銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
31 / 508
第2話:混迷は裏切りとともに

#10

しおりを挟む
 
 他方、ソーン・ミから支援要請を受けたキオ・スーのBSI部隊だが、こちらも総旗艦の救援どころではなくなっていた。総旗艦の護衛が第一の任務であり、味方の一般兵を放置してでも引き返そうとする総旗艦親衛隊のBSIの行く手に、ナグヤ=ウォーダ家BSI部隊総監―――“鬼のサンザー”ことカーナル・サンザー=フォレスタ自らが、精鋭一個中隊32機を率い、専用BSHO『レイメイFS』で立ちはだかったのである。

「ここから先は通さぬぞ!」

 大型十文字ポジトロンランスを頭上で大きく一つ振り回し、ピタリと脇に抱えて言い放つサンザー。その言葉を合図に、直属一個中隊の各機が、キオ・スーBSI親衛隊に挑みかかった。たちまち始まる壮絶なドッグファイト。その中でサンザーの正面で対峙する、キオ・スー親衛隊の『シデンSC』三機が、ポジトロンパイクを手に身構える。

「く!…“鬼のサンザー”か!」

「ならば、押して通るまで!」

「我等とて、総旗艦親衛隊。引くわけにはいかん!!」

 敵パイロット達の言葉に、サンザーは獰猛な笑みを浮かべた。

「その意気や良し! かかって参れ!」

 カーナル・サンザー=フォレスタはラン・マリュウ=フォレスタの父親であり、狐のような耳と尻尾が特徴的なフォクシア星人である。だがこの時のサンザーの笑みは、狐というより狼のような印象を放っていた。

 斬りかかって来る一機目のポジトロンパイクを、十文字ポジトロンランスで絡めて弾き飛ばすと、そのまま振り回したランスの柄の先で側頭部を打ち据える。しかしそれ以上の攻撃は危険だ。次の『シデンSC』が眼前に迫り、ポジトロンパイクを振り下ろして来たからだ。瞬時に『レイメイFS』を加速させたサンザーは、二機目の懐に飛び込んでパイクの斬撃より先にショルダータックルを食らわせた。

 そしてのけぞる二機目の向こうからは、こちらに超電磁ライフルの銃口を向けた三機目がいる。咄嗟に機体を翻して三機目の銃撃を回避したサンザーは、三機目の『シデンSC』へ、手にしていたポジトロンランスを投げ放った。完全なカウンターとなったその投擲は三機目の胸板を貫き、機体の機能を麻痺させる。

 するとサンザーのコクピットに、背後からロックオン警報。一機目が至近距離からライフルを向けている。後ろを振り向く事なくそれを察知したサンザーは、瞬時に機体をスライドさせて回避した。
 さらにサンザーは機体を急回転させて、二機目の『シデンSC』の背後に回り込む。二機目のバックパックに組み付いたサンザーの『レイメイFS』は、一機目の超電磁ライフルからの盾に二機目を利用。一機目が躊躇いを見せた一瞬、二機目の背中を突き飛ばす。

 二機の『シデンSC』が正面衝突する隙に、『レイメイFS』は腰のクァンタムブレードを起動して抜き放った。二機の『シデンSC』もQブレードを抜いて応戦しようとする。しかし鑓の腕だけでなく、サンザーは剣の腕にも覚えがあった。瞬時に間合いを詰めると、目にもとまらぬ速さで、二機の手足をバラバラにして戦闘力を奪う。三機目の機体も胸板を貫かれて中枢コンピューターが破壊され、行動不能となっただけで、パイロットは無事である。

「サ、サンザー殿。なぜ我等を殺されぬ?」

 宇宙空間に漂うだけとなった『シデンSC』のパイロットが、通信で訪ねて来る。それに対するサンザーの答えは、“鬼のサンザー”という異名からすると、思いも寄らないものであった。

「お主達のような忠勇の士を、このような戦いで死なすには惜しいからな」

「それは…?」

「いずれキオ・スーはノヴァルナ様のものとなる。そしてその次はイル・ワークラン家が相手となろう。その時にノヴァルナ様には、お主達のような忠勇の士が必要だ。策謀を弄して、旧主たるシヴァ家を滅ぼそうとするようなキオ・スー家が、お主達の忠義を尽くすべき主君でよいのか…考える時間をやろう」

 そう言ってサンザーは、行動不能のキオ・スーの機体に、捕虜回収用のビーコンを取り付け、新たな相手を求めて飛び去って行った………

 そのサンザーの娘ラン・マリュウ=フォレスタは、ノヴァルナの『センクウNX』を追って、キオ・スー艦隊総旗艦『レイギョウ』へ迫っている。その右斜め後方を飛ぶのは同僚のヨヴェ=カージェスの機体。それから距離を置いてナルマルザ=ササーラ。あとの『ホロウシュ』達の機体もついて来てはいるが、全周囲モニター上に姿は見えない。各々の操縦の技量がノヴァルナとの距離となった形だ。

「遅いぞ、ゼロツー!」

 ササーラ機を符牒で呼びつけて叱咤するランに、ササーラから「無理言うなって!」と応答が入る。速度と機動性に優れるランと、総合力で秀でたカージェスに対し、ササーラが得意なのは格闘戦であって、このような場合では差がついてしまう。

 そこへ先行するノヴァルナから、戦術指示が送られて来た。ランだけではなく、『ホロウシュ』全機に対してだ。コクピットの戦術状況ホログラムに映し出された、その指示を見て、ランはノヴァルナに“この状況で、よくこんな作戦を思いついて、送って来る余裕が…”と感嘆する。

 回避運動を続けて追撃を振り切ろうとする、敵の総旗艦『レイギョウ』の周囲には、小回りの利く宙雷戦隊の軽巡や駆逐艦がなおも多数随伴して、こちら進路を妨害し、迎撃を仕掛けて来ている。先行しているノヴァルナは、それらが集中するのを躱しながら、この状況に即した戦術を組み立て、『ホロウシュ』各機に指示を出しているのだ。

 武闘派準貴族階級―――いわゆる『ム・シャー』は、星大名の嫡子も含み、幼少の頃から軍事・軍略について英才教育を受けている。古今東西の軍事知識をNNLの記憶インプラントで刷り込まれ、シミュレーションと実戦的な教練で、それを自分のものにしていくのであるが、最終的に『ム・シャー』としてどのような花を咲かせるかは、個人の性格と才覚と育ち方、そしてなにより初陣を経てからの経験によるものが大きい。

 それからすると、ノヴァルナ・ダン=ウォーダは、若くして幾多の戦いを経験し、いよいよこの戦いで、傑出した将器の花を咲かそうとしていた。『センクウNX』で戦場に飛び出していながら、その戦場全体の動きを感覚…いや、肌で感じられるまでになっていたのである。『センクウNX』とサイバーリンクした、NNL(ニューロネットライン)を介して脳に流れ込む、味方の艦艇やBSIユニットからの情報が、ノヴァルナの意識の中に戦場そのものを作り上げる。それは一種のトランス状態と言っていい。

 その中、ノヴァルナが導き出したタイミングで、『ホロウシュ』達は各個に機体を左へ旋回させた。するとどうであろう、ノヴァルナの追撃を回避しようと何度目かの急速回頭を行った、キオ・スー総旗艦の『レイギョウ』に対し、半球状の包囲陣が完成したのである。敵味方双方が驚くのもどこ吹く風、ノヴァルナは落ち着き払って命令を発する。

「よし、網にかかったぜ! 全機、超電磁ライフルをブチ込め!!!!」

 四方八方から銃撃を受けては、遠隔操作が可能な八枚のアクティブシールドがあっても到底、防ぎきれるものではない。無数の対艦徹甲弾を浴びせられて、キオ・スーの総旗艦は激しく身震いした。




▶#11につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

処理中です...