銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第13話:新たなる脅威

#20

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「どうする? こちらも艦載機を出すか?」

 艦載機による機動戦に自信がないらしく、ナーガス=ミョルジはトゥールス=イヴァーネルに意見を求める。トゥールスのホログラム像は、首を左右に振って否定した。

「いや。ここで艦載機を出してしまうと、収容の際、さらに時間を使う事になる。ここは各艦とも加速し、迎撃兵器を活用して突っ切るべきだ」

 トゥールスの言葉は正鵠を得ていた。ミディルツの狙いの半分は、三人衆に艦載機を発進させて、進軍速度をさらに鈍化させようとするものであったのだ。だがこれを見抜かれても、ミディルツに動じるところはない。いやむしろ、自身が直接指揮を執った先のBSI戦で、すでに機動兵器部隊を消耗しつつあったため、敵の優勢なBSI部隊が迎撃に出て来ないのは、有難い話ですらある。

 ミディルツ艦隊のBSI部隊による攻撃は、約二十分で終了し、双方は戦場を離脱した。ミディルツ側の艦隊戦力損耗率は五十パーセントを超え、次の戦いは厳しい状況にまで低下している。対する“ミョルジ三人衆”側の損害は、数の優位性もあって、重大なものではない。ただ最後のBSI部隊による襲撃では、ここでも各艦隊の軽巡航艦と駆逐艦に、幾何いくばくかの脱落艦を与えていた。

「艦隊参謀」

 損害箇所の応急修理を急ぐ指示の声が行き交う、旗艦『アルバルドル』の艦橋の中、ミディルツは通信参謀と何事かを話している艦隊参謀に声を掛ける。「はっ」と応じて振り返り背筋を伸ばす艦隊参謀に、ミディルツは新たな指示を出した。

「空母を除いて、敵艦隊の追跡が可能な艦を集めてくれ」

「追跡…ですか?」

 ミディルツの言葉に、艦隊参謀は驚いた表情をする。通常なら戦力が五十パーセントを下回ると、撤退すべき損耗率を超えおり、追跡などは常道から外れた行為であるからだ。だがミディルツは迷いもなく、深く頷いた。

「空母と追跡行動が不可能な艦は、艦載機の収容と、撃破された艦からの脱出ポッドの回収を行ったのち、星系内を大きく迂回してキヨウへ帰還。追跡可能な艦は、距離を置いて敵艦隊を追う」

 静かだが有無を言わせぬ硬い響きを、ミディルツの口調に感じ、艦隊参謀は「了解しました」と応じるしかない。さらに航宙参謀にも声を掛けるミディルツ。やれる事は、全てやる…皇都を守るためには、それしかない。

「航宙参謀。撤収する部隊の航路を、出してやってくれ。それと我々の追跡コースは、敵にギリギリで探知され続ける距離を取るように」
 
 それからおよそ四時間後、第六惑星ロックージョの公転軌道上に待ち構えていたフジッガ艦隊が、三人衆との戦闘に入る。
 文芸に秀でた武将と言われながら、武人としての闘志も申し分ないフジッガである。こちらもミディルツ同様、三人衆の艦隊前方を横切りながら、猛攻撃を加えたのち、やはり戦闘可能な艦で編成した、残存部隊による追跡を始めた。

 このミディルツとフジッガの残存部隊による、後方からの追跡は、時間が経つにつれキヨウを目指す“三人衆軍”に、心理的圧迫を与え始める。もし皇都攻略に失敗した場合、残存部隊によって退路が断たれる可能性に気付いたからだ。やれる事は全てやる…敵に対して心理戦まで挑む、ミディルツの粘り腰だった。

 続く第五惑星ゴージョの公転軌道上では、タクンダール家の残存部隊が、三人衆を待ち構えていた。しかしタクンダール艦隊は、初戦ですでに全力攻撃を仕掛けた事で、大きな損害を出しており、積極攻勢は行わずに簡単な砲撃戦に終始したのちに、第三惑星キヨウへ向けて退却した。それでも三人衆側にすれば敵艦隊を発見した以上、戦闘態勢→戦闘→戦闘態勢解除→進軍態勢に移行しなければならず、相当な時間を要する。

 進軍開始から約十二時間。“ミョルジ三人衆”の軍は、当初のタイムスケジュールから、すでに約四時間の遅れを生じている。そしてこの状況で、三人衆の前に立ちはだかったのが、マスクート・コロック=ハートスティンガーの指揮する、無傷の第3防衛艦隊だった。

 ハートスティンガーは、自分に与えられた旗艦『バグートラン』の艦橋で、丸太のような腕を組んで「ハッハッハッ!」と、豪快な笑い声を上げる。

「これだけの戦力差。武者震いが止まらねぇってもんだぜ!」

 ここまでのミディルツとフジッガ、そしてタクンダール家の残存部隊との戦闘によって、ミョルジ三人衆部隊の戦力は作戦開始時の九個基幹艦隊から、実質七個基幹艦隊にまで低下していた。それでも戦力差には圧倒的な違いがある。だがハートスティンガーの表情に怯懦は無い。

「作戦は、どうしやすかい?」

 些か砕け過ぎた口調で尋ねて来るのは、鋼材の密輸組織を仕切っていた時代からの、昔馴染みの仲間―――今はハートスティンガー付きの、艦隊参謀だった。

「作戦?…そんなもん、あるもんかよ」

 そう言ってハートスティンガーは腕組みを解き、口許を大きく歪めて、右手の指で黒い顎髭をゴリゴリと撫でた。




▶#21につづく
 
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