346 / 526
第13話:新たなる脅威
#23
しおりを挟むこのヨゼフ艦隊の出現に、三人衆側の将兵は少なからず動揺の色を見せる。名ばかりだったとはいえ、かつての自分達の当主が「裏切者!」と叫びながら、突撃して来たのであるから無理もない。
「クソッ! この期に及んで、面倒な」
ソーン=ミョルジが司令官席の肘掛けを殴りつけ、吐き捨てるように言う。筆頭のナーガス=ミョルジも忌々しそうな口調になり、対処を命じた。
「ええい。あと少しというところで。左翼側の艦隊は敵増援を迎撃!」
ナーガスに言われるまでもなく、左翼側にいた第7艦隊と第8艦隊は、すでにヨゼフ艦隊へ砲撃を開始している。しかしヨゼフ艦隊はこれが初戦であり、対する三人衆側の二個艦隊は、すでに数度の戦闘を経て損耗と疲労があった。敵の動きが鈍い…と感じ取ったヨゼフはここで、正面から撃ち合うのではなく、艦隊の機動性を活かす戦術を選択する。
「艦隊針路300マイナス58! 敵の下に潜り込んで同航戦を行う!」
速度を落とさず突っ込んで来たヨゼフ艦隊は、“三人衆軍”左翼部隊の寸前で一斉に、急降下を開始した。速度を落とさず攻撃を続け、そのまま敵部隊の下側へ潜り込む。この咄嗟の針路変更についていけず、“三人衆軍”の数隻の重巡航艦が砲火をまともに受け、大きな損害を出して戦列から脱落した。
「何をしている!? 対応が遅いぞ!」
怒鳴り声を上げる第7艦隊司令のビルティー=ガヴァラ。消耗と疲労で各艦の反応が鈍って来ているのだ。敵部隊の下側へ潜り込んだ艦隊に、ヨゼフはさらに命令を続ける。
「艦隊針路035プラスマイナスゼロ。最大戦速!」
再び針路を変えて速度を上げるヨゼフ艦隊。その針路を見てガヴァラは「これはいかん!」と顔を強張らせる。ヨゼフの意図は“三人衆軍”部隊の下腹を引き裂きながら、筆頭のナーガス=ミョルジが乗る総旗艦『シンヨウ』がいる、第1艦隊を目指していると気付いたからだ。
「『シンヨウ』へ警報を送れ! それから追撃だ! 急げ!!」
ヨゼフ・サキュダウ=ミョルジは、三人衆にないがしろにされていただけで、決して凡庸なわけではなく、指揮能力なども平均以上のものは持っていた。ここで三人衆はそのツケを払う事となった形だ。ヨゼフ艦隊の動きに、他の“三人衆軍”部隊まで混乱し始める。そしてこれを見逃すミディルツではなかった。
「フジッガ殿、ハートスティンガー殿。この機を逃さず、敵を押し返す!」
少なくなった戦力にも関わらず押し出すウォーダ軍、数的優勢にありながら押し戻されてゆく“三人衆軍”………
すると、混戦となってゆくこの状況で意味を持ち始めたのが、ここまででミディルツなどが行って来た、敵の軽巡航艦や駆逐艦に対する攻撃である。
ともすれば戦艦や重巡、空母といった主力艦に比べて、軽視されがちな軽巡や駆逐艦だが、こういった混戦状態になると高速で小回りが利く事から、主力艦の護衛だけでなく、戦局そのものを左右する存在となる。だが“三人衆軍”側はここまでの戦闘で、その軽巡航艦や駆逐艦の喪失が多くなっていたのだ。
これは少しでも相手の数を減らし、艦の絶対数の差を埋めようとしたミディルツの戦術が、期せずして副次的効果をもたらしたもので、“三人衆軍”の各艦隊は前進を始めたミディルツ以下のウォーダ軍、特に高速で突撃を仕掛けてきた軽巡と駆逐艦、そしてBSI部隊に対して柔軟な迎撃行動が取れなくなった。
そうなると“三人衆軍”にとって、一番の脅威となるのが、部隊の底を高速移動しつつ、総旗艦『シンヨウ』を目指すヨゼフ・サキュダウ=ミョルジの艦隊だ。
当主ヨゼフだけでなく、彼の指揮下にある艦隊の将兵は大半が、“ミョルジ三人衆”に従ってヤヴァルト宙域にまで来た挙句、その三人衆が撤退する際にある者は盾代わりに使われ、ある者は存在を忘れられ、ある者は生贄としてウォーダ軍の只中に置き去りにされた、いわゆる棄兵であった。そのため、“ミョルジ三人衆”への恨みは骨髄にまで達しており、これが彼等の起爆剤となっていたのである。
「奴らを生かして返すな!」
「突撃! 突撃!! 突撃だ!!!!」
「裏切り者には、死をぉーーー!!!!」
ヨゼフ艦隊の各戦隊司令官、各艦長が口々に怒りの言葉を発し、砲も裂けよと猛撃を浴びせる。その砲火は三人衆筆頭のナーガスをもたじろがせた。
「おっ、おのれ! あやつを近づかせるな!!」
ナーガスの怒声に、艦隊参謀が声を上げる。
「宙雷戦隊どうした!? 敵針路を妨げて阻止しろ!」
しかしこれに対するオペレーターの返答は、期待に反するものだ。
「軽巡も駆逐艦も他の敵への対処に追われ、間に合いません!」
これも序盤に軽巡や駆逐艦を失った、“三人衆軍”側に起きた不都合であった。それでも数隻の軽巡と駆逐艦がヨゼフ艦隊の前に立ち塞がるが、ヨゼフ艦隊の戦艦群から、大口径ビームを浴びてたちまち爆散する。
「ナーガスめの旗艦を狙え!! それ以外は放っておいていい!!」
まなじりを結して命じるヨゼフ。しかし次の瞬間、ビルティー=ガヴァラ直卒の第7艦隊戦艦部隊が、全速で間に割り込んで来た。
激突しそうな勢いで接近してくるガヴァラ艦隊に、ヨゼフはやむを得ず、配下の艦隊に針路変更を命じる。揃って右方向へ曲がり、同航戦を始める二つの艦隊。
「ここは通しませぬぞ、ヨゼフ様!」
「ビルティー=ガヴァラ、邪魔立てするな!!」
対面上はミョルジ家の正統当主と招かれた客将であるから、言葉遣いこそ主従であったものの口調はきつい。双方に信念があったからだ。ヨゼフ艦隊は左舷側に、ガヴァラ艦隊は右舷側に、向けられる兵器を全て向けて激しく撃ち合う。
だが、ガヴァラ艦隊は緒戦から戦闘し続けて来たため、損傷艦も多く、すぐに劣勢となった。ガヴァラが座乗する旗艦も、右舷側に並べた遠隔操作式のアクティブシールドが、たちまち過負荷状態となって防御機能を喪失。ヨゼフ艦隊からの主砲ビームが悉く貫通し始める。
艦体を包むエネルギーシールドに命中した、ヨゼフ艦隊の戦艦主砲のビームは、猛烈なプラズマ乱流を巻き起こす。それは艦の制御システムの各種を、機能低下に陥れた。航行速度が次第に落ちてゆき、艦隊全体の行き足が鈍る。それでもガヴァラは闘志を滾らせて命じた。
「くそっ! 怯むな、攻撃続行!!」
対するヨゼフは、勝機を見逃さない。
「重巡戦隊、敵旗艦に一斉雷撃!」
ヨゼフの命令で、戦艦戦隊と並走していた六隻の重巡航艦が、四本ずつの宇宙魚雷を発射する。目標はすべて、ガヴァラのいる旗艦だ。
「敵重巡戦隊、魚雷発射! 本艦が目標と思われます!!」
「回避運動!! 迎撃急げ!!」
オペレーターの悲痛な報告に、旗艦艦長の命令が甲高い。ガヴァラが自分の深追いを、“しまった…”と悔恨する。回避運動に入った旗艦が、大波に飲まれたように激しくうねり始めた。だが―――
ズシン、ズシン、ズシン!…と、腹にまで響く震動、いや衝撃が三つ、ガヴァラの足許から湧き上がる。回避と迎撃をものともせず、命中した三本の宇宙魚雷だ。
「この艦はもう駄目です。ガヴァラ様はご退去―――」
旗艦艦長が振り返って離艦を促そうとしたその時、ガヴァラの視界は艦橋の床を突き破って噴き上げた、爆発の炎に覆われたのであった………
旗艦と艦隊司令を失った“三人衆軍”第7艦隊は、統制もままならず戦場からの離脱を開始する。しかしヨゼフ艦隊も、“ミョルジ三人衆”筆頭のナーガスがいる第1艦隊へ、再度の突撃を仕掛けるタイミングを奪われたのも確かであった………
▶#24につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる