銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第3話:落日は野心の果てに

#07

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 翌日ノヴァルナはノアと共に、惑星ラゴン衛星軌道上に停泊する、総旗艦『ヒテン』の艦橋にいた。モルザン星系に帰還する叔父のヴァルツと彼の艦隊を見送り、オ・ワーリ=シーモア星系の新たな支配者として、各惑星を巡察するためだ。

「では改めて、ナグヤの城を受領に参る」

 総旗艦『ヒテン』の艦橋でノヴァルナとノアの前に立つ、ヴァルツの等身大ホログラムが、厳つい微笑みを浮かべる。今回の戦いの恩賞で二つの植民星系に加え、ナグヤ城主の座を与えられたヴァルツは、一旦本拠地のモルザン星系へ戻り、体制を整えてナグヤ城に移り住む予定にしていた。

「お待ちしてるッスよ」

 そう応じるノヴァルナと、隣で静かに頷くノアを眺めたヴァルツのホログラムは、顎に手を当てて「ふぅむ…」と唸り、二人をからかってやる。

「そうして貴殿らを見ると、式も挙げておらんのに、すっかり夫婦のようだな」

「ぅえ?…そ、そうスか?」

 赤面してたじろぐノヴァルナとノアに、ヴァルツは「ハッハッハッハ…」と声を上げ、言葉を続けた。

「早う式を挙げるがいい。わしも式でドゥ・ザン殿やサイドゥ家の家来衆と、酒を酌み交わすのが楽しみだからな」

 人の悪い笑みを残してヴァルツのホログラムが消えると、モルザン星系艦隊旗艦『ウェルヴァルド』が、ゆっくりと動き出す。それに合わせ、並んで浮かんでいたノヴァルナの『ヒテン』も前進を開始した。するとその後方に並ぶモルザン星系艦隊と、ノヴァルナの巡察艦隊も航行を始める。

 ノヴァルナの巡察艦隊は特別編成となっており、総旗艦『ヒテン』の他、同じ第1戦隊から選抜した戦艦『ログバール』と『ゼルストル』、あとは駆逐艦が四隻だけだった。キオ・スー家との戦いが終了した直後であり、どの艦も修理や整備が必要な中、この七隻だけを突貫作業で巡察に間に合わせたのである。

 ヴァルツ艦隊と見送りのノヴァルナ艦隊は、オ・ワーリ=シーモア星系最外縁部の、第10番惑星ゼランまで同行、そこからヴァルツ艦隊を送り出したのち、ノヴァルナ艦隊は各惑星の主要軍事施設を訪問しながら、惑星ラゴンへ帰還するのが今回の航行計画だ。

 一週間近く惑星ラゴンを留守にする事になるノヴァルナだが、正直、今の惑星ラゴンは打ち続いた戦闘で疲弊しきっており、ノヴァルナの排斥を目論むカルツェ支持派も身動き出来ない状況で、留守を狙われる可能性はほぼ皆無だった。

 ノヴァルナの艦隊とヴァルツ艦隊は丸一日かけ、第10番惑星ゼランへ到着した。暗赤色の小振りなガス惑星のゼランには、比較的大きな岩石衛星マスクフが回っており、その地表に艦艇の補給基地がある。

 現在の惑星ゼランの位置からさらに外縁部へ向かえば、銀河皇国の超空間ゲートがあるのだが、星大名の宇宙艦隊は皇国が認めた特例以外の場合を除いて、使用が禁じられているため、ヴァルツ艦隊も通常のDFドライヴを繰り返して、モルザン星系へ帰らねばならない。

 補給基地で食料品等を積み込んだヴァルツ艦隊は、ノヴァルナとノアの見送りを受けて発進した。ノヴァルナを支援し、キオ・スー家と戦った今回の作戦行動も、思えば二週間近い遠征となってしまっている。

 小さくなっていく惑星ゼランとその衛星マスクフの姿を、旗艦『ウェルヴァルド』の艦橋に展開した後方モニターで眺めるヴァルツは、司令官席に背中を沈めて深く息をつく。

 その胸中に浮かぶのは、ようやくウォーダ家の中核に入り込む事が出来た…という満足感である。

 ウォーダ家随一の猛将として、一目も二目も置かれてはいても、これまでのヴァルツはモルザン星系を領有する独立管領でしかなく、イル・ワークラン家、キオ・スー家の宗家どころか、兄ヒディラスが当主であった傍流のナグヤ家にも及ばぬ地位だった。

 それが甥のノヴァルナをキオ・スー家当主の座に就けた事によって、首都惑星ラゴンに領地を得ただけでなく、ナグヤ城主として、スェルモル城のカルツェと同格の副将の地位を手に入れる事に成功した。

 以前はナグヤ家寄り中立の立場をとっていたが、兄ヒディラスが死亡して甥のノヴァルナがナグヤ家の当主に就くと、これを積極的に支援する事にしたのも、ヴァルツ自身に今以上の地位を求める野心があったが故だ。

“これなら、あやつも納得するであろう…”

 内心でそう呟いたヴァルツは、モルザン星系首都惑星モルゼナで自分の帰りを待っているであろう、妻のカルティラの顔を思い描いた。

 モルザン星系は家老達の後ろ盾で息子のツヴァールに統治を任せ、自分はカルティラとナグヤ城に住む。派手好きの妻の事であるから、オ・ワーリ宙域の中心星系シーモアの社交界にデビュー出来るとなれば、大喜びするに違いない。

 寂しい思いをさせて来た妻に、やっと報いてやれる―――そう思うヴァルツの口元は、自然とほころんでいた………




▶#08につづく
 
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