにいるフーマ様が、事前に御家との交渉を、ほとんど済ませておられたおかげでして、実際のわたくしめの役目は、その確認作業で参上しただけにございます!」

 何かにつけて抜け目がなく、話術に長けた“人たらし”のキノッサだが、こういう純朴な面を残しているのも確かであり、それがまた人を惹き付ける要因となっていた。オルサーは気付きを与えるように言う。

「さよう。その確認作業に、キノッサ殿が選ばれた事が重要なのです」

「は?」

「今のキノッサ殿はスノン・マーダー城々主。つまりこのウネマー城々主の私と同格の肩書を得ておられる…しかしその前までは、ノヴァルナ公の事務補佐官。そうでしたな?」

「仰る通りで」

「もしも今回のお話の最終確認で、ノヴァルナ公の名代として参られたのが、ただの“事務補佐官”のキノッサ殿であったなら、私は交渉は決裂したものと見なし、キノッサ殿を門前払いにしておったでしょうな」

「!!」

「つまり、城を与えられる…肩書を得るとは、そういう事にございます」

 なるほど…とキノッサはようやく自分が得たものを実感した。ミノネリラ宙域からの亡命者であるフーマは領地の星系を失っており、実質キノッサよりノヴァルナの信頼が厚いであろうナルガヒルデだが、いまだ城持ちには至っていない。そうであるからこそ、城持ちの自分がこの誘引外交部隊の代表に、据えられているのだ。

「オルサー様のお言葉に、身の引き締まる思いにございます。これからもご指導のほど、宜しくお願い致しまする」

 そう言ってキノッサが頭を下げると、オルサーは穏やかな笑みを浮かべて、「こちらこそ、宜しくお願い致します」と応じる。さらにオルサーはノヴァルナへの謁見を申し出た。

「つきましては、なるべく早くノヴァルナ公に、お目通り願いたいのですが…せっかちな性分にて、早めにノヴァルナ公より領地の安堵を認めて頂き、守りを固めたく思いますゆえ」

 オルサーの言い分はもっともだと、キノッサには思えた。イースキー家とロッガ家の連絡路上にある、戦略的要衝のウネマー星系がウォーダ家へ寝返る事は、逆に言えば敵中に孤立する事にもなる。そうであるなら、早期に防衛態勢を整えたくなるのが道理だ。

「人質もすぐに用意致します。キノッサ殿の方からも、お取次ぎ願えまいか?」

 断る理由はない、と考えたキノッサは快諾した。

「承知致しました。それぐらいならば、お安い御用です」



▶#15につづく
 
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