銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第16話:アネス・カンヴァーの戦い

#33

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 急場をしのいだエイン・ドゥは、戦術状況ホログラムで再度、ノヴァルナの本陣の位置を確認した。すると幸いな事に本陣はこのやり取りの間に、撤退中のアーザイル軍を追うように前進しており、エイン・ドゥからの距離が近くなっている。

“しめた。この位置なら直線で、10分もかからん!”

 エイン・ドゥは機体のジェスチャーで、ゲルノルトに“機体の修理に戻る”と伝えた。無論これは、ノヴァルナに奇襲を仕掛けるための方便である。通信機能に損傷を受けている事が上手い具合に、立ち去る理由になった形だ。

「そうか。イルニー殿は、今でも七艦(第7艦隊)か?」

 ゲルノルトの問いに話しを合わせて、機体の頭を頷かせるエイン・ドゥ。

「了解だ」

 と応じたゲルノルトの『シデン・カイXS』は、右手を掲げて挨拶をした。同様にエイン・ドゥも機体の右手を軽く掲げる。

“よし。やるぞ…”

 と覚悟も新たに、ノヴァルナの本陣に向け、機体を翻すエイン・ドゥ。ところがここでゲルノルトが「待て、イルニー殿」と引き留め、面倒な事を言い出す。自分が従えた二機の量産型『シデン・カイ』の内の一機に、エイン・ドゥの護衛に付いて、第7艦隊の母艦まで送り届けるように命じたのだ。

 “そんな必要はない”と、機体の手を振って断るエイン・ドゥ。第7艦隊の母艦など知るはずもないし、用などない。しかしゲルノルトの親切心が、承知するはずも無かった。単に相手が遠慮していると、受け取ったのだろう。

「いいからこいつを連れていけ。イルニー殿の『シデン・カイ』は、まともに交信できないのだろ。この混戦状態では母艦に近づいても、自分から呼び掛けられないままだと、変に怪しまれる恐れがある」

 ゲルノルトの言い分は筋が通っている。今ここでエイン・ドゥが疑われずにいるのは、彼等の援護を受け、彼等の眼の前でアーザイル軍の機体を撃破したからで、そうでなければむしろ、エイン・ドゥの機体の本来の持ち主を知るゲルノルトに、もっと疑われていたはずだ。

 ここは致し方あるまい…と、エイン・ドゥは機体を頷かせて、『シデン・カイ』の同行を了承した。当然ながら、ノヴァルナの本陣へ向かう途中で、始末しなければならず、無駄な殺生をしてしまう事になるが。

 『シデン・カイ』を引き連れて去って行く、イルニー(エイン・ドゥ)の機体を見送ったゲルノルトは、残る一機の部下に周囲を警戒させ、念のため第7艦隊のBSI部隊コマンドコントロールに、一報を入れておいてやろうとした。
 
“しまった…イルニー殿に、母艦名を訊いておくんだった”

 そう思いながらゲルノルトはNNLを使って、コクピット内にウォーダ家第7艦隊の編制情報を、小振りなホログラムスクリーンに表示展開させる。そして同時に立ち上げたホログラムキーパッドで、兵員名検索画面を呼び出し、BSIパイロット登録者名簿を選択、ビルドール=イルニーの名を入力して検索にかけた。所属中隊から母艦名を割り出して、連絡しようと考えたのだ。

 やがて検索結果が表示されると、ゲルノルトは「?」と首を傾げた。第7艦隊所属の兵員情報に、ビルドール=イルニーの名が見当たらないからだ。

“妙だな…”

 イルニーが立ち去る際に、今でも第7艦隊の所属なのかを尋ね、相手の機体が頷いていたのは間違いない。このパイロットが行方不明にされていた、“カノン・ガルザック撤退戦”からはひと月以上が経っており、記録も更新されているはずだ。

“どういう事だ…”

 今度はBSIパイロットに絞り込まず、第7艦隊の兵員全てを選択して、再度検索をかける。するとその結果待ちの間に、量産型『シデン・カイ』に乗る部下が、気になる事を言って来た。青白い肌のレクシア星人の女性である。

「ティカナック様…確認なのですが」

「どうした?」と問うゲルノルト。

「先程の方は、シルバータ様の第7艦隊のパイロットですよね?」

「ああ。そのはずだが」

「第7艦隊は先陣を切っているため、もっと向こう側にいるはずですが、今の方が向かわれたのは、この真っ直ぐ先…本陣の方角です」

 訝しげに言う部下の言葉に、ゲルノルトの意識の中で疑念が渦巻き始める。

「なに…」

 その呟きと同時に再検索の結果が表示される。やはり第7艦隊の中に、ビルドール=イルニーの名前は無い。ここでゲルノルトは、ある事を思い出した。自分の知るイルニーは左利きだったという事だ。
 BSIユニットやBSHOは、人型機体の姿勢や手足の動きを、機械操作ではなくNNLシステムを通じて意識で行う。つまり操縦者が左利きであった場合は、機体も左利きとなるはずなのである。

 だがゲルノルトが脳内で再生した、今しがたのアーザイル軍機との戦いでは、イルニーは機体が右手に握ったQブレードで、敵を仕留めていた。
 まさか…と思いつつ、ゲルノルトはイルニーではなく、彼を護衛するように命じた部下に通信を入れる。だが何度か呼び掛けても応答は無い。ますます大きくなる疑念に、ゲルノルトは部下について来るよう告げ、ノヴァルナの本陣方向へ機体を加速させた。



▶#34につづく
 
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