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第6話:駆け巡る波乱
#14
しおりを挟む二日後、再生治療を終えたノヴァルナは、元気な様子でキオ・スー城の謁見の間に姿を現した。カーナル・サンザー=フォレスタや、『ホロウシュ』達で負傷した者も治療を終え、家臣一同と脱出して来たドゥ・ザン軍の、主立った将官が集まっている。
現在のキオ・スー家は主権をシヴァ家のカーネギー姫に預けている形なので、謁見の間にはノヴァルナの席と並んで、カーネギー姫の席が用意されていた。
すでに五日前となる、ドゥ・ザン=サイドゥ軍とギルターツ=イースキー軍の決戦、『ナグァルラワン暗黒星団域会戦』で敗れ、キオ・スー=ウォーダ家へ逃亡して来たドゥ・ザン軍の残存戦力は、第2艦隊司令のドルグ=ホルタと第3艦隊司令のコーティ=フーマをはじめ戦艦16、巡航戦艦4、重巡航艦15、軽巡航艦8、駆逐艦24、打撃母艦(宇宙空母)11、打撃巡航艦(軽空母)8。
機動兵器は親衛隊仕様BSIユニット『ライカSC』13、量産型BSI『ライカ』46、ASGUL『ジルヴァラ』102、攻撃艇『レゴーン』116。投入戦力のほぼ半数を失った事になる。
そして救援に向かったノヴァルナ軍の損害は戦艦9、巡航戦艦2、重巡航艦8、軽巡航艦11、駆逐艦19、打撃母艦1を喪失。BSI部隊の喪失も合計42機となっており、最終的にドゥ・ザン軍の撤退艦を守るため、追撃して来たイースキー家の艦隊と本気で殴り合った事で、一個基幹艦隊弱の戦力を失っていて、ダメージは小さくない。
ノヴァルナは家臣達の前で、まずカーネギー姫に帰還の報告を行い、それから全員の労をねぎらった。
そこからさらに損傷艦の修理と再編を、第1艦隊を優先に急ぐよう指示。それは可能性は低いが、イースキー家のオ・ワーリ宙域侵攻に備えてのものだった。またギルターツと結託していると思われる、イル・ワークラン=ウォーダ家が動き出す場合も考えておかねばならない。
しかも問題は、逃亡して来たドゥ・ザン軍の将兵に対する扱いだった。いや、同胞として遇するのは勿論であるが、考えなければならないのが彼等の生活だ。なにせざっと推定するだけでも三万人前後の人間に、衣食住の手配をしなければならないのである。
ノヴァルナは取りあえず、彼等の一部を月面基地の『ムーンベース・アルバ』、さらにヤディル大陸南部の開拓地域に降ろし、あとの事を筆頭家老のシウテ・サッド=リンと、内務統括家老のショウス=ナイドルと詰めていく事を告げた。
家臣達との会合を終えたノヴァルナは、ノアの待つ執務室へ引き揚げ、改めて脱出して来たドゥ・ザン軍の将、ドルグ=ホルタとコーティ=フーマを呼んだ。惑星ラゴンへ帰還したノヴァルナ達だったが、ノヴァルナ自身が負傷していた事や、同行したドゥ・ザン軍の艦隊も事後処理に忙殺され、いまだ正式な対面を果たせてはいなかったのである。
「なぁ、ノア」
「なに?」
ホルタ達がやって来るまでの間、執務机を前に椅子に座るノヴァルナは、傍らに立つノアに声を掛けた。
「これ終わったらさ、ツーリング行かね?」
「いいけど…体、大丈夫なの?」
重傷であっても、一週間程度で回復させる事が出来るこの世界の医療技術だが、それでも体を動かし始めるには慎重でなければならない。ノヴァルナも昨日の夜になって補助フレームが外せるようになったばかりなのだ。
「おうよ。少し体をほぐしてぇしな」
そう言いながら右腕、左腕と、肩をグルリとひと回ししてみせる。とそこにドアがノックされた。ノヴァルナは姿勢を正しながら「入れ」と応じる。今回は自分の家臣ではなく、ドゥ・ザン軍のホルタ達が相手であるから、普段のおふざけは無しだ。
ドアが開き、ホルタ達が入室して来ると、ノヴァルナは席を立って自分からも彼等に歩み寄る。入室して来たのはドルグ=ホルタとコーティ=フーマ、そして若い兵士が一人だった。
「ノヴァルナ様、ノア姫様」
三人はノヴァルナとノアの前でひざまずくと、頭を下げ、ホルタが代表として口上を述べる。
「この度のご助力、誠に有難く、感謝の言葉もございません。その上、敗残の身の我等を御家に迎え入れて頂く事、望外の喜びにて、その御恩情、末代まで語り継ぐものでございます。またノア姫様におかれましては、ご父君とご母堂をお守り出来なかった事、我等万死に値するものでありますが、これより先はノヴァルナ殿下を主君と仰ぎ、忠義を尽くせとのドゥ・ザン様の命にて、恥を忍んで落ち延びさせて頂きました。申し訳ございません!」
これまでの生涯をドゥ・ザンへの忠義に尽くして来た、ドルグ=ホルタの一点の言い淀みもない口上に、ノヴァルナは胸のすく思いだった。自然と明るい表情になり、言葉を返す。
「まずは御三方とも頭を上げられよ―――ドゥ・ザン軍の将兵、その戦い、お見事なものでありました。このノヴァルナ、感嘆の極み。我等こそ救援の手立ても届かずドゥ・ザン殿を落命させし事、誠に申し訳なく、慙愧に耐えませぬ。つきましては、生き延びられし方々の身を、我が責任において不足なく預からせて頂く所存、御身には何卒ご安心頂きたい」
ノヴァルナが慈愛に満ちた目で告げるその言葉に、ドルグ=ホルタは改めてこの若きキオ・スー家の当主の、真実の姿を感じ取っていた。寛容の心を胸の奥底に秘め、並み居る敵をものともせず、ただ乱世を駆け抜ける風雲児………
“おお…やはりこの方こそ、ドゥ・ザン様が真の後継者とお認めになられた方”
するとすかさず、ノアが静かに進み出て告げる。
「ご苦労でした、ドルグ=ホルタ。そしてコーティ=フーマ。最後までよく、父と母のために忠義を尽くしてくれました。感謝致します」
「はっ!…ははッ!!」
多くは語らないノアの、感謝の言葉に応えながら、ホルタとフーマは崩れそうになる膝を必死に支えた。
今崩れ落ちてしまえば涙腺までが決壊してしまう。それはホルタ達が見て来た、幼い頃からを知るノアの健気さだけではない。すでに実家を―――サイドゥ家の後ろ盾を無くしてしまっても、キオ・スー家当主の婚約者…いいや、式を挙げているかいないかはもはや問題ではなく、ノヴァルナの妻として、揺るぎない地位を得ている事を知ったからだ。
そうとなればホルタら、ドゥ・ザンに忠誠を尽くしていた者達に、躊躇うものは何もなかった。
「つきましては我等これより先、ノヴァルナ殿下に忠誠を誓いまするにあたり、その証となりますものを、ドゥ・ザン=サイドゥより殿下へお渡しするように、と預かっております。殿下におかれましては何卒、ご嘉納頂きたく…」
「ほう…」
ドゥ・ザンからと聞いて、ノヴァルナの双眸に興味の光が宿る。ホルタは背後に控えていた若い兵士に振り返って目配せした。頷いた若い兵士は立ち上がって、ノヴァルナに一礼して歩み寄る、姿形はノヴァルナと同年代、最後の戦いに臨む総旗艦『ガイライレイ』内で、ドゥ・ザンから書簡を渡された、あの従兵だ。
従兵はノヴァルナに歩み寄ると、軍装の懐に入れていたドゥ・ザンからの書簡を取り出して、ノヴァルナに差し出した。
「我が主君ドゥ・ザン=サイドゥから、ノヴァルナ殿下へこれを渡すように…と、預かって参りました」
従兵の言葉に頷いたノヴァルナは、書簡を受け取ってその場で開封する。中身はノヴァルナ宛の、ドゥ・ザン自筆の書状であった。それを一読すると、ノヴァルナは不意にいつもの不敵な笑みを浮かべた。
「へえぇ…こいつは、面白ぇや!」
普段の物言いに戻ってそう言うノヴァルナに、隣に立つノアが「なんなの?」と言って、書状を覗き込む。ノヴァルナはノアに書面を見せてやりながら、その内容を口にした。
「ミノネリラ宙域の、俺への“支配権譲渡状”さ!」
▶#15につづく
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