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第2話:混迷は裏切りとともに
#04
しおりを挟むミノネリラ宙域で最もデリケートな話題を、事も無げに言い放ったギルターツに“ミノネリラ三連星”は戸惑いを隠せない。
「我が実母ミオーラはイースキーの一族。そしてリノリラス=トキの祖父は、同じくイースキー家からトキ家へ入った者である。わしがイースキー姓を名乗るに、何の問題もあるまい?」
「た…確かに、リノリラス様の祖父君については、そのような話を聞いた事が、ございますが…」とナモド。
「ではギルターツ様は、トキ家の御嫡子である事を、お認めになるのですか?」
事態の重さに、腹痛でも起こしたかのような顔でアンドアが尋ねる。アンドアだけでなく、イナルヴァとナモドも表情を強張らせ始めていた。このような話を、わざわざ旗艦に呼び寄せて直接伝えて来るとなると、妙な胸騒ぎを感じても不思議ではない。
ギルターツはアンドアの問いに、直接答える事は無かった。だがそれよりも重い言葉を口にする。
「そのような事は今はよい。大事なのはこれよりこのミノネリラ宙域は、サイドゥ家ではなく、我がイースキー家が支配する、という事だ」
「!!??」
「そ、それは!!」
「ド!…ドゥ・ザン様は、どうされますので!?」
動揺も露わな三人。
「ドゥ・ザン殿にはこの際、引退して頂く。一戦所望されるなら、それも良いが」
「なんと言われます!?」三人は同時に声を上げた。「そっ…それは!…ご、ご謀叛にございますか!?」とイナルヴァが口ごもりながら続ける。
「謀叛を起こしていたのは、ドゥ・ザン殿の方であろう。元々ミノネリラ宙域はトキ家のものであったのだからな」
ギルターツが述べているのは昨年、イマーガラ家の当時の宰相セッサーラ=タンゲンから、秘密協定の締結と共に与えられた策であった。ノヴァルナとノアが皇国暦1589年のムツルー宙域に飛ばされていた間に、ヒディラス・ダン=ウォーダと共にドゥ・ザンをも倒し、ギルターツにミノネリラ宙域を治めさせる事を企図したものだが、ノヴァルナとノアの生還やそれに伴う、ナグヤ=ウォーダ家とサイドゥ家の同盟成立のため、保留状態となっていたのだ。
そしてギルターツが発した言葉に、三人は慄然とした。
「ドゥ・ザン殿も、オウ・ルミル宙域方面へ向かって留守の今、イナヴァーザン城は我が子オルグターツ率いる地上部隊が、制圧しているはずだ」
「むうぅ…」
呻き声を漏らす“ミノネリラ三連星”に、ギルターツは旧名門貴族イースキー姓を名乗る意義を伝える。
今でこそ枯れた感のあるドゥ・ザン=サイドゥだが、その半生は父ショウ・ゴーロン=マツァールと共に歩んだ、野望と欲望の道であった。皇国貴族でもあった旧主君トキ家を、自分の野心のためだけに追放したドゥ・ザンは、領民からの支持を得られず、その統治に今でも苦しんでいる。
さらにトキ家を追放した事で、領域を接するオウ・ルミル宙域のロッガ家や、エテューゼ宙域のアザン・グラン家といった、トキ家と友好関係にあった星大名達との関係が険悪になった上に、銀河皇国の貴族達の後ろ盾も得られなくなったのである。
これらのこじれを解消し、改善するための方策が、ギルターツがイースキーの一族として、またトキ家嫡流として皇国貴族に列される事であった。そしてそれを銀河皇国に斡旋するのが、同じく皇国貴族でもあるイマーガラ家だ。
イマーガラ家の目的はギルターツが支配するミノネリラ宙域と、イマーガラ家に友好的なイル・ワークラン=ウォーダ家、もしくはキオ・スー=ウォーダ家に支配させる予定のオ・ワーリ宙域との間で、三国同盟を作り上げる事である。
星帥皇室支持派のイマーガラ家からすれば、ホゥ・ジェン家、タ・クェルダ家との三国同盟、サイドゥ家あらためイースキー家とウォーダ家との三国同盟、さらにロッガ家やアザン・グラン家を加え、巨大な安定勢力圏を作り上げる事で、星帥皇室を傀儡にして銀河皇国の支配を目論むミョルジ家ら、新興勢力に充分以上に対抗出来るようになるのだ。
「しかし…そのような話を伺っても…」
と困惑顔のイナルヴァ達。理屈は通っているが、結局はイマーガラ家の思惑に、乗せられているようにしか思えない。ただギルターツはそういった反応も、織り込み済みだったらしい。
「お主達の迷いは理解している。そこで選択肢だ」
「は?」
「わしはこれよりバサラナルムへ引き返す。わしに味方するか、ドゥ・ザン殿の下で我が敵となるか…決めよ」
「………」
硬い表情で言葉に詰まる三人の武将に、ギルターツはギラリと目を光らせて告げた。
「急ぎはせぬゆえ、答えは慎重に選べ。オルグターツが制圧中のバサラナルムには、お主達や、お主達の兵の家族が居る事も加味してな………」
▶#05につづく
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