銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第2話:混迷は裏切りとともに

#11

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 着弾の振動が絶え間なく続く『レイギョウ』の艦橋では、艦隊司令官を務めるソーン・ミ=ウォーダが、艦の運用は艦長の職務であるにも関わらず、声を荒げて命令を発していた。

「左舷方向に脱出、至急である! それと敵のBSI部隊を引き剥がせ。宙雷戦隊は何をしているというのだ!!」

 星大名家宇宙艦隊の総旗艦だけあって、多少の対艦徹甲弾を喰らったぐらいでは、『レイギョウ』はびくともするものではない。だがそれに乗っている、司令官の心理状態はまた別物だ。

 ソーン・ミ=ウォーダは昨年秋のイェルサス=トクルガル強奪作戦の際、これを阻止したノヴァルナと『ホロウシュ』達によって、乗艦を包囲されて逃げ場を失い、旗艦ごと人質にされるという、武人としてはこの上ない恥辱を受けていた。その記憶がトラウマとなり、今回の戦いで、ノヴァルナと『ホロウシュ』で構成されたウイザード中隊の接近を、必要以上に恐れて回避運動を繰り返していたのである。

 それが今しがたの、まるでトリックのような機動で突然出現した半包囲の網で、現実として迫って来たとなれば、ソーン・ミの狼狽も想像がつくというものだ。

 しかもこのような総旗艦の慌てふためいた回避運動が、キオ・スー艦隊全体に動揺と士気の低下をもたらした。前進してきたナグヤ艦隊に各所で陣形を突き崩され、味方艦隊同士の連携が取れなくなり始めたのである。

 ノヴァルナは自分の機体周囲の敵味方の展開を、戦術状況ホログラムで確認し、近くまで進出して来ている、ナルガヒルデ=ニーワスの重巡第9戦隊を呼び出した。戦術状況ホログラム上の通信キーを指先で触れ、さらに第9戦隊のマーカーに触れると、自動的に周波数のチューニングが行われ、回線が繋がる。

「9戦、ノヴァルナだ。ナルガを出せ。音声だけでいい」

 ナルガヒルデの乗る旗艦から「了解」と応答があり、十秒も経たないうちに当人が通信回線に出る。戦闘中であっても女性教師を思わせる落ち着き払った声だ。

「はい、殿下」

「おうナルガ。『レイギョウ』の周りにくっついて来る、敵の宙雷戦隊を砲撃で排除してくれ。そしたら俺達で『レイギョウ』をそっちの方へ追い込むから、統制雷撃でありったけの魚雷を叩き込むんだ」

 迎撃に駆けつけて来た、キオ・スーの攻撃艇に銃撃を浴びせて破壊しながら、ノヴァルナはナルガヒルデに命じた。

 ナルガヒルデの反応は素早く、「かしこまりました」と応じて通信を終えると、第9戦隊はすぐに増速しつつ、『レイギョウ』の周囲を並走する護衛の軽巡や駆逐艦に対して、艦砲射撃を開始した。目まぐるしく飛び回るノヴァルナと、『ホロウシュ』達を迎撃しようと必死になっていたキオ・スーの宙雷戦隊は、この横合いからの砲撃に対処しきれず、たちまち被害が拡大してゆく。対BSI戦闘で艦同士を近付け合っていたためだ。

 艦腹に連続して主砲弾を喰らった軽巡が、錐揉みを起こして惑星ラゴンに落下を始めたかと思えば、艦首を吹っ飛ばされた駆逐艦が、大回転状態で衛星軌道から弾き出され、宇宙の彼方へ飛び去る。重巡部隊へ個々に回頭し、応戦を試みた軽巡と駆逐艦が針路を重ねてしまい、激突したところへ二隻の重巡から砲火を集中されて爆発する。

“やっぱ使えるなぁ、ナルガは…”

 ノヴァルナは内心でそう呟き、敵の宙雷戦隊を着実に削り取っていく、ナルガヒルデの手腕に感心した。日頃の言動から派手好きな印象のノヴァルナだが、実際はナルガヒルデのような堅実な家臣を欲していた。そしてナルガヒルデには、高い部隊指揮能力だけでなく、自分から志願してカルツェ派に潜り込み、情報収集を行ったように胆力もある。

“この戦いが終わったら出世させて、戦艦戦隊か空母打撃群でも任せてみっか”

 有能な奴はどんどん重用して、その功に報いてやらなきゃな―――そう自分自身に結論付けたノヴァルナは、機体を急旋回させ、下から突き上げるように『レイギョウ』の艦底に、対艦徹甲弾を三度、四度と撃ち込んだ。さしもの総旗艦級戦艦も、二十機のBSIから無数の徹甲弾を浴びせられ続け、動きが鈍くなっている。迎撃用装備も破壊され、満足な反撃も出来ない。

 しかしノヴァルナらウイザード中隊も、対艦徹甲弾が尽きかけていた。『レイギョウ』はその外殻を覆うエネルギーシールド自体は健在であり、半端な威力のビームや通常弾では貫通させられない。仕留めるにはとどめとなる、あとひと押しが必要だった。

 一方『レイギョウ』でも当然、自艦の危機的状況は十分理解している。先ほどのノヴァルナと重巡部隊の通信を傍受しており、そのとどめとして用意しようとしているのが、重巡部隊の統制雷撃だとの参謀達の判断だ。今の艦の状態では数十本の魚雷攻撃に、耐えられるはずはない。




▶#12につづく
 
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