銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
26 / 508
第2話:混迷は裏切りとともに

#05

しおりを挟む
 

 ミノネリラ宙域で起き始めた大きなうねりを、今のノヴァルナに知るすべはなかった。いや例えその術があったとしても、何より今は、巨大なプラント衛星の制御に神経を集中しなければならない時だ。前方では『ホロウシュ』達と、キオ・スー軍の交戦による爆発光が断続的に輝く。

 サーマスタ=トゥーダの『シデンSC』が超電磁ライフルを放ち、キオ・スーの量産型『シデン』の腹部を撃ち抜く。ヴェール=イーテスが敵の振り下ろしたポジトロンパイクを、自らのポジトロンパイクで打ち防ぎ、前線で指揮を執るヨヴェ=カージェスが、手にしたQブレードで敵の『シデン』を、袈裟懸けに切り裂く。

 また先日のムラキルス星系攻防戦で専用機を失い、量産型『シデン』でこの戦いに参戦している『ホロウシュ』は、キオ・スーの宙雷戦隊に立ち向かっていた。

 軽巡航艦からの熾烈な迎撃砲火を掻い潜り、対艦徹甲弾を超電磁ライフルから撃ち込むタルディ・ワークス=ミルズ。さらにミルズ機を背後から追い抜いて飛び出した、セゾ=イーテスの機体が、軽巡の下から滑り出して来た駆逐艦の艦橋周辺に、弾丸を連続発射した。『ホロウシュ』達はみなよく戦い、BSIユニットも宙雷戦隊も、ノヴァルナの『センクウNX』へ近寄らせない。

「狙うはノヴァルナ殿下の機体だ。発射が可能な艦は、誘導弾を集中させろ!!」

 炎とスパークに包まれたキオ・スー軍軽巡の艦橋で、宙雷戦隊司令が叫ぶ。接近が困難ならば、大量の誘導弾で『センクウNX』を押し潰そうという算段だ。軽巡と駆逐艦が発射管を開き、次々と誘導弾を射出する。その直後、命令を出した司令官を乗せている軽巡航艦は、爆発を起こして砕け散った。

 撃ち出された誘導弾の数は74発。それまでに『ホロウシュ』の『シデン』へ向けて使用していたため、二個宙雷戦隊が一斉発射する数としては多くない。だが『センクウNX』はプラント衛星のコントロールを行っているため、大きな回避行動を取る事が出来ない。

「行ったぞ、ウイザードゼロツー、ゼロスリー!!」

 超電磁ライフルで敵の『シデン』のバックパックを破壊し、閃光で包んだヨヴェ=カージェスが振り返って、後方に控えるササーラとランに告げる。ササーラとランの機体がいる位置は、『ホロウシュ』とキオ・スー部隊の交戦地点とノヴァルナの『センクウNX』の中間であった。

「やれやれ…ミサイル撃ちは、得意じゃないんだがな」

 ランの機体と並んで宇宙空間に直立して浮かぶササーラは、センサー画面に表示された敵の誘導弾の群れを見て、どこか暢気な口調で言った。それに対しランは真面目な口調で窘める。誘導弾の到達まで三分も無い。

「無駄口を言う時間は終わりだ、ウイザードゼロツー」

 さらにランは超電磁ライフルを単発モードに切り替え、電子戦特化型『シデンSC-E』に乗るショウ=イクマを呼ぶ。イクマの機体はキオ・スー部隊との交戦には加わらず、少し離れた位置で、敵照準センサーに対する電子妨害を行っていた。

「ウイザードトゥエンティ」

「こちらウイザードトゥエンティ」

「これよりウイザードゼロツーと共に、敵の誘導弾に対する単発狙撃を行う。数が多い、そちらのイルミネーターで照準補正を頼む。至急だ」

「了解」

 敵の宙雷戦隊から一斉に誘導弾が発射された事は、無論、『センクウNX』に乗るノヴァルナや、その直掩任務に就いているキッツァート=ユーリス以下、シヴァ家のBSI中隊も確認していた。

 ここまで『ホロウシュ』達と、キオ・スー軍の激しい戦いを目の当たりにして、すでに緊張の極致に達していたキッツァートは、敵の宙雷戦隊が一斉発射した大量の誘導弾が、自分達を狙ったものだと気付いて、泡を食ったようにノヴァルナに告げる。

「ノ、ノヴァルナ様。て、敵の誘導弾があんなに!」

 ところがノヴァルナは、二十歳のキッツァートより三つも年下ながら、対照的に慌てる様子もない。

「ああ、ノープロブレムってヤツさ」

「は?」

 至って普通なノヴァルナの物言いに、キッツァートはポカンと口を開ける。

「まぁ見てな」

 そうノヴァルナが言った直後だった。ランとササーラの『シデンSC』が、超電磁ライフルを撃ち始める。単発の射撃を角度を変えながら素早く繰り返すと、照準もピタリ、誘導弾は片っ端から爆発しだした。

 ショウ=イクマの『シデンSC-E』とリンクし、複数の目標を同時にロックオンする、イルミネーター機能を強化したランとササーラの射撃は正確無比で、まるでトリガーを引くだけの単純作業だ。ただ射撃の間も誘導弾は飛んで行く。ランとササーラは合わせて25発を爆破したところで、機体を前に向かせたまま、後方へ―――ノヴァルナ機の方への移動を開始した。誘導弾と速度を合わせるためだ。

 機体を後退させながらのランとササーラの狙撃の前に、キオ・スー軍の誘導弾は次々と砕け散っていく。ノヴァルナはプラント衛星の前に陣取り、逃げ出す様子はない。立て続けに起きる爆発に周囲の機体は明るく照らし出され、それを演出する二機の鮮やかな手並みに、キッツァートは感嘆の声を上げる。

「凄い…」

 ただランもササーラも実際には、予想以上の苦労だったようで、全ての誘導弾を撃破し終えたのは『センクウNX』の直前だった。ノヴァルナは『センクウNX』の両腕を広げ、慣性で流れて来たランとササーラの、『シデンSC』の腰を後ろから支えて止めてやる。

「二人ともお疲れー」

 お気楽そうに声を掛けるノヴァルナに、ランはまるで自分自身の腰に手を回されたかのように、戸惑いがちに「あ…ありがとうございます」と応じる。するとキオ・スー軍の部隊は、この状況に引き返し始めた。撤退である事は間違いないのだが、最低限の目的は果たしたというのが理由の半分だ。

 その理由と言うのが、『ホロウシュ』が行っていたプラント衛星周辺の、電子妨害の解消である。宙雷戦隊がノヴァルナの『センクウNX』に対して行った、誘導弾の一斉発射に対処するため、ショウ=イクマの電子戦特化型『シデンSC-E』が電子妨害を中断した事によって、キオ・スー城へ向けて降下中のプラント衛星の正確な位置情報をはじめ、地上のキオ・スー側対宙基地がビーム砲撃を行うために必要な、各諸元を得る事が出来たのだ。

 ショウ=イクマ機がイルミネーターを、ランとササーラの機体にリンクさせていたのはほんの三十秒ほどであったが、全神経を集中させていたキオ・スー城が砲撃に必要なデータを取得するには充分な時間であった。キオ・スー城内の中央作戦室では、ダイ・ゼン=サーガイが戦術状況ホログラムを眺めてニタリと笑みを浮かべ、その背後で司令官席に座るディトモスがおもむろに頷く。

 戦術状況ホログラムには、電子妨害を受けていた時の大まかな数値と照準ポイントとは違い、正確な降下コース予想と最適狙撃点が浮かび上がって、ゆっくりと点滅している。

「狙撃点、東経36.583度。北緯24.188度、高度85300」

 オペレーターが狙撃点を言葉で報告すると、ダイ・ゼンは硬い口調で命じる。

「西海岸の砲台をナグヤ艦隊に向けている分、一点集中が必要だ。心せよ!」




▶#06につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

処理中です...