銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第4話:忍び寄る破綻

#03

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 来るなというドゥ・ザンの思惑を知りながら、それでもなお、敢えて救援に向かう意志を見せるノヴァルナに、ヴァルツは“なるほど…”といった顔をする。

「ドゥ・ザン殿の申されている事…その真意も見抜いたか、我が甥御おいごは」

「そのつもりですが…」

 ノヴァルナが見抜いたドゥ・ザンの真意。それは会議でもシルバータが口にした、“信義を通す”という命題だ。

 妻や子をノアのもとへ逃がそうとした時点で、ドゥ・ザンはギルターツに降伏する道ではなく、決戦を挑むという道を選んだ事は間違いない。ただそれは戦力を整える必要もあり、近い日の事ではないはずだ。
 そこでドゥ・ザンはノヴァルナに、信義を通す機会を与えたのである。自分が戦力を整える間にノヴァルナも体制を整え、ギルターツとの決戦には戦力を出せと言うのだ。

 それははじめにノヴァルナも言った、“救援には来るな”というドゥ・ザンの意思表示とは真逆の意味だ。
 実に奇妙な二律背反だが、ここで取り違えてはならないのが、ドゥ・ザンの真意は、ノヴァルナ軍は救援に来てもそれは形だけのものに留めておき、本格的に戦闘には加わるなという事である。

 弱肉強食の戦国にあって自分達が生き延び、覇権を得るために手段を選ばないのは、どの星大名においても同じであった。
 だがその一方で今も昔も変わらないのは、信義を重んじる者をたっとぶ、武人の在り方…生きざまだ。

 信義を通す者と認められた星大名は、他の星大名からも一目置かれ、有形無形の見返りも得られるようになる。例えば、ノヴァルナで言えば先日のミズンノッド家がまさにそうであり、キオ・スー=ウォーダ家とナグヤ家の戦いでは、寝返ったヤーベングルツ家が叔父のヴァルツの軍を足止めしようとしたのを、ノヴァルナの元へ通報した上で、艦隊まで出して逆に足止めしてくれた。

 そういう“ノヴァルナは信義を通す者”という評価を、周囲の勢力に定着させるため、ドゥ・ザンはノヴァルナに“戦力を出せ”と暗に告げているのである。

 ただ無論、これはドゥ・ザンからの指示などではなく、戦力を出すも出さぬもノヴァルナに一任された事だ。言ってしまえばドゥ・ザンは、”自分はもうおまえの力にはなってやれぬから、せめてわしの死を利用するがいい”と告げているのだ。

 ノヴァルナはそれを理解して、「支援部隊を出す」と言っているのだった。

 ノヴァルナの答えにヴァルツは、「ならば安心した」と言いながら席を立ち上がる。自分達の当主がドゥ・ザンの行動を、どう分析しているかを確かめたかったのだ。そしてそれはヴァルツにとって満足すべきものであった。キオ・スー=ウォーダ家の若き新当主は年齢以上に、人を見る目を持っているようだ。

「ニーワスやサンザーといった者達には、わしの方からお主の意図を伝えよう。だがシルバータや、カルツェの取り巻き連中には―――」

 ヴァルツがそこまで言うと、ノヴァルナは軽く右手を挙げて話を遮る。

「あいつらはいいッス。またろくでもない事を、企みかねませんので」

 カルツェの取り巻き―――ミーグ・ミーマザッカ=リンやクラード=トゥズークといった連中は、今はまだ大人しくしているが、ドゥ・ザンという後ろ盾がアテにならなくなった今後、再びカルツェを当主にしようと動き出すに違いなかった。
 ヴァルツがノヴァルナの副将格となって、ナグヤの城を与えられたのも、カルツェ派に睨みを利かせる事が大きな役目の一つだ。ヴァルツもそれは重々承知しており、ノヴァルナの言葉に「…だな」と同意する。

「ではわしは、ニーワスとサンザーに話をしてからモルザンへ帰る」

 ヴァルツがそう告げると、ノヴァルナも席を立って声を掛けた。

「そう言えば叔父上。こちらに正式移動の日取りは、まだ決まりませんか?」

 ノヴァルナが言った“こちらに移動”とは、ヴァルツのナグヤ城への入城の事だった。ヴァルツはモルザン星系独立管領の地位にあったが、ノヴァルナのキオ・スー=ウォーダ家当主継承に従い、これまでの功を認められてキオ・スー=ウォーダ家が領有していた、植民惑星二つとナグヤの城を与えられた。だがヴァルツはまだモルザン星系での残務処理が終わっておらず、このオ・ワーリ=シーモア星系とモルザン星系を、数日おきに行き来している状態だ。

「うむ…済まんな。人事に少々手間取っておる。近日中には決められると思う」

「早めにお願いします」

 正直、ノヴァルナは何かと忙しい。これまでのナグヤ家のように惑星ラゴンの半分と、ナグヤ家が所有する幾つかの植民星系の事だけではなく、オ・ワーリ=シーモア星系とキオ・スー=ウォーダ家所有の植民星系全てを、考えなくてはならなくなったからである。その辺もあってヴァルツのナグヤ居住は、急がれる問題なのだった。




▶#04につづく
 
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