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第11話:我、其を求めたり
#09
しおりを挟むエルヴィスからの通報に仰天したのは、ミョルジ家家老のゼーダッカである。
「陛下の御座所に曲者だと!!??」
惑星ジュマの秘密施設から来た高速クルーザーの乗員が、所在不明のままである事に、神経を尖らせていたところに、エルヴィス本人からの連絡だ。慌てないはずが無い。
「兵を集めろ! 陛下の御座所に向かう!」
そう命じたのはヴェルターであった。錯綜した情報の中、エルヴィスの所へ姿を現したのが、惑星ジュマから高速クルーザーで来た、“乗員ではない何者か”に違いないと考えたのだ。ただ当然ながら、その正体がウォーダ家当主、ノヴァルナ・ダン=ウォーダだという事までは知る由も無い。その場で銃を扱える兵を搔き集めたヴェルターは、まず十五人でエルヴィスの居場所へ駆け出した。その間に、ゼーダッカが増援の兵に呼集を掛ける。
ところがこれはノヴァルナとの果し合いを望む、エルヴィスの細工であった。
基地のNNLシステムを掌握しているエルヴィスは、自分から警備兵を呼び寄せた上、全ての通路の隔壁を意図的に開閉し、ヴェルターと配下の兵が、基地から退避しようとしているノヴァルナ達と接触せず、入れ違いになるように仕向けていたのだ。
そのノヴァルナ達は、カーズマルス=タ・キーガーの特殊陸戦隊を前衛に、通路を駆けていた。目指しているのは高速クルーザー格納庫ではなく、一番近いシャトル格納庫だ。クルーザーに戻ったところで、発進口を閉鎖されれば一巻の終わりとなるからである。
シャトル格納庫の位置は、この基地に来た際に入手した構造情報で、すでに把握済みだった。前衛の陸戦隊員は、スタンモードにしたブラスターライフルで、基地の人間六人の意識を奪い、ノヴァルナを格納庫へ導いた。そこは半円形のハンガーに、六機のシャトルが並んでいた。恒星間航行能力の無いタイプだが問題ない。
二機のシャトルに分乗したノヴァルナ達は、即座に発進態勢に入る。カーズマルスがエンジンを起動させている間に、ノヴァルナは通信機を操作し始めた。基地の近くにいるはずのモルタナ=クーギスの偽装船団、そして潜宙艦『セルタルス3』と連絡を取るためだ。回線が開くまでの間、ノヴァルナは今の状況を振り返って、胸の内で首を捻りながら思った。
“エルヴィスと会って、説得できるならそうするつもりだったのが、なんだかおかしな話に、なって来たもんだぜ………”
エルヴィスに誘導されているとは知るはずもないヴェルター達が、ノヴァルナ達と遭遇する事無く駆けつけて来たのは、十分ほど経ってからであった。
「エルヴィス陛下!!」
今しがたまでノヴァルナ達がいた半球型ドームの中へ、ヴェルター達が銃を手に雪崩れ込んだ。無論、室内にいるのは台座の上に立つエルヴィスのみで、侵入者の姿はどこにも無い。緊張した声でヴェルターは呼び掛けた。
「ご無事にございますか!!??」
エルヴィスは「遅い!…」と短く応じる。
「もっ!…申し訳ございません。して、曲者はいずこに!?」
「余の命を狙うて来たようだが、銃ではこの玉座を守るシールドを破れぬと知り、逃げ出しよったわ」
「陛下のお命を、狙ったのでありますか!?」
「うむ」
「何者か名乗りましたでしょうか?」
「いいや。顔も隠しておった。誰かは知らぬ」
これらのエルヴィスの言葉は全くの嘘である。ノヴァルナは一度たりとも、エルヴィスに対し銃口を向けはしていないし、顔も隠していない。すべてはエルヴィスの思惑の通りだ。さらに嘘を続けるエルヴィス。
「曲者は一度この基地から離脱して、BSIで仕掛けて来る気のようじゃ。すぐに迎え撃つ準備をせよ。合戦である。余も出る!」
これを聞いてヴェルターはひどく困惑した。エルヴィスの言っている事以上に、活力に満ち溢れた様子に、だ。
「お待ちください! 陛下もご出陣なさるのですか!?」
「無論の事じゃ。急げ」
第12シャトル格納庫から二機のシャトルか盗まれて、何者かが基地から逃走した事をヴェルターが知ったのは、その直後の事であった。
一方ノヴァルナ達が奪った二機のシャトルは、予定通りの位置にいたモルタナ=クーギスの偽装船団との合流に成功していた。船団旗艦の武装輸送艦、『ラブリードーター』に収容されるや否や、ノヴァルナは『センクウ・カイFX』を操縦するために、パイロットスーツの準備に入る。
「あんた。大っぴらに戦闘なんて、どういう事なのさ!?」
ブリッジから急いでやって来たモルタナが、パイロットスーツを着用中のノヴァルナに問い掛けた。
「おう。ちょいと事情が変わってな。俺が出撃したら、船団は速度を上げてすぐ離脱してくれ!」
するとノヴァルナの背後からノアの声がする。
「“俺が”じゃなくて、“俺達が”でしょ?」
これを聞いて振り返るノヴァルナの視界には、先にパイロットスーツを着用していたノアと、カレンガミノ姉妹の姿があった。
自分達も出撃する気満々のノアやカレンガミノ姉妹に、ノヴァルナはやれやれ気味にため息をつく。
「おまえらさぁ…」
「まさか、“大人しくしてろ”なんて、言わないでしょ?」
「……いや。エルヴィス以外にも、敵部隊が出て来る可能性は高ぇ。俺の方は、エルヴィスの相手で手一杯になるだろうから、バックアップを頼まぁ」
「それで勝てるの?」
「たりめーよ!」
ノア達に背を向け、金色の龍の絵柄を施した愛用の青いパイロットスーツの、密閉数値チェックを行いながら、ノヴァルナは軽い調子で応じる。しかしそれだけ告げたノヴァルナは、押し黙って作業に集中した。いや…作業に集中しているのではなく、緊張を隠しているのだとノアには判る。
緊張の理由は明白ね…と、思うノア。
模擬戦で“トランサー”を発動しても全く歯が立たなかった、テルーザの『ライオウXX』を倒した、エルヴィスの謎のBSHO…背中に蜘蛛の脚のような、八本のAES(アサルト・エクステンデッド・システム)を装備した機体を、ノヴァルナはこれから相手にしなければならないからだ。
“卑怯者と罵られてもいい。これからの銀河のため…そして私自身のため、いざとなったら、このひとに助太刀する!”
決意を込めたノアの視線の先で、パイロットスーツの装着と調整を終えたノヴァルナが、すっくと立ちあがる。そしてモルタナに振り向いて声を掛けた。
「俺達の機体の出撃準備は?」
「済んでるさ。あんたらが出たら、続いて直掩のASGUL隊も出す。いいね。全員無事に帰って来るんだよ」
今のモルタナは、立場上はノヴァルナの家臣である。だが私的には、ノヴァルナの姉貴分である事に変わりはなかった。そんなモルタナの言葉に、少しは緊張も解けたのか、ノヴァルナはいつもの不敵な笑みで応じた。
「おう。任せとけ」
程なくして輸送艦『ラブリードーター』の格納庫のハッチが開き、ノヴァルナの専用機『センクウ・カイFX』が、宇宙の闇夜に放出される。
「ウイザード01。いま発艦した」とノヴァルナ。
視界の上方には、アヴァージ星系第十六惑星が、青灰色の曲面を大きく晒している。『センクウ・カイFX』に続いて、ノアのBSHO『サイウンCN』と、カレンガミノ姉妹の乗る二機の『ライカSS』も、宇宙空間に飛び出した。すぐに『ラブリードーター』から通信が入る。
「基地から敵の機動部隊らしきものが、発進した模様。警戒せよ!」
▶#10につづく
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