銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
151 / 508
第8話:触れるべからざるもの/天駆けるじゃじゃ馬姫

#01

しおりを挟む
 
 キオ・スー城は混乱していた。

 昨日来より、イノス星系へ遠征している主君ノヴァルナの部隊と、連絡が取れなくなっているからだ。

 大陸南部の旧サイドゥ家居留予定地から、一足早く帰還していた家老のショウス=ナイドルは、この事態に緊急性を感じ取り、肩書だけとは言え総司令官の地位にあるシヴァ家のカーネギー姫と共に、筆頭家老シウテ・サッド=リンらと状況への対応を協議していた。

 キオ・スー城地下にある中央指令室では、各方面から届けられる情報から、連絡不通の原因を探った結果、イノス星系周辺と、このキオ・スー=ウォーダ家本拠地のあるオ・ワーリ=シーモア星系内の、どこかにそれが存在していると思われた。

「妨害工作と申すか?」

 シウテはベアルダ星人の熊のような顔に、訝しげな表情を浮かべて問い質した。司令部付きの情報参謀がそれに答える。

「はっ。イノス星系へ向けての、超空間量子通信のみが遮断されている事から、このシーモア星系内の中継基地のいずれかに、なんらかの工作が行われていると、判断されます」

 情報参謀の言葉に連動し、オ・ワーリ=シーモア星系内に存在する、超空間量子通信中継機能を持った施設の位置が、ホログラムスクリーンに表示された。
 施設は全部で十一。この内、指向性の強い超空間量子通信は、通信対象までを直線で結ぶ必要があるため、イノス星系方向へ短距離で、通信のやり取りを行う事が出来る施設は五つとなっている。

「それは間違いないのかね? イノス星系だけでなく、このシーモア星系でも妨害工作が行われているというのは?」

 ナイドルの質問に、情報参謀は首を振って応じた。

「イノス星系内だけの妨害工作であれば、ノヴァルナ様の艦隊から中継プローブを射出する事で、多少の時間はかかりますが、臨時の中継システムを構築する事は可能です。ですが、それすらも不可能となっている事から判断すると、受信側である我がシーモア星系でも、妨害工作が行われていると見るべきです」

 情報参謀の返答に「ううむ…」と唸ったナイドルは、シウテに向き直る。

「如何致しますか?」

 シウテは思考を巡らす素振りで指示を出した。

「そうだな…まずは自動化された、無人の中継施設を中心に、さらなる情報収集と分析を行うべきであろう」

 それを聞いてナイドルは両の目を瞬かせる。シウテの指示が、あまり理に適っているとは思えないからだ。すでにノヴァルナ艦隊と連絡が取れなくなって、一日が過ぎた今の状況であれば、もっと迅速な対応が必要なはずである。ナイドルは正直に疑問を呈した。

「それより先に、まずノヴァルナ様と連絡が取れるように、するべきではございませんか?」

「というと?」

「移動能力のある中継施設を動かし、ノヴァルナ様との超空間量子通信が、可能な位置に持って来るのです」

 ナイドルの意見にシウテは「それはならん」と否定の言葉を発する。

「ならんとは、何故にございますか?」

 頬の肉を引き攣らせて問い質すナイドル。

「もし他の中継施設を移動させて、それが罠であった場合はどうする」

 そう言ってホログラムスクリーンを指差したシウテは続けた。

「例えばこの第七惑星の機動要塞、『マルネー』を中継可能な位置に移動させたとして、その空いたエリアから敵が侵攻して来る可能性もあろう」

「敵?…と申されますか?」

「うむ」

「しかしながら、この星系に接近する艦隊など、感知されておりません。そのような備えが必要とは思えませぬが?」

 不納得顔で意見するナイドル。

「一概にそうとは言えぬであろう。事実、アイノンザン星系のヴァルキス殿に不穏な動きもあり、イル・ワークラン家のカダール殿も、この混乱に乗じて行動を開始する可能性が高まっておる。モルザン=ウォーダ家が彼等と連動している事も、想定しておかねばならん」

 そのように応じるシウテだが、ナイドルは首を捻るばかりだった。筆頭家老の話の中身は分かるのだが、所詮は可能性を恐れているに過ぎない。それが今、主君ノヴァルナとの連絡手段を回復させる事より、優先しなければならない重要事項だとは考えられなかったのだ。

「筆頭家老様。納得出来ぬ話ですが…もし、機動要塞等を動かせないのであれば、『ムーベース・アルバ』にいる、修理を完了した艦を幾つか出港させ、中継ステーションの代わりにするのは如何でしょう?」

 ナイドルは批判を口にするのではなく、即座に代替案を提示してシウテに賛同を求めた。この辺りは、内務担当家老を長く続けて来た実績が示す、臨機応変さであろう。しかしシウテは首を縦に振らなかった。

「…いや、まぁ…それについては、今スェルモル城へ戻っておる、クラード=トゥズークとも話を詰め、追って通達する。今回はノヴァルナ様にカルツェ様も従っておられるからな、向こうの意見も聞かねばならぬ」

「ですが、そのように手間をかけている場合では―――」

 煮え切らぬ態度に、ついに抗議の声を上げようとしたナイドルを、シウテの発する言葉が遮る。

「分かっておる。だから急いでクラードとも連絡を取る。貴殿は引き続き行う、情報収集の陣頭指揮を執れ」

 話はこれまでとばかりに強い口調で命じたシウテに、ナイドルは不信感を抱いたまま、カーネギー姫と共に中央指令室を辞した。通路に出てすぐ、それまで無言であったカーネギー姫が口を開く。

「シウテ様の仰りよう、私にはどうも理解できませんわ」

「私も同様にて…」

 そう応じたナイドルは心の中で呟いた。

“どうされたというのだ、シウテ様は…元々慎重な御仁ごじんではあったが、今回ばかりは、どうにも腑に落ちん…”




▶#02につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

処理中です...