273 / 526
第11話:我、其を求めたり
#07
しおりを挟む「よくぞ参った。待っておったぞ」
両眼の黄緑色のランプを明滅させて、ノヴァルナ達を出迎えたのは、一体の汎用アンドロイドであった。電子音声のその口調に高圧的な部分がある事から、ただのアンドロイドではないのは確実だ。テン=カイが素性を問う。
「これはエルヴィス陛下であらせられますか?」
汎用アンドロイドはコクリと頷いて返答する。
「いかにも。このアンドロイドの電子脳と、NNLをリンクして使役している。余がエルヴィス・サーマッド=アスルーガである」
これを聞いてノヴァルナ達は全員が、エルヴィスの臨時筐体となっている汎用アンドロイドに片膝をついた。事情を知らなければ星大名一行が、何の変哲もない汎用アンドロイドに、みんな揃って敬意を表している、奇異な情景に見える。
「もう間も無く、直に対面する事が出来るな…楽しみにしておるぞ、ノヴァルナ・ダン=ウォーダ」
バイオノイド:エルヴィスならぬアンドロイド:エルヴィスに声をかけられ、ノヴァルナは「はっ!」と応じ、さらに一段頭を下げる。
「基地の人間どもが、乗員に扮した其方らを怪しみ始めたようだ。余の居場所までの別の道を案内するゆえ、ついて参れ」
この基地のNNLシステムを、完全に掌握しているエルヴィスであるから、ヴェルターやゼーダッカ達の動きも逐一掴んでいた。したがって、ヴェルターが高速クルーザーの乗員を探し始めた事を知るなど、雑作も無かったのだ。
ついて来い…と言った汎用アンドロイドは、エルヴィスが居るバイオ・シンフォナイザーまでの主通路から外れ、この巨大施設を維持するための、メンテナンス用通路へ向かった。
この通路を使用するのは、整備作業目的のアンドロイドだけで、人間はいない。その代わり、移動の快適さは求められておらず、機器の間を縫うように繋げられた通路や梯子は幅が狭く、武装した陸戦隊員だと二人横並びでは歩けなかった。
そのような細い通路を十五分ほど進むと、やがて高さが五十メートルはあるであろう長いパイプの中を、梯子を伝ってひたすら降り、着いた先にあった小部屋に設けられた縦長の扉を、アンドロイドが開く。
扉の向こうは星空であった―――
いや…何かの比喩ではなく、巨大な半球状のドームの内部に、ホログラムによる宇宙空間が映し出されている、いわば“プラネタリウム”である。そしてエルヴィスは、その星空の中にいた。
「あらためて膝をつくなどはせずともよい。そのまま進め」
アンドロイドに指示され、ノヴァルナ達はドームの中央部まで進む。
エルヴィス・サーマッド=アスルーガがいたのは、ある意味味気ない場所であった。高さ五メートルほどの円柱形の黒い台。それがエルヴィスの今の玉座である。実際には暗青色の台なのだが、照明が少ないドームの中では黒色でしかない。
座る椅子も星帥皇を名乗った人物でありながら、豪奢なものではなく、悪趣味な言い方だが、処刑用の電気椅子を思わせる機械的なものだ。事実、椅子の背面からは無数のケーブルが伸び、台座上の後ろ半分にズラリと並んだ端子に繋げられている。そして頭上からは一条の白い光が椅子を照らす。その光の中にエルヴィスの姿があった。
エルヴィスは上半身が裸であった。上から差す白い光に、その肌は異常なまでに白さを増している…病的な白さと言っていい。そして右半身の肌が、僅かにふやけているように見える。そんなエルヴィスだが、やはりテルーザ・シスラウェラ=アスルーガを模したバイオノイドだけあって、顔は瓜二つであった。その顔を見て、ノヴァルナは亡き友人を思い起こす。
「このような非礼な姿で、済まぬ―――」
ここまで案内役を務めたアンドロイドではなく、エルヴィス自身の発した声だ。こちらもやはり、テルーザと全く同じである。ただテルーザにはなかった、気だるさのような響きが混じっていた。
「卿らが届けてくれた生体組織を、先程合成し終えたばかりでな。おかげでまた少し、生きながらえる事が出来る…」
なるほど、椅子に座ったエルヴィスの右半身がふやけたように見えるのは、バイオ・マトリクサーで生成した組織を、移植したばかりであるかららしい。おそらく専用ポートからここまで歩いて来る間に、組織が搬入されて即座に処理が行われたのだろう。エルヴィスは口元に笑みを浮かべて、ノヴァルナに呼び掛ける。
「遠路はるばる、ご苦労であったウォーダ卿。僅かな供回りで本当にここまで乗り込んで来るとは、噂にたがわぬ豪気さか…もしくは“大うつけ”ぶりであるな」
対するノヴァルナは、不敵な笑みで応じた。
「陛下もわたくしめとの会見をご所望だったとは、話しが早い。そういったところも、テルーザ陛下と同じですな」
このノヴァルナの物言いに、顔の見えないテン=カイだが、緊張で身じろぎしたのが感じられた。まさかエルヴィスに面と向かって、いきなりテルーザの名前を出して来るとは思わなかったのだろう。するとエルヴィスは不意に笑い声を上げた。
「アハハハハハハハ!」
▶#08につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる