19 / 508
第1話:大義の名のもとに
#18
しおりを挟む「なに!? 機甲部隊が突破され、浮遊砲台の支援ラインが攻撃されているだと!?」
野戦司令部を離れて前進を始めていた、キオ・スー地上軍司令のチェイロ=カージェスは、想定外の報告に、搭乗するBSHO『シンセイCC』のコクピット内で顔をしかめた。浮遊砲台の火力支援ラインは、この後に上陸が予想される、ナグヤ軍の機械化歩兵部隊への攻撃に対しても、欠かせないものだ。
「はっ。前線からの情報ですと、敵の陸戦BSI部隊が煙幕の中から突撃を開始。我が機甲部隊を振り切り、浮遊砲台とその周囲に配した歩兵連隊へ、攻撃を行っているとの事。すでに被害が出ております」
野戦司令部からの返答を受け、チェイロは「敵のBSI部隊の数は?」と尋ねる。
「およそ三十」
三十だと?…と眉をひそめるチェイロ。当初の報告では、上陸して来たナグヤの陸戦BSIの数は六十前後だったはずだ。それをこの短時間で半数にさせてもなお、突撃を敢行して来るとは…そこまで考え、チェイロは敵の司令官が誰であるか思い至った。
カッツ・ゴーンロッグ=シルバータ―――直接の面識はないが、二十代半ばの若輩ながら実直な家臣である一方、ナグヤ=ウォーダ家でも名うての“猪武者”だという。
“命知らずの愚か者か…だが、みすみす被害を被るわけにもいくまい”
そう思ったチェイロは、随伴する六機の部下に命じる。
「急げ。我等も浮遊砲台の支援に参加する。敵のBSI部隊を排除するのだ」
加速をかけるチェイロの『シンセイCC』と、六機の陸戦『シデン』。数は少なくとも、BSHOの戦闘力はBSIとは比べ物にならない。そしてそれを操縦するチェイロには、キオ・スー軍BSI部隊総監として、ナグヤの“猪武者”の若輩者に負けるはずがないという自負があった。
そのチェイロ率いるBSI小隊の接近にいち早く気付いた、ナグヤ家のBSIパイロットがシルバータに警告する。
「シルバータ様。敵の新手が接近中です。BSIの小部隊と思われ…い、いや、中にBSHOがいます!!」
途中から声を上擦らせる部下の報告に、シルバータはいかめしい顔をさらに強張らせて問い質した。
「BSHOだと?…機種は!?」
「き、機種…『シンセイCC』! キオ・スー軍BSI部隊総監、チェイロ=カージェス殿です!!」
それを聞いたシルバータは、臆するどころか武者震いを覚えた。
シルバータはカルツェ支持派の中心人物の一人であるが、これまで何度か述べられた通り、自らの出世のためのカルツェ支持ではなく、ナグヤ=ウォーダ家のためにノヴァルナよりカルツェの方が当主に相応しいと考えている男だった。
それゆえナグヤ=ウォーダ家のため、ここで敵将チェイロ=カージェスを討つ事の重要性は充分理解している。その敵将が向こうから早くもやって来たのだから、勇猛をもって鳴るシルバータが、気持ちを高揚させるのも当然だった。
「良き敵ござんなれ、とはこの事よ!!」
そう叫んだシルバータは、自分の周囲にいる『シデン』に呼び掛ける。
「アヴィーゴ、キームル、ジバザック。他の者も、我に続ける者は来い! 敵将チェイロ=カージェスを討つ!!」
名前を呼ばれた三名の他にも、シルバータを含めて十一名のパイロットが、それぞれの『シデン』の操縦桿を握り締めて、接近中のキオ・スーBSI部隊へ立ち向かっていく。
地上戦闘は宇宙空間での戦闘より遥かに低速で、例えば同じ惑星ラゴンの衛星軌道上で今まさに戦端が開かれ始めた、キオ・スーとナグヤの宇宙艦隊同士の戦闘に比べれば、まるで鈍重な亀の喧嘩のようだ。
しかし惑星表面での地上戦の環境は宇宙空間とは全く別物で、惑星の重力に加え、様々な地形の情報を脳が処理せねばならず、速度感で言えば宇宙戦闘とはまた別の感覚が働くものである。
シルバータ以下十一機の『シデン』隊が、チェイロ=カージェスの隊と遭遇したのは、浮遊砲台とその周囲に配置した歩兵部隊が、シルバータ達と分離したナグヤBSI部隊と交戦している位置から、北東に約十キロ離れた岩の多い台地だった。
樹木の少ない草原の所々に、白い花崗岩の大きな塊が、地中から角のように突き出す特徴的な地形の中で、反重力ホバーを使って高速移動しながらシルバータの親衛隊仕様『シデンSC』が超電磁ライフルを放つ。その銃弾は、速度を上げて躱したチェイロの『シンセイCC』の後方にあった、花崗岩の角の一つを盛大に砕き飛ばした。
「散開しろ!」
反撃の銃弾をシルバータ機に放ったチェイロが、配下の六機に命じる。その反撃を回避したシルバータも部下に告げた。
「各個に対処。残りは俺と来い!」
シルバータの指示で、六機のナグヤ側『シデン』が、キオ・スー側の『シデン』と一対一の戦闘に入る。
▶#19につづく
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる