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第3話:落日は野心の果てに
#15
しおりを挟む二機の親衛隊仕様『ミツルギCE』は左右に分かれ、ノヴァルナの『センクウNX』を挟撃しようとする。
「ヌマハック・アク!(距離を取れ)」
「ムシャット!(心得た)」
キャーメラー星人の編隊長は母国語で打ち合わせると、超電磁ライフルを構えた。敵の『センクウNX』はポジトロンパイクの他にクァンタムブレードしか装備しておらず、距離を取れば問題ないと思ったのだ。しかしノヴァルナ専用にカスタマイズされた、『センクウNX』の瞬発力は半端ではない。片方の『ミツルギCE』に向けて、韋駄天の如く間合いを詰めた。
「ベフッマ! ノヴァルシェ!!」
自分に向かって来るノヴァルナ機に、片方の『ミツルギCE』は超電磁ライフルをしきりに撃ち放つ。だが当たらない。もう一機の『ミツルギCE』も横合いから援護射撃を連続して行うが、これも全く当たらない。稲妻のようにコースを変える『センクウNX』に照準を合わせられないのだ。
「ガッパ!(くそっ)」
ノヴァルナに狙われた『ミツルギCE』のパイロットは、超電磁ライフルを放り出して自身もポジトロンパイクを掴む。一瞬で目前に迫って来た『センクウNX』に対して、超電磁ライフルをバックパックのウエポンラックに戻している余裕はない。
「ガッパル、BSHO!(くそったれの、BSHOが)」
上級将官専用機のBSHOが並外れた性能である事は、織り込み済みのキャーメラー星人パイロットだった。この二人とて銀河皇国軍の一員として昨年、ミョルジ家との皇都攻防戦を戦ったベテランである。だがミョルジ家と戦った場には、ノヴァルナのような八方破れの敵パイロットなど居はいなかったのだ。
向かって来る『センクウNX』に、ポジトロンパイクを振り下ろす『ミツルギCE』だが、『センクウNX』は自らのポジトロンパイクでそれを打ち払うと、そのままショルダーアーマーごとタックルを喰らわせた。もつれ合えば、敵の僚機からの射撃を受ける恐れはなくなる。
「ざけんじゃ、ねぇ!!」
タックルからの前蹴り、距離が空く相手にさらにノヴァルナは、叫び声と共に右手に握る陽電子の鉾を打ち振るった。敵の『ミツルギCE』の首が吹っ飛ぶ。「クンスッ!!」と翻訳不能の怒声を発し、首を刎ね飛ばされた状態で反撃を試みる敵機。しかし主な近接センサー類が集まる頭部を失った事で、予備に切り替わるためのタイムラグが起きる。
敵機に出来たタイムラグの僅かな隙を、ノヴァルナは見逃さない。左腕のポジトロンパイクで敵の腹部を斬りえぐる。その次の瞬間、ロックオン警報がヘルメット内に鳴り響いた。左から背後に回り込んで来るもう一機の『ミツルギCE』。仲間の死を無駄にすまいと距離を詰めて、狙撃するつもりだ。
ここでもノヴァルナは恐るべき反射神経を見せた。振り返るより早く右手のポジトロンパイクを横に払うと、敵が撃った銃弾を、盾代わりにしたポジトロンパイクの刃で防いだのだ。刃は粉々に砕けたが銃弾もあらぬ方向へ飛んで行く。そして慌てた敵パイロットが次の銃撃を行った時には、『センクウNX』の姿はもうそこにはなく、銃弾は仲間の死骸が乗った味方機を撃ち抜いてしまっていた。
それはノヴァルナの天賦の才である。戦闘前に頭に叩き込んだ、初見である敵機の旋回半径と加速係数だけで、その動きを予測出来ているのだ。
「ベッ…ベルナモ、ラヌ!!(バッ…バケモノか)」
恐怖に囚われたキャーメラー星人指揮官のヘルメット内に、上方向から響く近接警戒警報音。音に従って上を向いたその眼前に、急降下して来る『センクウNX』がポジトロンパイクを構える。
「ヌアク、ベフッマ!!」
罵り声と共にパイロットが超電磁ライフルを上へ向けた直後、すれ違いざまに薙ぎ払われた『センクウNX』のポジトロンパイクによって、『ミツルギCE』の両腕は切断されてしまった。そして『センクウNX』は今度は一気に急上昇へ転じ、『ミツルギCE』の背後を取ると同時にバックパックを切り裂く。対消滅誘爆の危険を感知した反応炉は緊急停止し、エネルギーシリンダー内の液化反物質を緊急蒸発させてしまった。これでもう『ミツルギCE』は、非常用電源しか使用出来ず、戦闘は不能だ。ノヴァルナはすかさず全周波数帯で呼び掛ける。
「おい貴様。公用語は話せるか?」
「は…はい、殿下」
訛りのある皇国公用語で、キャーメラー星人の指揮官は恐る恐る応答した。ノヴァルナは「なら話が早《はえ》ぇ」とぶっきらぼうに言い、さらに言葉を続ける。
「てめぇは生かしといてやる。捕虜ってワケだ。あとで話を聞かせてもらうぜ」
「かしこまりました…ありがとうございます」
キャーメラー星人指揮官は観念した様子で、命を救われた事に感謝の言葉を述べた。
▶#16につづく
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