銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
319 / 526
第12話:天下の駆け引き

#21

しおりを挟む
 
 怪しげな密談を行っているセッツァー達に比べ、ノヴァルナとノアは健全そのものだった。会食を終えたゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナが、『クォルガルード』を辞すると、二人は早速私室へ向かい、ゲイラがエンダー夫妻から預かって来た、メモリースティックをデータパッドに挿入する。
 データパッドから転送されたデータは、近くのNNLシステムホログラム端末を起動し、並んで座るノヴァルナとノアの前で、エンダー家の家族の等身大ホログラムを、床の上に投影した。

 新たに二人目の子供を加えた四人の立体映像に、ノヴァルナとノアの表情は自然と柔和になる。今やカールセンも四十歳。妻のルキナは三十八歳。長男のネルヴァルは、もう六歳に成長していた。二人目の子供も男の子のようで、ようやく立てるようになったばかりらしい。

「ノバック、ノア。久しぶりだな。ビデオメッセージは、三年ぶりだったか?」

 おもむろに話し始めるカールセン=エンダー。ノバックとは、カールセンに対して使用していた偽名だったが、それが転じ星大名ノヴァルナ・ダン=ウォーダではなく、対等の立場の友人として接する場合の呼び名となっている。

「ノバくん、ノアちゃん。元気にしてる?」

 このルキナの言葉を聴いて、苦笑いを浮かべたノヴァルナは、ノアと顔を見合わせた。ノヴァルナを“ノバくん”呼びし始めたのはルキナであり、八年経った今でもノヴァルナにとっては、頭の上がらない女性だ。

 さらに長男のネルヴァとは面識はないが、礼儀正しく「こんにちは」と言って頭を下げるのを見ると、ノヴァルナも甥っ子を見る叔父の気分になる。
 するとルキナが二人目の幼児の背中に右手を添えて、「こんにちは…って」と挨拶を促した。その幼児はぎこちない様子で「こん…にっちゃ」と言い、ペコリとお辞儀をする。笑いを交えてルキナがその二人目の幼児を紹介した。

「この子はヴァルゲン…去年生まれた、二人目なの」

 その言葉に笑顔を見せるノアだったが、僅かながら淋しさが混じる。まだ自分とノヴァルナの間には、子供がいないからだ。そんなノアの表情に気付いたのか、ノヴァルナが指先で脇腹を小突いて来る。それが風変りな夫なりの気遣いだと分かるノアは、気持ちを切り替えて明るく「こら。もう!」と、ノヴァルナの二の腕を強めに引っ叩く。この辺りは、子供が居ない故の変わらぬ関係だろう。

「おまえさんの評判は今や、ここムツルー宙域でも爆上がりだ。おかげでおまえさんと知り合いって事で、俺も色々と良い目を見せてもらってる」

 冗談とも本気ともつかぬ言葉のあとで、カールセンは「ハッハハハ…」と笑い声を続けた。
  
 カールセン=エンダーとルキナ=エンダーの二人は、ノヴァルナとノアにとって見倣うべき善き大人であり、善き夫婦であった。そんな二人の幸せそうな近況報告の様子は、星大名であるとか武家階級であるとかを忘れさせ、だたの人間としての満ち足りた時間を与えてくれる。

 しかしそれでもカールセンとルキナが、漫遊貴族ゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナに、わざわざメモリースティックを託したのは当然、近況報告を聞かせるためだけではない。八割が笑顔の近況報告に次いで、「まぁ、俺達の話はそんなとこだか」と区切りをつけると、表情を引き締めて重要な話題に移った。

「例の『超空間ネゲントロピーコイル』についてだが、ダンティス家でそれなりの地位を手に入れたおかげで、私設の極秘調査チームを作る事が出来てな」

 その言葉にノヴァルナとノアは、表情を引き締めて互いに顔を見合わせる。『超空間ネゲントロピーコイル』とは八年前、ノヴァルナとノアが飛ばされた皇国暦1589年のムツルー宙域に存在していた、六つの恒星系に跨る超巨大施設である。
 この謎の施設が、シグシーマ銀河系の中心から伸びた、時空次元が何も存在しない『熱力学的非エントロピーフィールド』の出口となっており、ミノネリラ宙域のナグァルラワン暗黒星団域で窮地に陥ったノヴァルナとノアが、イチかバチかでブラックホールの“事象の地平線”上で超空間転移を強行した際、二人を皇国暦1589年のムツルー宙域へ送り届けたのだ。

 そして何者かが建造した、この謎の施設は現在でも既に存在しており、今の時点ではダンティス家の領域内にあった。これを調査するのを目的の一つとして、カールセンは元の世界では、アッシナ家に仕えていたのを、ダンティス家への仕官へ変更したのである。

 カールセンは最新の、『超空間ネゲントロピーコイル』調査の概要を、手短に述べた。それによると昨年1562年に、『超空間ネゲントロピーコイル』は稼働状態に入っていた事が確認されたという。
 それは時期的に、『熱力学敵非エントロピーフィールド』上へ侵入していた、ミノネリラ宙域の職人惑星カーティムルで、惑星規模の複数の火山が爆発していた時期と合致していた。やはり両者の間には相関関係があるように思われる。

「調査結果については、もう一本のメモリースティックに、データを記録しておいた。詳しい内容はそっちの方で確認してくれ。また機会を見て連絡する」

 映像の中でカールセンがそう言うと、ルキナが女神のような微笑と共に、心からの言葉と感じさせる口調で告げる。

「体に気を付けて、元気でいてね。ノバくん。ノアちゃん」



▶#22につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...