銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第13話:新たなる脅威

#27

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 イ・クーダ家当主カトラスと・イ・ターミ家当主ティーカウォックは、“ミョルジ三人衆”が嫌いであった―――

 こちらも星帥皇ジョシュアの思考と同じく、実に単純だ。しかしこれほど明快なミョルジ家からの離反の理由はない。

 先代のミョルジ家当主ナーグ・ヨッグは星帥皇室を将来的には廃止し、NNLシステムをサイバーリンクを必要としない、自動制御化する事を考えていたのだが、それはあくまでも身の安全を保障しての廃止であった。

 ところがナーグ・ヨッグが自死により他界し、ミョルジ家の実権を握った“ミョルジ三人衆”は、星帥皇テルーザを殺害してしまったのである。するとこれを契機として、カトラス=イ・クーダとティーカウォック=イ・ターミは、三人衆へ不信を募らせ始めた。彼等は悪名は免れない三人衆の“星帥皇殺し”の、片棒まで担ぎたくはなかったからだ。

 そしてテルーザの代わりに、『アクレイド傭兵団』からの技術供与で生み出された、テルーザのコピー人間のバイオノイド:エルヴィスが、星帥皇の座に就けられた事で、イ・クーダ家とイ・ターミ家の離反は決定的となったのである。

「皇国に仇なす、賊軍を討つ。全艦攻撃開始!」

「生かしてアーワーガに帰すな。戦闘開始だ!」

 カトラスとティーカウォックの命令が飛び、イ・クーダ家とイ・ターミ家の艦隊は先を争うように、カトーラ・ガーヴァ小惑星帯へ突入した。

 対する“三人衆軍”は、不足している軽巡と駆逐艦の数を埋めるため、BSI部隊をすでに発艦させ、小惑星の陰に潜ませている。このため両軍は、小惑星の入り口付近から早くも、激しく戦火を交え始めた。

 ただやはり小惑星帯の内部では、軽巡航艦や駆逐艦は機動性を、充分に発揮できない。このため、小惑星の裏側に潜んだ、“三人衆軍”のBSIユニットから狙撃され、イ・クーダ家とイ・ターミ家の軽巡と駆逐艦に損害が広がりだした。

「BSIにはBSIだ。空母部隊に連絡!」

「こちらも機動兵器を投入する! 発艦急がせろ!」

 それぞれに司令官から命令が発せられ、小惑星帯の外側で待機していた両家の空母部隊から、BSIユニットやASGULが一斉に飛び出して来る。

 そしてこの時、ミディルツらのウォーダ軍部隊は小惑星帯の外側から、残存する戦艦部隊による、“三人衆軍”主力部隊への艦砲射撃を開始した。小惑星帯内部へ進入せず、外側から戦艦で砲撃するのには、ミディルツなりの考えがある。爆砕した小惑星の破片を大量に作り出し、敵の軽巡や駆逐艦だけでなく、戦艦や重巡の動きまで封じ込めようというのだ。
 
 ミディルツの思惑は当たり、次々と爆砕される小惑星の破片が、三人衆側の宇宙艦の行動を次第に妨げ始める。砕け散った岩塊が、小惑星と小惑星の間の空間に無数に漂いだすと、艦の航路を塞ぐだけでなく砲撃にも、支障をきたすようになったのである。

 三人衆側の戦艦の一隻が、イ・ターミ家の戦艦に向けて主砲を放つ。だがその大口径ビームは全て、宇宙空間を転がるように射線上へ侵入して来た岩塊に命中し、狙っていた敵戦艦には届かない。

「どうした!? タイミング調整が合っていないぞ!!」

 戦艦の砲術長が、主砲の担当士官に問い質す。射線に侵入して来る岩塊の、コースと速度を解析して、誤射しないよう発射タイミングを僅かに遅らせるのは、可能なはずだからだ。しかし主砲担当士官は、困惑した表情で言葉を返すばかりだ。

「そ、それが、イレギュラーなものが多すぎて、解析が追い付いていない模様!」

 ミディルツ艦隊からの砲撃で爆砕された岩塊が、別の岩塊に激突して双方のコースと速度を変え、さらにまた別の岩塊との激突を繰り返していくため、主砲の射撃支援システムが、イレギュラーに動く無数の岩塊を解析し切れずにいるのだ。

 これに対し、イ・クーダ家とイ・ターミ家艦隊の判断は、妥当なものだった。戦艦部隊は三人衆側の主力部隊に対し、距離を置いての主砲射撃で、さらに大量の岩塊を作り出し、その間に三人衆側が小惑星帯内に待ち伏せさせていた、BSI部隊の迎撃を優先させたのである。

 宙雷戦隊代わりに配置したBSI部隊が苦戦を強いられ、砕かれた岩塊に主砲射撃を妨げられた“ミョルジ三人衆”は、焦り始めていた。主力部隊には大きな損害を出していないものの、軽巡と駆逐艦の減少に続き、今度はBSI部隊の損害が増して来ている。そしてそれ以上に懸念されるのが、時間の浪費だ。
 ここで時間を無駄に使っていると、また新たな敵の増援が出現するに違いなく、進も退くも難しくなってしまうだろう。

 そしてその懸念は一時間も経たないうちに、現実のものとなる。新たな増援の到着である。ただこの増援はミディルツらにとっても、意外なものだった。旗艦『アルバルドル』の艦橋で、ミディルツは眉をひそめて通信参謀に確認する。

「間違いないのか?」

 問われた通信参謀は「はっ!」と背筋を伸ばして告げた。

「オウ・ルミル宙域ノーザ恒星群星大名、ナギ・マーサス=アーザイル様の軍に、相違ございません!」
 
 アーザイル家の若き当主ナギ・マーサス=アーザイルは、この時二十四歳。青みがかった銀髪が美しい細身の青年だった。一見すると大学院生風の温厚そうな若者だが、星大名としての将器には優れたものがある。

 タクンダール艦隊からの通報を受け、緊急出動スクランブル態勢にあった、アーザイル軍第8艦隊を率いてヤヴァルト星系へ急行したナギは、星系外縁部に到着と同時に艦隊を最大加速。到着予定の四十三時間よりもさらに早く、三十九時間後には戦場へ到着したのだった。

「こちらアーザイル家のナギ・マーサスです。これよりウォーダ軍に味方し、参戦させて頂きます」

 第8艦隊旗艦の艦橋に直立しているナギは、ミディルツの旗艦に通信回線を開いてそれだけ告げると、参謀達に命じる。

「速度を落とさず、このまま戦場へ直進。合戦準備!」

 そして司令官席に座らせていた。第8艦隊司令官のサデューク=アトゥージアに振り向いた。穏やかな微笑みを浮かべて言う。

「戦闘指揮はきみに任せるよ。そこまで仕事を取っちゃ悪いからね」

 まるで相撲力士を思わせる固太りのアトゥージアは、若き主君からの信任の言葉に、笑みを返しながら「御意」と深く頷いた。



「なに!! アーザイル家のナギ・マーサスだと!?」

 予想外の敵の増援に、その報告を聞かされて驚愕したのは無論、ナーガス=ミョルジだ。緒戦から敵にタクンダール家の二個艦隊が加わった事が、すでに想定外であったのが、ここでアーザイル家の艦隊まで襲来するとは、夢にも思わなかった事態である。

「アーザイル艦隊、艦載機を発艦させつつ接近中!!」

 さらなるオペレーターの報告に、三人衆の中で一番の戦術センスを持つ、トゥールス=イヴァーネルは「しまった」と気色ばんだ。
 ミディルツらのウォーダ軍からの執拗な主砲射撃で、爆砕された岩塊に取り囲まれ、三人衆側は砲撃や航行もままならない。アーザイル軍は即座にそれを見抜き、BSI部隊を先行出撃させて来たのだ。

「このままではジリ貧だ。小惑星帯から出よう!」

 強い口調で訴えるトゥールス。困惑した声で問いかけるソーン=ミョルジ。

「しかしそれでは、まともに撃ち合う事になるぞ。損害が大きくなれば、キヨウ攻略は不可能となる」

「もはやそんな事を、論じている場合ではない!」

 ピシャリと言い放つトゥールス。事態は皇都攻略どころか、段々と生きるか死ぬかのレベルになりつつある。


そして、しかも―――


 その直後…“ミョルジ三人衆”の背筋を凍らせる、知る者ぞ知る高笑いが、全周波数帯通信で戦場に響き渡った。



「アッハハハハハハ!!!!」




▶#28につづく
 
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