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第4話:ミノネリラ騒乱
#28
しおりを挟む皇国暦1562年11月13日―――
この日、ノヴァルナ側に寝返ったダルノア=サートゥルスは、領地であるカジーダ星系から艦隊を率いて出撃。バサラナルム方向へおよそ三百五十五光年進んだ位置にある、トミック星系へ向かっていた。この星系を領有するイースキー家の第7艦隊司令官、ブルティカ・ガルギウ=キーシャが、新たにイースキー家の筆頭家老となったトモス・ハート=ナーガイ率いる第2艦隊と、独立管領タジム家の艦隊の支援を受け、サートゥルス家討伐の動きを見せており、これに対して先制攻撃を企図したのである。
そしてサートゥルスの戦力は、自らが率いている艦隊だけではない。ウォーダ家からノヴァルナ自身が部隊を連れて加わっていた。その内訳はノヴァルナ直卒の第1特務艦隊、ナルガヒルデ=ニーワスが指揮を代行している第1艦隊、カーナル・サンザー=フォレスタの第6艦隊と強力だ。
その中でもノヴァルナ自身が出陣して来た事は、ダルノア=サートゥルスを大いに感激させていた。なぜならこういった寝返りに対し、敵が討伐部隊を送って来た場合、寝返った武将は自力で、敵討伐部隊を撃破しなければならないのが、普通であるからだ。それをもって寝返りが罠ではない事を、証明するのである。
だがノヴァルナは違った。自分自身を含め現在即応できる全戦力をもって、サートゥルスの支援に赴いたのだ。これは感激しないわけがない。
戦闘輸送艦『クォルガルード』に乗るノヴァルナは、第1艦隊の指揮を執るナルガヒルデと第6艦隊司令のサンザー。そしてサートゥルスとの間で、同時通信の話し合いをしていた。ノヴァルナが座る司令官席の周りに、各旗艦の司令官席に座る三人の等身大ホログラムが並び、対面での話し合いを行っているように見える。
「ではサートゥルス殿。作戦を一部、修正すべきと?」
問い掛けるノヴァルナに、サートゥルスは「さようです」と頷いた。
「偵察駆逐艦からの情報によると、トモスの第2艦隊は、いまだ領地のセーキァを出ておりません。おそらく我等がドボラ城攻撃に掛かるタイミングを見計らって、挟撃を行うつもりでしょう。ならばこちらはこれを阻止する別動隊を置き、敵を分断したまま、攻城戦を進めるが良作かと」
サートゥルスがそう言うと、ノヴァルナは「なるほど」と応じ、あっけらかんと続けた。
「では、その別動隊を私が引き受けましょう」
これを聞いてサートゥルスは顔を引き攣らせる。戦力的に戦闘輸送艦で編制したノヴァルナの直卒艦隊は、相当不利になるからだ。
「そ…それはお勧めできません!」
慌てて止めに入るサートゥルス。一方同席している二人…ナルガヒルデは小さくため息をつき、サンザーは苦笑しながら指で顎を撫でて、自分の主君に対し“また始まった…”という反応を見せる。サートゥルスはイースキー家の武将なのであるから、ノヴァルナの突拍子の無さに面食らっても致し方ない。
「サートゥルス殿。このノヴァルナを見くびられては困る」
不敵な笑みを浮かべて、いかにも冗談と言った口調でノヴァルナが言い返すと、サンザーが肩をすくめて言葉を繋げる。
「サートゥルス殿。我等が主君がこのように言い出すと、何を言っても無駄と知られるがよいでしょうな。鉄砲玉と同じというわけで」
「はぁ…」
戸惑うサートゥルスを傍らに、ノヴァルナはサンザーの今の言葉に文句を言う。
「あ、てめ。人をマフィアの下っ端みてぇに言いやがって!」
するとナルガヒルデが、眼鏡型NNL視覚端末を指先で鼻にかけ直して、珍しく冗談を口にした。
「まぁ、星大名家もマフィアと、同じようなものですが」
それを聞いたノヴァルナは口許を歪めて、納得顔で応じる。
「税金と称して領民からカネを搾り取って、他の星大名とは縄張り争いに明け暮れる…確かにマフィアとおんなじようなもんか!」
そして「アッハハハ!」と高笑いしたかと思えば、真顔でサンザーを見据えて自分の事を言い放つ。
「だけど、下っ端の鉄砲玉じゃねーし!」
ノヴァルナのツッコミに、今度はサンザーが「ハッハッハッ!…」と笑い声を上げ、ナルガヒルデも僅かだが笑みをこぼした。
「………」
ノヴァルナ達の掛け合いを見たサートゥルスは、あらためて自分達イースキー家が、どのような相手と戦っていたかを感じ無言になる。カーナル・サンザー=フォレスタはノヴァルナの父の代からの重臣で、ナルガヒルデ=ニーワスはノヴァルナの代になって頭角を現した女性武将。それが冗談を言い合い、主君の言葉に、ごく自然に笑顔を交わしているのである。
“そうであった…ドゥ・ザン様がご主君の頃のサイドゥ家も、かような家風であったものよなあ…”
遠い日を思い出し、サートゥルスは眼を細めると同時に、今のイースキー家の状況に苦い感情が混じり込む。今のイースキー家は個々が自己利益に走り、空中分解寸前となっている。自分がイースキー家を離れてウォーダ家を頼ったのも、自己利益と言われればそのまでだが、逼迫した領民達の生活を考えると、もはや限界だったのだ。
ダルノア=サートゥルスが領地とするカジータ星系は、比較的新興の植民星系であり、開拓に遅れが生じていた。これは旧領主のトキ家の内紛に巻き込まれて、開拓費の補助金支給が滞ったためだ。
そしてトキ家に成り代わってドゥ・ザン=サイドゥの時代になり、開拓が軌道に乗り始めたところで、今度はギルターツによるクーデターと、その子オルグターツへの政権移譲。さらにオルグターツ政権の急激な増税などの悪政で経済が悪化。領民達は貧困に喘ぐようになった。
そもそも星大名家の重臣はそれぞれに、自分が直接統治する植民星系を一つないし二つ領有する、独立管領的な側面を持っている。逆もまた然りで、元来独立管領であった者が、その宙域全体を支配する星大名家から重臣の地位を得て、従属している場合も多い。
このような彼等は、自分が属する宙域の領民の事を考えると同時に、自分が直接統治している、植民星系の領民達の事も考えなければならない。そしてこの二つのどちらに重きを置くかによって、判断と行動も変わって来るのである。サートゥルスの場合は、最終的に後者を優先させたというわけだ。
ひとしきり笑いを交わすと、ナルガヒルデは「冗談はさておき」と切り出して、ノヴァルナに問い掛けた。
「ノヴァルナ様だけでも、『ヒテン』に乗って頂けませんか? 第1戦隊をそちらに回しますし」
総旗艦『ヒテン』と大型戦艦六隻で編制された第1戦隊なら、防御力は軽巡並みでしかない『クォルガルード』に、ノヴァルナを乗せておくよりかは、幾何なりとも安心できる…ナルガヒルデの眼はそう語っている。しかしノヴァルナの返答は、あっけらかんとしたものだった。
「やなこった!」
その言い草に再び眼を丸くするサートゥルス。構わず続けるノヴァルナ。
「敵の一個艦隊の足止めぐれぇ、俺の1特艦(第1特務艦隊)だけでも出来らぁ。それよか、ドボラ城にいるキーシャって奴は強ぇらしいから、そっちに集中しろ。だいたいおめーは連戦になるんだし、ぬかるんじゃねーぞ!」
ノヴァルナの言葉通り、実はナルガヒルデの第1艦隊は二週間前に、独立管領タジム家の根拠地カチュア星系の、宇宙要塞ザルバミズを攻略したばかりであり、応急修理を施しただけの損傷艦も、艦隊に加わったままだったのだ。
だがこのザルバミズ陥落によるナルガヒルデの勢力圏拡大が、サートゥルスの寝返りのきっかけとなったのであるから、その功は大きいと言えた。
▶#29につづく
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