66 / 508
第4話:忍び寄る破綻
#02
しおりを挟むだが会議を早々に切り上げてもノヴァルナは、シルバータに告げたヌードン屋に行きはしなかった。そのまま執務室へ入って椅子にドカリと座り、少し間を置いてやって来た叔父のヴァルツを迎える。
亡き父ヒディラスの弟であり、どこかに似た面影を残すヴァルツは、ノックと共に執務室へ入ると、ノヴァルナの向かい側に座った。ニヤリと笑みを浮かべて開口一番、甥っ子に皮肉めいた言葉を投げかける。
「いやはや、わざわざ自分から喧嘩を吹っ掛けんでも、よかろうものを…」
ヴァルツも先程の会議に出席しており、ノヴァルナの我儘放題の一部始終を見ていた。それに対し、ノヴァルナはいつもの不敵な笑みを返す。
「まぁ、俺の流儀ですからね」
「しかし、敵を作ってばかりでもな…」
「緊張感…ってヤツです。まだヤツらは完全に、俺を認めたわけじゃないんで」
「ふむ…」
分からんでもない…といった表情で、ヴァルツは小さく頷いた。ヒディラスの後を継いだノヴァルナは、その言葉通り、キオ・スー=ウォーダ家まで支配するようになったとは言え、重臣達の支持を完全に得たわけではなかった。筆頭家老のシウテをはじめとして、いまだに弟のカルツェを当主の座に据える事を目論んでいる者が多い。迂闊に自分から気を許してなれ合っても、いつ寝首を掻かれる結果を招くかもしれないのである。
そしてヴァルツが一人で執務室を訪ねて来たのも、同様の理由だった。父のヒディラスに加え、最大の支持者だった次席家老のセルシュまで失った事で、ノヴァルナには腹蔵なく戦略を相談出来る、年長の人間がいない状況だったのだ。
「ところで叔父御、どう思います?」
本題を切り出すノヴァルナ。今しがたの会議でシルバータが口にした話だ。
「ドゥ・ザン殿から、何も言って来ぬ事か?」
ヴァルツが尋ね返すとノヴァルナはコクリと頷く。
「ええ。ギルターツ達やイル・ワークランの連中が、宙域間の超空間通信サーバーに、妨害を掛けているのもあるでしょうが、連絡を取ろうと思えば不可能ではないはず」
「まずお主は、どう思っているのだ?」とヴァルツ。
さっきの会議では、同盟関係にあるドゥ・ザンに対しての方策を尋ねたシルバータに、ノヴァルナは「ほうっておく」と、捉えようによっては冷淡過ぎるような答えを返した。ヴァルツの問いはその言葉の、本当の意味を知ろうとするものである。
ヴァルツに問い返され、ノヴァルナは思案顔になって応じた。
「…そうですね。“こちらの事は構わず、今は自分の事をせよ”という、ドゥ・ザン殿の無言のメッセージではないかと」
それを聞いてヴァルツはニヤリと頬の筋肉を緩める。
「なんだ。分かっておるではないか」
「叔父上もそのようにお考えですか?」
「おそらくはな…ひねくれ者のドゥ・ザン殿ならば、そのようなところだろう」
自分と叔父の考えが一致した事に、ノヴァルナは安堵したようだった。優れた戦略眼を持ち、洞察力にも長けたノヴァルナだったが、こういった事に関してはまだ若く、経験則が足りない。果たして自分の考え方が正しいのか、確かめる相手がまだ必要な年齢なのである。些細な事ならば自分一人で判断もするが、キオ・スー=ウォーダ家とサイドゥ家の命運に関わる事案となると、慎重にならざるを得ない。
嫡男ギルターツの謀叛で首都惑星バサラナルムを逐われ、窮地に陥ったドゥ・ザン=サイドゥだが、同盟関係にあるノヴァルナに対しては無言を通して、自分から救援を求める事はしていない。ノヴァルナもノアの二人の弟や、サイドゥ家の軽巡航艦『ランブテン』を救助して、初めて具体的な情報を得たのだった。
それをノヴァルナは、救援に来ずとも良い…というドゥ・ザンの意思表示と受け取ったのである。
そもそもドゥ・ザンとノヴァルナの同盟関係は、サイドゥ家が戦力的に不安があるナグヤ=ウォーダ家の後ろ盾となるものであった。そしてノヴァルナがキオ・スー家を手中に収めた今、ドゥ・ザンは、もはや自分は力になれないため、ノヴァルナには自分を救援しようとせず、キオ・スー=ウォーダ家の支配を確立させ、独り立ちできるだけの国力と政治体制を整える事を、望んだのだろう。
ノヴァルナがその事をヴァルツに告げると、ヴァルツは途中で二つ、三つと頷いて話を聞き終えてから、その先の甥の考えを問い質した。
「…で? それに対し、お主はどうする?」
叔父の問いにノヴァルナの答えは淀みない。
「無論。救援に駆け付けます」
「ほほう」
ドゥ・ザンの思惑を知りながらも、それと相反する行動を取ろうとするノヴァルナの返答に、ヴァルツは興味深げな表情で僅かに目を見開いた。さらにノヴァルナは冗談めかして続ける。
「なんせ俺は、傍若無人の大うつけですから」
▶#03につづく
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる