銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第9話:魔境の星

#15

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 二頭の怪獣が激闘を続けている間に再集結を果たしたノヴァルナ達が、ようやく目的地である『アクレイド傭兵団』の秘密施設に向かい始めた頃、銀河皇国中央部から、ミョルジ家の勢力排除を目指すウォーダ軍主力部隊は次の攻略地、ソーン=ミョルジが守備するキーズ星系へ進入していた。
 二日前に制圧を完全完了した、ナグオーク・キヨウ星系からの移動距離は約千光年。だが皇国直轄軍扱いとなっているウォーダ軍は、星帥皇ジョシュアから超空間ゲートの使用が許可されており、到達も容易である。

「前哨駆逐艦『ナレジオン』より電信。“敵艦見ユ。ワレヨリノ方位118マイナス05、距離七万”」

 総旗艦『ヒテン』の艦橋にオペレータの報告の声が上がり、戦術状況ホログラムに、キーズ星系第八惑星の陰から出現した、敵艦らしき反応が赤いマーカーで表示される。続いて同じ駆逐艦からの敵主力の発見報告。マーカーの数が一気に五十以上に膨れ上がった。

「合戦準備!」

 仁王立ちになって力強く命じる、狐の仮面を被ったノヴァルナ。ところがその傍らの司令官席には、もう一人の仮面のノヴァルナが座っている。司令官席の仮面のノヴァルナは、隣に立つ仮面のノヴァルナの命令に、ゆっくりと頷くだけだ。二人は背格好も同じであり、顔が見えない以上、どちらが本物のノヴァルナであるのか分かりはしない。力強く命令を発するノヴァルナも、静かに頷くノヴァルナも、普段からあり得る行動であるからだ。今回は二人の仮面のノヴァルナが、共に『ヒテン』に乗り込んでいるのだ。



 対するキーズ星系第三惑星ヘレデバイトに建てられているキーズ城では、艦隊に潜入させている情報部員からの連絡を、司令官で“ミョルジ三人衆”の一人、ソーン=ミョルジが受け取っていた。

「ノヴァルナが二人共、『ヒテン』に乗っているのだな?」

 ソーンは情報参謀に確認の問いを投げ掛けた、情報参謀は「間違いなく」と頭を下げながら応じる。トゥールス=イヴァーネルが指揮した前回のナグオーク・キヨウ星系防衛戦では、終始ノヴァルナとその影武者に翻弄された、という報告を得ていた。そのためソーンはまず、本物のノヴァルナの所在地の把握を、最優先にしたのである。その二人が二人とも総旗艦に乗っているとなると、全戦力をもって総旗艦『ヒテン』の撃破を目指すべきだろう。

 だがその時、ウォーダ軍総旗艦の『ヒテン』ではなく、随伴するウォーダ軍第1特務艦隊旗艦『クォルガルード』より、ミョルジ軍に対し降伏勧告が発せられた。“三人目の”仮面のノヴァルナからである。
 
「三人目のノヴァルナだと!?」

 苦虫を嚙み潰したような表情をしたソーンは、通信参謀に「回線を開け」と命じる。展開された通信ホログラムスクリーンに映し出されたのは、三人目の仮面のノヴァルナだった。その男は『ホロウシュ』のランを隣に立たせて、些か乱暴な物言いで降伏勧告する。

「おう、正統星帥皇室に弓を引く叛徒共! 命が惜しかったら降伏しな! 俺に逆らわねぇってんなら、悪いようにはしねぇって約束してやっからよぉ!!」

「く!………」

 高圧的な三人目のノヴァルナに、ソーンは怒りの表情になった。一方でウォーダ軍第1艦隊に属する、第13戦隊旗艦の重巡『ヘイルヴェルン』に乗るキノッサは、司令官席で肘をつき呆れ顔でこの通信を見ていた。

「この前より酷い芝居ッスねぇ。誰ッスか?」

 すると今度は、『ホロウシュ』の誰が仮面を被っているのか知っているらしい、参謀長のデュバル・ハーヴェン=ティカナックが、傍らで静かに応じる。

「どうやら、ナガート=ヤーグマー殿のようですね」

 それを聞いてキノッサは「ケヘヘッ!」と、品の無い笑い声を発して、からかうように言った。

「ヤーグマー殿ッスか。こりゃぁ、あとでノヴァルナ様がご覧になったら、怒られるッスよ」

 仮面を被ってノヴァルナを演じる役を授かった『ホロウシュ』は、自分の中のノヴァルナという人物像をイメージして芝居をすればいい、と仰せつかっている。となればつまりこの高圧的なノヴァルナは、ヤーグマーのノヴァルナに対する、日頃のイメージという事であった。


 それでもソーンはこの三人目のノヴァルナこそが、本物ではないかと疑ってしまう。他家にはいまだノヴァルナを、粗野で乱暴者だという印象で捉えている者も多く、ソーン=ミョルジもその一人だったのだ。それに副官で身辺警護でも常に傍らに居る、ラン・マリュウ=フォレスタが一緒であるのも、本物である可能性を高めていた。
 だがやはり、この三人目の仮面のノヴァルナが、偽物である可能性も否定できない。つかみどころが無いのもノヴァルナの特徴だからだ。無論、総旗艦『ヒテン』と戦闘輸送艦『クォルガルード』の両方を、集中攻撃するほどの戦力は自軍に無く、。ソーンにすれば、何とも悩ましいところだった。

“勝つ可能性を探ってはみたが…ここは当初の予定通り、足止めだけにしておくしかあるまい”

 あわよくばここでノヴァルナ軍を撃退出来ないものかと、策を練ってはみたが、やはり現実はそう甘くはないようだ。ソーンは第八惑星付近に艦隊を置いて引いていた防衛線を縮小し、キーズ城のある第三惑星ヘレデバイトの集中防衛に、切り替えたのであった。




▶#16につづく
 
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