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第8話:触れるべからざるもの/天駆けるじゃじゃ馬姫
#00
しおりを挟むミノネリラ宙域アルケティ家領有星系カーニア。最外縁部―――
両舷に斜めに引かれたライトブルーの帯に、家紋の『星雲紋暗黒桔梗』を描いた戦艦が、数ヵ所から爆炎を噴き出して砕け散る。
「戦艦『シャラゼルド』爆発! 敵軍損耗率58パーセント」
ドゥ・ザン=サイドゥの妻オルミラの実家。そしてギルターツが謀叛を起こした際に、ドゥ・ザン=サイドゥに味方したアルケティ家に対する討伐戦。その戦いは佳境に移りつつあった。
「ヒャッヒャッヒャッ! 見たか親父殿。敵の戦隊旗艦を仕留めたぞ!」
イースキー家総旗艦『ガイレイガイ』の司令官席に座るギルターツに、通信回線を繋いでいる嫡男のオルグターツが、ホログラムで自慢げな様子を見せる。
そんな嫡男にギルターツは、ふん…と、面白くもなさそうに鼻を鳴らした。相手はアルケティ家の恒星間打撃艦隊と星系防衛艦隊、そして惑星バサラナルムを個々に脱出して、サイドゥ家に殉じる意志を持った者達の艦を寄せ集めた半個艦隊。
それに対してこちらは、“ミノネリラ三連星”を中心とした精鋭八個艦隊。普通に戦って勝てる戦いだ。そんなもので―――しかも配下の艦が攻撃を集中して弱らせた敵の戦隊旗艦に、とどめを刺しただけが手柄顔とは…と、呆れた気分にもなろうというものだ。
「次は俺様が、完成したばかりのBSHOで出てやるぜ!」
調子に乗るオルグターツ。武人としての才能はともかく、BSHOを操縦可能なレベルのサイバーリンク深度は有している。だが今、それをしてもなんの意味もない局面だった。
「今日はやめておけ」とギルターツ。
「は? なんでだよ?」
「良き指揮官とは、勝ち戦にしゃしゃり出て、部下の手柄を奪うものではない」
「ふぅむ…なるほど」
オルグターツを言いくるめると、ギルターツは話題を逸らした。
「それよりオルグターツ。おまえ、ノアを捕らえて来る話に、おかしな男を一枚噛ませたようだな?」
「ん?…ああ、ウチ…いや、サイドゥ家に昔いたとか言ってたアイツだろ。面白そうなんで、親父殿が用意していた傭兵をキャンセルして、代わりにウォーダ家のクラードとかいう奴に、紹介してやった」
「大丈夫なのか?」
「あのオッサンの因縁の相手は、死んだオルミラのババアと、ノアの護衛の双子女らしいからな。ノアには危害を加えないだろさ。それに、腕は確かなはずだ」
一抹の不安を拭えないギルターツは、口を真一文字にして、滅びゆくアルケティ家の宇宙艦隊の光景を見据えた………
▶#01につづく
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