銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第5話:ミノネリラ征服

#01

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 銀河皇国中央部で新たな暗雲が広がり始めた日から、遡ること二十と四日。皇国暦1562年12月12日。戦闘輸送艦『クォルガルード』と七隻の同型艦は、二列縦隊で中立宙域を航行している。

 彼等はウォーダ家第1特務艦隊の中核を成す八隻だが、普段なら護衛に付く二個の宙雷戦隊の姿が無い。銀河皇国が設定した中立宙域には、基本的に軍艦の乗り入れが禁止されているからだ。それゆえに『クォルガルード』型のみで航行しているのであり、“戦闘輸送艦”という怪しげな艦種も、そもそも中立宙域で活動する場合の方便として設定されたものである。

 そして八隻の『クォルガルード』型戦闘輸送艦の目的は、ウォーダ家の姫フェアン・イチ=ウォーダを、オウ・ルミル宙域ノーザ恒星群星大名アーザイル家に、嫁として送り届けること…いわゆる“輿入こしいれ”であった。

 平和な時代であれば華やかな嫁入り御料を、戦闘輸送艦隊などという無粋な船団で送り届けたりするはずもないが、戦国の世ともなればそうはいかない。特に今回は現在のウォーダ家にとっての敵対勢力である、ロッガ家の勢力圏を通過する必要があり、人質目的の襲撃も予想され、もはや軍事作戦の様相を呈している。

 このような“イチ姫輿入れ作戦”であるから、兄のノヴァルナも黙っていられるはずが無く、自らも妻のノア、フェアンの姉マリーナと共に『クォルガルード』に乗り込んで、陣頭指揮を執っていた。



「…とかなんとか言って、ホントはイチちゃんが居なくなるのが寂しくて、ノーザ恒星群までついて行こうとしてるくせに」

 と、ノアがノヴァルナを冷やかしたのは、午後のティーブレイクの席である。

「はぁ? ちっげーし!」

 頓狂な声を上げたノヴァルナは、直後に飲み込みかけていた紅茶で、ケホケホとむせ返る。それを見て、同席しているフェアンはニヤニヤ。マリーナは冷ややかな眼を向けながら、ティーカップに唇を付けた。図星を突かれると「○○ねーし!」などと、語尾を上擦らせて否定するノヴァルナの癖は、見抜いている三人である。

「だから、いま言ったトコじゃん。オウ・ルミル宙域に入ったら、ぜってーロッガの奴らが襲って来るって! でもってどうあろうと、フェアンを浚われるワケにはいかねーから、俺が指揮を執ってるんだろが!」

 まくしたてるノヴァルナを、ノアは「はいはい」といなしておいて、“まぁ、今回は仕方ないか…”と苦笑いした。言っている事は間違ってはいないのだが、星大名としての行動としては、あまり誉められたものではないからだ。

 時期的に今は、対イースキー家に専念すべき時で、フェアンの輿入れもその一環であり、大切な妹の人生に関わる案件ではあるのだが、星大名自らが乗り出していい状況ではない。
 事実この“イチ姫輿入れ作戦”は当初、ノヴァルナの名代としてノアとマリーナのみが同行。実際の指揮は信頼の厚いナルガヒルデ=ニーワスが、執る予定となっていた。それを出航直前になってノヴァルナが、やっぱり自分が指揮を執ると捻じ込んだのだ。私情優先は星大名には禁物だが、ノヴァルナも人の子…というべきであろう、か?

 それでもやはりフェアンにも不安に思う部分と、家族のもとを去る寂しさがあるのは否めず、ノヴァルナが同行してくれる事を非常に喜び、惑星ラゴン出航以来、ベッタリとくっついている状態だった。

「冗談はともかく―――」

 話題を真面目なものに…本題に変えるノア。

「本当にロッガ家は、襲って来ると思う?」

「さあな。だが、備えあれば何とやら、だろ?」

 とは言ううもののノヴァルナの表情を見れば、確信めいたものがあると知れる。アーザイル家の勢力圏、ノーザ恒星群へ向かうには、ロッガ家の支配する宙域を通過する必要があり、当然ながらロッガ家からは航過の許可は得られていなかった。
 許可を出していないという事は、そこを強行突破するものを、拿捕する意志があるという事である。むしろウォーダ家の突破を見逃すようであれば、ロッガ家のかなえ軽重けいちょうが問われるだろう。

 無論、ウォーダ家とアーザイル家の双方が、大規模な陽動作戦を別方面で展開しており、フェアンの輿入れを支援してはいるが、ロッガ家の全ての戦力を引き付けられるわけではなく、何らかの襲撃はあると見て間違いはない。

「いずれにしろ、この中立宙域を航行している間は、ロッガの連中も手は出さねぇだろうからな。今はのんびりしとくさ」

 そう言い放ったノヴァルナは、ティーカップに残っていた紅茶を飲み干すと、隣に座るフェアンをVRゲームに誘う。

「おし。ゲームの続き、すっか!?」

 それを聞いてフェアンは、「うん!」と元気良く頷いた。いつもはフェアンがノヴァルナを独占するのを許さないマリーナも、フェアンにとって貴重な兄との時間を思いやり、部屋を出て行く二人に穏やかな視線を送っている。

 静かに時間が流れる中、八隻の戦闘輸送艦は漆黒の闇と、群青に輝く星雲の狭間を、滑るように進んで行った………




▶#02につづく
 
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