銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第15話:カノン・ガルザック撤退戦

#18

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 一方こちらはオウ・ルミル宙域のウォーダ家支配地。ウォーダ家の新しい本拠地となる城が建設中の、アデューティス星系第三惑星ガルドヴァ。

 ノヴァルナの故郷ラゴンによく似たガルドヴァの、緑に覆われた緩やかな丘陵地には、無数の土木機械が集められており、晴天の下で巨大な城―――アデューティス城の基礎工事に勤しんでいる。

 そしてその遥か上空、衛星軌道上ではウォーダ家のBSI部隊総監にして、第6艦隊司令官のカーナル・サンザー=フォレスタが、艦隊旗艦である宇宙空母『グレイシア』の艦橋で吼えていた。

「止めるな、ニーワス。俺は行くぞ!!」

 サンザーの前には、ホログラムスクリーンが横一列に並んでおり、オウ・ルミル宙域軍を構成する、各艦隊司令の姿が映し出されている。彼等のところにも凶報は届いており、緊急でリモート会議が開かれていたのだ。

「行くぞと言われて、何処へ行かれるのですか?」

 落ち着いた口調で問い質すのは、ナルガヒルデ=ニーワス。ノヴァルナの最も信頼厚い重臣の一人であり、三十代前半の若さでありながら、オウ・ルミル宙域方面軍総司令の地位を与えられている。

「決まっている。ノヴァルナ様をお助け仕るのだ!」

「ですから、ノヴァルナ様のおられる場所が、お分かりなのですか?…と申し上げているのです」

「む…」

 サンザーの欠点はシルバータに似て、直情的になり易い点であった。忠義に厚いのも同様で、そうであるからこそ、居ても立っても居られないのだろう。遠征軍からの連絡は“撤退する”という話だけで、敵に傍受される事を考慮し、ノヴァルナがどのコースで、どこへ向けて撤退するのかは知らされていないのだ。闇雲に救援に向かっても、広大な宇宙で邂逅できる可能性など、限りなくゼロに近い。

 ただナルガヒルデからすれば、サンザーのそういった単純明快な面が、羨ましくもあった。気付かれる事無く笑みを零したナルガヒルデは、黙り込んだサンザーに一つの策を授ける。

「…わかりました。サンザー様はノヴァルナ様救援のため、ご出陣下さい」

「なに?」

 怪訝そうな表情をするサンザー。無理もない。今しがた“何処へ行くのか”と、理屈を返した来たところではないか。しかしナルガヒルデの策士としての才は、あのハーヴェンにも劣らないものであった。

「救援に向かわれる先は、どこでもよいので、お任せ致します」

「どこでもよい?…どういう事だ?」
 
 どこでもいいから出動しろ、とはまた奇怪な指示である。ただナルガヒルデはそういう冗談を言うような女性ではないし、言っていい状況ではない。

「どこでもいいからとは、どういう意味だ?」

 謎かけのような指示に頭が冷えて来たサンザーは、声を大きくする事無くナルガヒルデに問い掛けた。他の通信ホログラムスクリーンに映る武将達も、怪訝そうな表情を浮かべている。

「このオウ・ルミル宙域から艦隊を出す事で、我々がノヴァルナ様の撤退先を知っていると思わせ、敵の一部を誘引できると考えるからです」

「…!」

 サンザーは直情的ではあるが、暗愚ではない。ナルガヒルデの言葉に閃くものがあった。フォクシア星人の持つ狐の耳がピンと立つ。その反応にナルガヒルデは一つ頷き、さらに述べた。

「敵は撤退されるノヴァルナ様が、キヨウへ向かわれるのか、このアデューティス星系へ向かわれるのか、それともミノネリラ宙域へ脱出されるのかまでは、掴んではいないはずです」

「ううむ…なるほど」

 アザン・グラン軍なりアーザイル軍なりに、オウ・ルミル宙域軍がノヴァルナの撤退先を知っていると思わせれば、戦力を差し向けて先回りしようとする可能性がある。これが成功すれば、多少なりとも敵の戦力を分散し、ノヴァルナの撤退を間接的に援護できるはずだ。

「おまえさんが、殿下に信頼されてる理由が、良く分かったぞ。艦隊を出すなら、すぐがいいだろう。その方がおっとり刀で駆けつけようとしていると、相手に思わせられるからな」

 賛意と提案を示すサンザーに対し、通信ホログラムスクリーンの中のナルガヒルデは、「そうですね」と頷いてやや右を向いた。彼女の所で展開している通信ホログラムスクリーンで、別の武将に振り向いたのだ。

「ガモフ様とヴェルージ様の艦隊も、サンザー様に同行してすぐさま、出航準備に入ってください。一個艦隊だけでは陽動と見抜かれ、相手にされない恐れがありますので」

 そう言ってカートビット=ガモフの第34艦隊と、ヴェルージ=ウォーダの第35艦隊にも出動を指示したナルガヒルデは、三人に付け加える。

「目的地はお任せしますが、適当な航路は設定せず、一直線にそこへ向かって下さい。その方が切迫感を持たせる事が出来ます」

「了解だ。すぐに準備にかかる」

 即答したサンザーは通信を切って席を立つ。一方のナルガヒルデは、全てのスクリーンが消えた司令官席で人知れず拳を握り締めた。冷静沈着な彼女であっても、ノヴァルナに対する忠義はサンザーやシルバータに引けは取らない。オウ・ルミル宙域軍を束ねる総司令官でなければ…このような性格でなかったなら、自分が艦隊を率いて飛び出していっただろう…

「ノヴァルナ様…どうか、ご無事で」

 ナルガヒルデは握り締めた拳に力を込めて、小さく呟いた。



 そしてこちらは、皇都惑星キヨウの銀河皇国中央行政府『ゴーショ・ウルム』。ゴーショ湾の青い海を見下ろす展望室には、三人の上級貴族が立っていた。彼等が見下ろす眼下の海では、様々な異星文明の古い船が集められた、“銀河文明船舶まつり”が開催されており、様々な形状で色とりどりの水上船が並べられて、多くの観客で賑わっている。

「………」

 無言でその光景を眺めるのは、上級貴族筆頭バルガット・ヅカーサ=セッツァーだった。隣に並ぶ上級貴族の一人が、同じように海を見下ろして話し掛ける。

「二十年ぶりに復活した、あの祭り…ウォーダ家の主催のようですな。なんでも、皇都復興の兆しが見え始めたキヨウの人々に、さらなる励みを与えるため、ノヴァルナ様が開催を命じられたとか」

 するともう一人の上級貴族が、セッツァーの向こう側で、やはり祭りの光景を眺めながら述べた。

「つまらぬ人気取りをされるものですな、ノヴァルナ様も。民草への施しなど、一番最後に回すべきだというのに」

 これに対し、はじめに口を開いた上級貴族が、小馬鹿にしたような声で応じる。

「さよう。ものの順序を知らぬとは、やはり田舎侍…」

 二人の会話にセッツァーは「ふん…」と鼻を鳴らし、冷たく言い放った。

「いずれにせよアザン・グラン家とアーザイル家、それにモーリー家が我等への忠誠を誓い、彼等・・・の支持も得られる見込みが立った今、小五月蠅いあの田舎侍はもはや用済み。腐りそうな芽は、早めに摘んでおくが正解であるよ」

 自分達の腐り具合を棚に上げるセッツァー達だが、その“暗躍する能力”には無論、侮れないものがある。
 銀河皇国のイーゴン教総本山『イシャー・ホーガン』と交渉して、アザン・グラン家と敵対していた、カガン宙域を支配している教徒達を、停戦させたのは彼等であり、ウォーダ軍の遠征部隊に対しアザン・グラン家が、全力出撃出来るようにしたのだ。

 さらにアザン・グラン家は、アーザイル家の前当主クェルマス=アーザイルに、ノヴァルナの遠征軍をエテューゼ宙域まで呼び込んでの、挟撃計画を持ち掛けた。
 当主時代にアザン・グラン家から、多大な支援を受けていたクェルマスは、保守的な性格という事もあってノヴァルナに批判的で、この話に乗ったのである。

“貴殿は大いに役に立ってくれた、ノヴァルナ殿。しかし我等を拒み、些かはしゃぎ過ぎたのが仇となったのだ…”

 眼下の“船舶まつり”で始まった、洋上レースの光景を見詰め、セッツァーは唇の端を禍々しく歪めていった………
 



▶#19につづく
 
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