348 / 526
第13話:新たなる脅威
#25
しおりを挟むジョシュアの言う“覚悟はできている”の程度までは不明だが、しどろもどろな反応を見る限り、ジョシュア自身が思っているほど、死の覚悟など出来てはいないのが一目瞭然であった。いわゆる、“戦場のロマンチシズム”だ。
星帥皇である自分が、自ら宇宙戦艦に乗って戦場で敵を覆滅する。星大名にとっては当たり前の戦い方であり、戦いの現実を知らない者であれば、華美な印象さえ受けるであろう。だがそれは、テレビの中で他国同士の戦争を見ているのと大差ない。言ってしまえば、絵空事と同じである。ノヴァルナが総旗艦『ヒテン』に乗り込む時の想いや、テルーザが『ライオウXX』の操縦桿を握る時の覚悟とは、全く別の意識なのだ。
そして冷厳な現実を突きつけたのは、意外にも上級貴族筆頭バルガット・ヅカーサ=セッツァーだった。表情こそ穏やかなままだが、開かれた口から出る言葉に、詰る響きを感じさせる。
「陛下…陛下のお覚悟はご立派だと思いまするが、テルーザ陛下は実際に、戦場へお出になられて討ち死になされたのですぞ。陛下は本当に、同じ道を辿られるやも知れぬという事に、お覚悟がございますのでしょうか?」
「もっ!…勿論じゃ!」
身を竦ませながらも言い張るジョシュア。セッツァーは「なるほど…」と応じ、さらに現実を突きつける。
「お覚悟は承りましたが、陛下はもし討ち死になされた場合、あとに残される民草の事は、お考えになられておられますでしょうか?」
当然ながらその場の思い付きで発言したジョシュアに、そこまで頭を回しているはずがなかった。
「なに…民草のこと?」
「さようです。星帥皇陛下のお役目はNNLシステムを制御され、この銀河皇国すべての民の暮らしを守り、豊かにする事に尽きまする。まことに不敬な申し方なれどテルーザ陛下は、これをご軽視なされ戦場にて亡くなられました。その結果、皇国の政治はさらに乱れました」
「む…」
「ですが、それでも皇国にはジョシュア陛下がおられました。陛下が上洛を果たされ、新たな星帥皇となられた事で、その混乱も落ち着こうとしております。然るにここで万が一、陛下を失う事態にでもなれば、もはやあとを継いで頂く方は居られなくなります…ジョシュア陛下は我ら皇国臣民にとって、最後の希望なのでございます」
この辺りは政治折衝に長けた、セッツァーの老獪さであった。些かわざとらしく聞こえる“最後の希望”という言葉だが、流されやすい性格のジョシュアには、充分響くものだったらしい。「余が…皇国の最後の希望…」と呟いて思案顔になる。
単純なものだ。セッツァーが口にした“皇国の最後の希望”という言葉に、ジョシュアは新たなロマンチシズムを見出したらしい。
「余が、皇国の最後の希望と…そうか、そうなのだな」
うつむき加減で呟くジョシュアは、まるで自分で独自の方程式を組み、そこから導き出された答えに納得したような表情になる。
つまりは今しがたの“覚悟”というのも含め、自分が特別な存在である事への承認欲求の衝動が、ジョシュアを動かしていたという事だ。
これには星帥皇となって約半年が経ったジョシュアの、自分に対する焦りが原因となっていた。自分の星帥皇としての、存在感の薄さに対する焦りである。
兄テルーザが星帥皇となり、当時はまだミョルジ家に仕えていた、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガの庇護のもと、好きなだけ考古学の研究に浸っていた生活が一夜にして激変。今や銀河皇国の頂点に立つ身となったジョシュアだったが、本当に自分が星帥皇に足る人間であるのかを、常日頃から不安に感じていたのだ。言ってしまえば、自分という人間への承認欲求が全てだった。
セッツァーはさらに説得の言葉を述べる。
「今は皇国全体が混乱のさなかにあって、揺らいでいる時。闇に怯える民衆にとって、陛下がおわすは彼等を導く、道標の灯でございます。何卒、ご自分のお命を軽んじなきよう…」
「ふーむ…」
一応、考え込んでは見せるものの、ジョシュアの胸の内は決まっていた。少し間を置いて勿体ぶった演技を入れ、仕方なく…といった調子で、「相分かった」と頷きながらセッツァーの上奏を受け入れる。「お聞き入れ頂き、ありがとうございます」と深くお辞儀をするセッツァーは無論、心の中で舌を出していた。海千山千のこの男からすれば、ジョシュアのような世間知らずの青二才など、チョロいものである。
「いや、余も早計であった。余には墓にもっと、やるべき事がある。一時の気持ちの昂ぶりから、それを忘れるところであった。セッツァーよ、感謝する」
礼と称賛の言葉を告げるジョシュア。当然ながらセッツァー当人の思惑は、別のところにあるのだが、結果だけを見ると、素人のジョシュアに最前線まで出て来られて、無謀な陣頭指揮を執られるよりかは、遥かにマシな話だ。
セッツァーは「勿体なきお言葉」と感謝の意をジョシュアに伝え、「では早々に皇都ご退去のご用意を」と続けた………
▶#26につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる