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第7話:失うべからざるもの
#17
しおりを挟むナルガヒルデの戦艦戦隊が援護射撃に使用したのは、戦艦に搭載されている主砲ではなく、接近して来る宙雷戦隊などを排除するための、副砲と呼ばれる主砲より口径の小さいブラストキャノンだった。軽巡航艦などでは、このサイズが主砲として使用されている。
ただそれでも重巡にとっては充分に脅威となる。
つるべ撃ちに襲い掛かるナルガヒルデ隊の副砲弾に、クアマットとハーシェルの重巡は動きが乱れた。アクティブシールドのエネルギーバリア面が、繰り返し青く輝く。その隙を突いて個々に突破を図る、ゴルマーザ指揮下の重巡六隻。
「主砲、咄嗟射撃!」
「敵を通すな。撃て! 撃て!」
至近距離で撃ち合う双方の重巡航艦。ゴルマーザ戦隊側の重巡は前述の通り練度が高く、まるで小型艦のような巧妙な機動を行って主砲を放つ。カルツェ側の重巡はアクティブシールドの対応が間に合わず、開いた隙間から艦体に直撃を喰らう。
「左舷艦底部被弾! 外殻エネルギーフィールド過負荷率30パーセント!」
「主砲射撃センサーに障害! 照準率、下がります!」
「チィ! 逃がすなッ!」
ダメージを受けたカルツェ艦隊の重巡艦長が舌打ちをし、怒声混じりの命令を発する。そこにさらにナルガヒルデ分艦隊のBSI部隊が割り込んで来た。量産型BSI『シデン』12機、ASGUL『アヴァロン』24機、攻撃艇『バーネイト』が16機である。
「敵機接近、迎撃戦闘!」
だがそれより早く敵中で散開したBSI部隊は、即座に対艦誘導弾を発射する。
カルツェ艦隊側は、分散したゴルマーザ戦隊の重巡に対処するため、二隻ずつに分かれたのが裏目に出た。BSIユニットや攻撃艇に対する迎撃行動には、艦隊を密集させて相互支援するのがセオリーだ。それが二隻ではたかが知れている。
「重巡部隊は何をやっている!!」
自軍の重巡部隊が、敵BSI部隊と戦艦部隊の副砲射撃に足止めされ、ゴルマーザの六隻の重巡の突破を許した光景に、ミーグ・ミーマザッカ=リンは座乗艦『サング・ザム』の艦橋で怒声を上げた。そして麾下の戦艦五隻に命じる。
「こちらも副砲射撃! 敵を近づけさせるな!」
ノヴァルナ直率部隊は近い、主砲はそちらに使用せねばならず、重巡相手なら副砲でどうにかなるという判断だ。副砲を撃ち出すカルツェ戦艦部隊。しかしそれがゴルマーザに、付け入るスキを与える事になった。
「速度、最大戦速。全艦突っ込め!」
まるで宙雷戦隊の司令官が出すような突撃命令を、ゴルマーザは攻撃的な笑みと共に告げる。六隻の重巡航艦は重力子ノズルに、オレンジ色の光のリングを三つ重ねて輝かせ、突進を始めた。
「全艦魚雷戦。目標、先頭の敵戦艦!」
ゴルマーザの命令が飛ぶ。重巡の主砲で戦艦を仕留めるのは難しい。しかし宇宙魚雷はそれを可能にする。ただ重巡の魚雷は本来、宙雷戦隊のように敵に肉迫突撃して発射するものではない。目標としているミーマザッカの第4戦隊先頭を行く、戦艦は目の前だ。
「全艦! 任意で魚雷発射!」
そう命じるゴルマーザだが、第11戦隊の六隻は個々に動いていても、やはりベテラン部隊だった。任意ではあったが、まるで統制雷撃のように六隻とも同じタイミングで魚雷を発射する。その数は合計で五十本近い。
「馬鹿め。魚雷を撃たせるとは!!」
罵り声を上げるミーマザッカ。先頭を進んでいた戦艦は、慌てて右上方向に舵を切り、回避行動に入った。同時に大量の迎撃誘導弾を発射する。しかしその誘導弾はゴルマーザ戦隊と共に吶喊して来た、BSIユニットと攻撃艇によって、次々に撃破されてしまった。CIWS(近接迎撃兵器システム)が、小口径ビームを連射するが、八本の魚雷が迎撃とアクティブシールドを躱して戦艦に命中。反陽子弾頭を炸裂させた。
八つの輝きが戦艦の巨体を引き裂く。ゴルマーザの目論み通り、残りの戦艦は隊列を乱し、ノヴァルナ直率部隊への行き足が鈍った。この好機を逃す分艦隊司令のナルガヒルデではない。勝手な行動は認めたくはないが、ゴルマーザの重巡部隊は優秀だ。
「第2戦隊は艦列の乱れた、敵戦艦戦隊に集中砲火。残りのBSI部隊も全て投入して戦果の拡大を図れ」
ゴルマーザと対照的に、落ち着いた調子のままで発令するナルガヒルデ。半ば牽制で敵と撃ち合っていた、ナルガヒルデ直率の戦艦六隻が目標を絞り込んでの主砲射撃に切り替えた。ここまで攻撃を控えていたBSI部隊の残りも、全てが敵をめがけて加速してゆく。
「くッ。ひるむな! 反撃しろ!」
叫ぶミーマザッカ。一方、大きな損害を受けずに離脱に成功した、重巡六隻にゴルマーザは再攻撃を命じる。
「全艦、魚雷の次発装填急げ。再突撃をかける」
ゴルマーザの次の戦術は、隊列の乱れたミーマザッカの第4戦隊をさらに集中的に叩き、カルツェ艦隊全体の足を引っ張るというものだ。
さらに出来れば二ついる、敵の宙雷戦隊のいずれかを引きずり出し、最終的にはノヴァルナ直率部隊に使用するつもりの、宇宙魚雷を消耗させるところまで行きたいものである。無論そうなれば、こちらもタダでは済まないであろうが。
ゴルマーザの指示で、再びバラバラに行動を開始する六隻の重巡航艦。今度は重巡一隻ごとに、それを支援する形で二機の量産型『シデン』と、三機のASGUL『アヴァロン』が同行する。状況を読んだナルガヒルデの計らいだった。
そしてそのミーマザッカは、焦りを隠せないでいた。ナルガヒルデの第2戦隊からの砲撃が精度を増し、こちらの戦艦が押され始めたからである。
「うぬぅ! クアマットとハーシェルの重巡部隊は何をやっている!? まだ援護に動けんのか!?」
「敵のBSI部隊により三隻が行動不能。残りは個々に応戦中」
オペレーターの応答に、ミーマザッカはベアルダ星人の熊のような顔を、険しくさせる。この状況にカルツェは、ここまで指揮を一任していたミーマザッカの手には負えないと感じ、待機させていた直掩BSIユニット小隊に短く命令を出した。
「ゴーンロッグ、行け」
「御意!」
カルツェの旗艦『リグ・ブレーリア』を囲むように警護していた、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータの親衛隊仕様BSIユニット小隊十三機が、放たれた矢のように飛び出す。
カッツ・ゴーンロッグ=シルバータは、カルツェ軍の中では図抜けたエースパイロットである。一気に加速したシルバータの『シデンSC』は、ゴルマーザの乗る重巡『アズレヴ』に向けて超電磁ライフルを放った。
ガガン!という震動に揺れる『アズレヴ』の艦橋。ゴルマーザはチィ!と舌打ちしてシルバータの小隊を睨み付ける。その視線に添うように、ゴルマーザ戦隊の護衛についていたBSIユニット達が迎撃に向かった。
しかしシルバータの機体は止まらない。ビーム砲を放ちながら接近して来た二機のASGULが、たちまちライフルに撃ち抜かれて爆散した。その間にシルバータの率いる十二機の親衛隊仕様『シデンSC』は散開し、迎撃のBSIユニットと交戦しながら残る五隻の重巡に向かう。
「敵のBSIは護衛機に任せろ。各艦は敵戦艦を狙う事に集中!」
ゴルマーザは吼えた。味方の重巡航艦の一隻が、敵戦艦の副砲射撃を立て続けに喰らい、二枚のアクティブシールドを失ったところへ、敵の『シデンSC』に対艦徹甲弾を撃ち込まれ、急激に行動力が低下する。だがその『シデンSC』も、後方から突撃して来たナルガヒルデ分艦隊の『シデン』に、バックパックをポジトロンパイクで切り裂かれて爆発した。
さらにその『シデン』を、今度は急速に間合いを詰めて来た、シルバータ機の斬撃が両断する。シルバータは次にゴルマーザの『アズレヴ』に狙いをつけると、双眸を獲物に狙いを定める猛禽類のように輝かせた。
▶#18につづく
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