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第1話:大義の名のもとに
#15
しおりを挟む一方の惑星ラゴン表面。こちらでは宇宙空間よりやや早く戦端が開かれていた。キオ・スー家の本拠地、アイティ大陸西海岸に対するナグヤ軍水陸両用部隊の侵攻作戦だ。こちらの部隊は、カルツェの配下であるカッツ・ゴーンロッグ=シルバータの指揮の下、スェルモル城の陸戦部隊で構成されている。
『フラードラ』型宇宙攻撃艇群に護衛された十四隻の強襲降下艦が、陸戦仕様の『シデン』六十機を搭載し、海面スレスレを陸地に向けて飛んで行く。またその20キロ後方を機械化歩兵一個旅団3200名を乗せた、反重力船団が続いていた。
「前方より敵攻撃艇」
「さらにその後方、浮遊砲台」
旗艦にあてられている強襲降下艦『ウェローズ19』の艦橋に、次々と報告が届く。それらの位置を、戦術状況ホログラムで確認したパイロットスーツ姿のシルバータは、厳めしい顔を参謀達に向けてよく通る声で命じた。
「攻撃艇部隊で迎撃。降下艦部隊は針路そのままで、予定の地点に上陸させろ!」
その直後、護衛の攻撃艇部隊が速度を上げて先行を開始する。そしてさらにそれぞれの強襲降下艦が一瞬、青い光のベールに包まれるのが視認出来た。防御用のエネルギーシールドを展開したのだ。
「敵攻撃艇群、対艦誘導弾を発射。着弾まで十二秒、マーク!」
そこに敵が対艦誘導弾を一斉発射したという連絡が入る。こちらの攻撃艇と空中戦に突入するまでに発射しておく、定石通りのやり方だ。しかしその対艦誘導弾は、すぐに護衛の攻撃艇達が、小口径ビーム砲で撃ち落とし始める。青い海と青い空の間で無数に開く閃光と爆炎が、まるでグロテスクな花畑のようだ。
攻撃艇を躱した誘導弾も、今度は強襲降下艦群からの対空砲火を浴びせられる。さらに爆炎の花畑が広がり、百二十発放たれた誘導弾も、その大半が空中で砕け散った。
だがそれでも不運な者はいる。強襲降下艦の一隻が二発の誘導弾を艦首に喰らい、火の玉と化したのだ。五機搭載されていた『シデン』のうち、艦の格納庫後方に積まれていた二機だけが誘爆を免れ、海に飛び込んで命拾いする。
その間に攻撃艇同士の空中戦が開始され、ナグヤ軍の上陸予定地点の空は、黒い爆煙の雲が覆い、空中分解した機体の破片の雨が降り出していた。そんな中でナグヤの攻撃艇の脅威となったのは、海岸線上空に並んだ十六基の浮遊砲台である。
浮遊砲台は直径約三十メートルの球体をしており、反重力ドライヴで空中を移動する自動化砲台だった。上下に重巡航艦クラスの連装ブラストキャノン、さらに左右に小口径の連装ビーム砲を装備しており、汎用性の高い拠点防衛兵器として広く使用されている。
それらの浮遊砲台は、ナグヤ側の攻撃艇がキオ・スー側の攻撃艇の迎撃を掻い潜り、上陸地点上空へ進入した途端、猛烈な対空砲火を浴びせ始めた。この対空砲火が脅威であるのは、それぞれの砲台がネットワークでリンクしており、接近して来た攻撃艇を“チームワーク”で迎え撃つ点だ。一基の砲台からの砲火を回避しても、その回避コースへ向け、別の砲台が狙撃を加えるのである。
しかも上陸予定地点にはキオ・スー家の地上部隊がおり、それらも対空砲火を撃ち上げて来る。攻撃艇が狙うべき目標がその地上部隊なのだが、浮遊砲台と地上部隊の対空砲火の前に、逆に追い回される状況となった。
「航空部隊、苦戦中」
オペレーターの報告に、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータは歯噛みした。当主ノヴァルナから地上部隊司令官に指名され、主君カルツェの名代として指揮を執る以上、醜態をさらすわけにはいかないのだ。いやそれ以上に間もなく、この強襲降下艦部隊が浮遊砲台のビーム砲の、有効射程圏内に入ってしまう。眉間に皺を寄せてシルバータは命じた。
「仕方あるまい。ECMパルス弾を撃て」
それに応じて各強襲降下艦の艦橋後方から、比較的大型で大昔のロケットを思い起こさせる、円柱形の飛翔体が一基ずつ垂直発射された。緩い放物線を描いて空を行くそれは、途中で前方部分の外殻を四つに展開する。中から出て来たのは、細長い紡錘状の物体が一本と、それを取り巻く12個の短い円筒型物体だ。そしてその直後、紡錘状物体が上陸地点上空で一斉に爆発した。
「警告。ECMパルス弾が使用されました」
BSIも攻撃艇も艦艇も、搭載するメインコンピューターが無機質な音声で警告を発した次の瞬間、敵も味方も全てのセンサーと通信網が、障害を受けて機能を著しく低下させ始める。無差別にセンサーと通信機類に対し電子妨害を行う、ECMパルス弾が炸裂したためだ。この時代、軍関係では各装置に、電磁パルスを受けても一定時間で復旧する、対電磁パルス処理がなされているのが標準的である。
だがセンサーや量子通信といった無線の類は電磁パルスの影響を受ける。それがECMパルス弾の狙いだ。
敵も味方も関係なく、センサーや通信が麻痺するのは大雑把ではあるが、味方に対する障害だけを無効化するような複雑な構造にすると、それを敵に解析されて敵も無効化、あるいは逆利用される恐れが出て来る。となれば、敵味方双方のセンサーや通信を麻痺させ、条件を同じにする方が良い、というのがこの兵器のコンセプトだった。
また紡錘状物体の爆発によって、その周囲に散らばっていた円筒型物体も弾け飛んだのだが、その中に入っていたのは伝導体微粒子で、それが大量に大気中に留まる事で、障害効果を持続させる事が出来る。要するに、全ての戦闘兵器が旧態依然の、通信手段のない中での目視による照準に頼らざるを得なくなったのだ。危険な手と言えば危険な手だが、ある意味、猪突猛進が売り物のシルバータらしい豪胆さと言える。
ただ案の定、自動化された浮遊砲台からの射撃は著しく照準が低下し、ナグヤの攻撃艇に命中弾を得られなくなった。さらに各強襲降下艦では、浮遊砲台主砲の有効射程に入ると同時に、回避運動を行うよう命令が発せられる。ジグザグ航行を開始する強襲降下艦。浮遊砲台が主砲を発射し、灼熱のビームが襲い掛かるが当たらない。すると一基の浮遊砲台が、急降下して来た攻撃艇のビームを受けて爆発を起こす。ECMパルスによって、エネルギーシールドも弱体化しているのだ。
「上陸地点海岸線まで三千」
「全艦上昇開始!」
報告と命令が飛び交い、強襲降下艦は一斉に高度を上げ始めた。同時に艦の両側に装備した20センチ連装ポジトロンキャノンが、地表に向けて牽制射撃を開始する。上陸地点に無数の爆炎が巻き起こった。また近くの森から火の手が上がり、キオ・スー側の何かの観測装置があったのか、爆発と共に飛び散る金属片が陽光を反射させる。
「BSI部隊、降下はじめ!」
「降下ー! 降下ー! 降下ー!」
低角度で斜めに上昇を続ける強襲降下艦の底が開き、ナグヤ側のBSIユニット『シデン』の陸戦仕様機が飛び出して来る。それらは小さなソリのようなものに立っているが、地上からの対空砲火を防ぐ、足下防盾と呼ばれるものである。
そして無論、降下したBSI部隊の中には、シルバータの乗る『シデンSC』の姿もあった。大声で叫ぶシルバータ。
「奴等を踏みつぶせ!」
▶#16につづく
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