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第4話:ミノネリラ騒乱
#34
しおりを挟む一方ノヴァルナの『センクウ・カイFX』は、護衛のスレイヤー中隊と共に、ドボラ宇宙城攻防戦の場へ到着していた。
黄緑色の度合いが強いトミック星系第五惑星ドボラの、衛星軌道上に浮かぶ巨大な宇宙城の周囲では、数えきれないほどの爆発の閃光が瞬いている。ここでノヴァルナは自らの位置を隠す事無く、敵味方のモニターに堂々と、ウォーダ家当主を示す金の『流星揚羽蝶』のマーカーを表示させながら戦場を駆け巡り、戦術状況ホログラムの表示するデータと突き合わせながら陣頭指揮を開始した。
「第2戦隊、第3戦隊。宇宙城の指定ポイントへ、艦砲射撃を集中しろ」
宇宙城の実際のダメージ状況を自分の眼で見て、ノヴァルナはより効果的と思われる箇所へ、攻撃を集中させるよう命じる。
「第12宙雷戦隊、第16宙雷戦隊。突出した敵宙雷戦隊へ突撃。敵の防衛ラインに穴を開けろ」
さらにノヴァルナは、宇宙城を防衛しているイースキー艦隊の隙を指摘。風穴を開けようともした。ただやはり、『流星揚羽蝶』の金紋を表示させているのは、目立つ。宇宙城からの射撃が『センクウ・カイFX』を狙うようになり、敵のBSI部隊が群がり始める。そうなると忙しいのが、『センクウ・カイFX』を護衛するスレイヤー中隊だ。中隊長は配下の機体に命じた。
「全方位より敵機が来る! 各機は視界を広く取り、ウイザードゼロワンに近づけるな!」
ウイザードゼロワンは『センクウ・カイFX』の符牒である。そのノヴァルナ当人は、宇宙城からのビーム射撃を右へ左へ回避しながら、お気楽に口を挟む。
「敵は通しても構わねーから、みんな、死ぬんじゃねーぞ」
とは言え主君を護衛している立場で、そのような言葉に従えるはずもなく、間合いを詰めて来る敵機に対し、迎撃行動を取った。ビームを連射しながら接近する、攻撃艇やASGULに銃撃を浴びせて、近接戦闘を挑んで来るBSIユニットに対しては、ポジトロンパイクやクァンタムブレードで応戦する。
スレイヤー中隊の動きは素晴らしく、中には『ホロウシュ』と遜色のない、高機動戦闘を行う者もいた。これを見てノヴァルナは、「へぇ…」と呟きを漏らすと、特に動きのいいパイロットの何人かをピックアップ、その機体ナンバーをメインコンピューターに記憶させる。
そんな時に現れたのが、敵将ブルティカ・ガルキウ=キーシャの乗るBSHO、『キンショウWS』であった。
ブルティカの『キンショウWS』の接近は、ノヴァルナもすぐに勘付く。十機ほどの護衛が付いているようだ。ノヴァルナ側の護衛であるスレイヤー中隊もこれに気付き、中隊長が味方機に警告する。
「スレイヤー中隊全機に告ぐ。敵のBSHOとその護衛の小隊規模が接近。迎撃できる機体は、態勢を整えろ!」
とは言うものの、スレイヤー中隊で敵BSHO小隊の迎撃を行える者は、少なそうである。全機がすでにノヴァルナを狙って殺到して来ている敵機と、交戦中だからだ。この状況を理解しているノヴァルナは、中隊長へ連絡を入れる。
「スレイヤーリーダー、俺も迎撃に加わる。部下に無理はさせんなよ」
恐縮しながらも、積極的に戦闘へ参加しようとするノヴァルナを、諫めて来る中隊長。
「しかし…それでは殿下の御身への、危険が増す事になります!」
もちろんノヴァルナが聞き入れるはずが無い。
「こまけー事は気にすんな。俺は敵のBSHOを叩きに来たっての」
そう言うと、わざわざ自分から敵のBSHOの反応へ向かって、飛んでいくではないか。中隊長は本来ノヴァルナの護衛に付いている『ホロウシュ』に、“いつもこんな調子じゃ連中も大変だな…”と同情心を覚えて、ノヴァルナの『センクウ・カイFX』のあとを追った。
すると程なくして、ノヴァルナと敵将ブルティカは戦場の真ん中で接触した。距離二千でノヴァルナは超電磁ライフルを三発、四発と放つ。無論、命中は期待していない。景気づけ、あるいは挨拶代わりといったところだ。予想通り、難なく回避したブルティカの『キンショウWS』から、反撃の銃弾が届けられる。不敵な笑みと共に操縦桿を倒し、ノヴァルナはブルティカからの三発の銃弾を掻い潜った。そして全周波数帯通信で呼びかける。
「ブルティカ・ガルキウ=キーシャ殿! 聞こえるか!?」
五秒…六秒…と時間が過ぎ、応答がある。
「これはノヴァルナ公。御自ら最前線にお出ましとは」
「悪いようにはしない。降伏されよ!」
互いに機体で幾つもの弧を描きながら、ノヴァルナとブルティカは交信した。
「それはお断り申す。ニーワス殿へすでに返答済みの事にて」
「だからもう一度、こうして勧めている。貴殿のような剛の者を、このような不毛な戦いで失うのは惜しい」」
「有難きお言葉なれど、意地を通すは武人の本懐。それに我等にも勝機が見えて参りましたゆえ、降伏など夢にも思わぬこと」
「勝機?」
ノヴァルナがそう言うと、ブルティカの『キンショウWS』は、一瞬で間合いを詰めて来る。
「さよう。我等が勝機とは、ノヴァルナ公が最前線へ出て来られた、今!」
声量を上げたブルティカは、『キンショウWS』のライフルを放つと、一気にノヴァルナとの間合いを詰めて来た。その動きは直線的だったが、速度が桁違いで、ノヴァルナがライフルの照準を付ける前に、斬撃距離まで詰められる。両手で短く握ったポジトロンパイクを突き出して、機体同士をぶつける勢いで突進する『キンショウWS』。
「ち! 速えぇ!」
咄嗟に操縦桿を操作し、ノヴァルナは『センクウ・カイFX』の機体に、捻り込みをかける。紙一重で突きを回避され今度はブルティカが舌打ちする番だ。
「躱した!?」
そして二機とも、振り向きざまの一瞬に放った、次の斬撃の刃が合し、双方ともが息を合わせたように離脱。間合いを取り直す。警戒センサー画面に流れる数値の中から、必要なものだけを眼で追いつつ、サイバーリンクで『センクウ・カイFX』の姿勢制御を行ったノヴァルナは、『キンショウWS』の未来予測位置へ向けて、超電磁ライフルを三発放った。それぞれを微妙に角度を変えたのは、敵機のコース取りの可能性が高いものを、三つ選択したからだ。
一連の動作を瞬時に行ったノヴァルナは、スロットルを絞って前方へ反転重力子を放出。それを“足場”に急角度で旋回、そこから加速する。全周囲モニター上を右往左往する無数の星々。急な挙動は、『キンショウWS』がこちらの射撃を回避し、反撃して来た場合に備えてだ。果たしてノヴァルナの予想通り、三発の銃弾を全て回避して反撃した『キンショウWS』の銃弾が、ノヴァルナが機体を鋭角旋回させなかった場合に、通過していたであろう位置の虚空を貫く。
「ふん。そうでなきゃ、BSHO乗りじゃねーからな」
自分の銃撃が回避される事も、即座に反撃の正確な銃弾が浴びせられる事も、想定の範囲内であったノヴァルナは、コクピットで独り言ちた。それはおそらくブルティカ方も同じように思っているはずだ。
“だったら少し、機体の出力を上げてみっか”
今度は声には出さず、脳内で呟いたノヴァルナは、『センクウNX』のものとは形状が変わっているスロットルレバーに、新たに取り付けられたセレクターを、十分間のみ使用可能な“高機動戦闘モード”に切り替えた。
「高機動戦闘モード、スタート」
女性の声がモードの切り替えを告げ、コクピットの左右モニターに並んだ各システムの出力表示の形状が、より高出力まで表示できるものへ変換。機体外部でも、ライトグリーンに輝いていたスリット状の頭部センサーアイが、高機動戦闘モード用のものへ切り替わって見開いたようになり、色もコバルトブルーへと変化した。
▶#35につづく
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