銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
166 / 508
第8話:触れるべからざるもの/天駆けるじゃじゃ馬姫

#16

しおりを挟む
 
 巨大な解体基地内部の、機械感剥き出しの通路をノア達は駆け抜けていた。自分達のカーゴシャトルまではあと少し、ノアの読み通り、作業員も兼ねている傭兵達は、報酬となる引き渡し艦の、統合自動航行システム運用試験に狩り出され、阻止するために現れる数は驚くほど少ない。
 事実、遭遇した敵兵は十名あまりで、その全てがメイアとマイアによって、排除されていた。

「急いで! シャトルはすぐそこです!」

 後ろをついて来るドルグ=ホルタと、リカードとレヴァル。そして解体基地の作業員達に声を掛けるノア。だが作業員達は疲弊しきっており、自分でも思うように走れていない。ノアの二人の弟のリカードとレヴァルは、姉の言いつけを良く守って、体力の消耗が激しく、自力ではろくに走れない作業員に肩を貸し、励ましながら一緒に走っている。

 とその時、ノアに先んじて三叉路に差し掛かったメイアとマイアに、脇道から銃撃が浴びせられた。二名の傭兵による待ち伏せ狙撃だ。

 しかし神経を研ぎ澄ましていたメイアは、視界の隅に人影を捉えると同時に咄嗟に身を翻し、体を回転させながら倒れ来む。二人の傭兵が放った狙撃のビームは、メイアの髪を僅かに焼き焦がしただけだった。

 そしてメイアの後を走っていたマイアは、瞬時に双子に姉の挙動の意味を理解して、走る脚を半歩遅らせる。姉を狙っていたビームが、眼前を虚しく通過するのを認めたマイアは、敵が床に倒れたメイアに照準を修正する隙を突いて、ブラスターライフルを連射しながら飛び出した。
 慌てて身を隠す傭兵。敵が狙撃して来たのは、三叉路の通路の奥にある、何らかの機械室内からだ。立ち上がったメイアに、ライフルを撃つマイアが呼び掛ける。

「メイア。姫様達を!」

 待ち伏せていた敵は自分が足止めしておく、マイアの言外の言葉を理解したメイアは、立ち止まっていたノア達に声を掛けた。

「ノア姫様。ここはマイアに。ドッキングベイはすぐその先です!」

 メイアに促され、ノア達は再び駆け出す。そしてマイアの背後を通る際にノアはマイアを呼んだ。

「マイア、これを!」

 振り向いたマイアにノアは、自分が持っていたブラスターライフルを投げ渡す。連射を続けていれば、エネルギーがすぐに尽きてしまうからだ。そして去り際に強い口調で告げる。

「ここで死ぬ事は許しません!」

 足止めをしていれば、いずれ他の敵もやって来るだろう。何となれば盾となって死ぬつもりだった…のが、機先を制したノアの命令に、マイアは苦笑を浮かべ「御意」と応じた。

 一方、この由々しき事態を監視カメラで見ていた、中央制御室のクラード=トゥズークは、歯ぎしりして喚声を上げる。

「ええい、何をしている。取り逃がし追って! 仕方ない、姫のシャトルを破壊して、逃げられなくしろ!」

「おおっと。そいつはやめといてもらおうか」

 クラードにそう言って来たのは、通信スクリーンの中のガランジェットだ。タイミング良く通信を入れていたらしい。

「ガランジェット! 貴様、引き返しもせず勝手に通信を切りおって、どこで何をしている!?」

 先程のノア達の脱走を知らせて来たクラードの通信を、ガランジェットは一方的に途中で切ったのである。クラードが怒りを表すのも当然だった。ところがガランジェットはクラードの怒り混じりの詰問など意に介さず、ニタリと粘着質の笑みを浮かべて言い放つ。

「いいから、シャトルで逃げ出そうってんなら、好きにさせろ。その方が手間が省けるってもんだ」

「手間が省ける? 何を言っている、ガランジェット!」

 だがガランジェットはまたもやそこで、一方的に通信を切った。この男がいるのは自分の戦闘輸送艦『ザブ・ハドル』の船橋だ。事のついでに空になっていた小型水筒に、新たにウイスキーを満たしていたガランジェットは、中身をひと口煽ってから、オペレーターに振り向いて命じる。

「BSI部隊発進準備だ。俺の『マガツ』も用意しろ!」

 戦闘輸送艦『ザブ・ハドル』は、人型機動兵器BSIユニットを12機搭載できる母艦機能を備えていた。ガランジェットの命令で、それらBSIユニットが一斉に起動し、唸りを上げ始める。
 傭兵団の使用機体らしく機種は統一されていない。銀河皇国軍標準仕様機の『ミツルギ』が4機。エテューゼ宙域星大名アザン・グラン家の『イカズチ』が3機、カウ・アーチ宙域星大名ミョルジ家の『サギリ』と、おそらくイーズモン宙域星大名のア・マーゴ家が使用している、『ウネビ』と思われる機体が各2機と、バラバラである。各宙域の戦闘で廃棄された機体を集めて来たのだろう。

 そして最後の一機は形状が明らかに、ヤヴァルト銀河皇国のテクノロジーと違う生物的な外観を持っており、他のBSIユニットより二回り程も巨大だ。かつてヤヴァルト銀河皇国が存亡を賭けて戦った異星人恒星間国家、『モルンゴール帝国』の主力BSHOの一種、『マガツ』であった。
 戦闘種族『モルンゴール帝国』の機種編成は銀河皇国とは別で、BSHOは中隊指揮機として配備され、当時の銀河皇国BSI部隊に苦戦を強いた。一年半前にキオ・スー城上空で、ノヴァルナが遭遇して死闘を演じた、モルンゴールの傭兵隊長“サイガンのマゴディ”が操縦していた『オロチ』は別系統のBSHOである。

 銀河皇国製BSIユニットとは違い、まるで獣の唸り声のような重力子ドライヴのアイドリング音を上げた『マガツ』の、肉食獣を思わせる頭部で四つのセンサーアイが真紅に輝き始める―――今の主人である、ガランジェットを待つために………




▶#17につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

航空自衛隊奮闘記

北条戦壱
SF
百年後の世界でロシアや中国が自衛隊に対して戦争を挑み,,, 第三次世界大戦勃発100年後の世界はどうなっているのだろうか ※本小説は仮想の話となっています

戦国鍛冶屋のスローライフ!?

山田村
ファンタジー
延徳元年――織田信長が生まれる45年前。 神様の手違いで、俺は鹿島の佐田村、鍛冶屋の矢五郎の次男として転生した。 生まれた時から、鍛冶の神・天目一箇神の手を授かっていたらしい。 直道、6歳。 近くの道場で、剣友となる朝孝(後の塚原卜伝)と出会う。 その後、小田原へ。 北条家をはじめ、いろんな人と知り合い、 たくさんのものを作った。 仕事? したくない。 でも、趣味と食欲のためなら、 人生、悪くない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

BL認定児童文学集 ~これ絶対入ってるよね~

松田夕記子
エッセイ・ノンフィクション
「これは児童文学だ。でも絶対にBLだよね!」という作品を、私の独断と偏見をもとに、つらつらとご紹介していきます。 「これ絶対入ってるよね」は、みうらじゅん氏の発言としてあまりにも有名ですが、元のセリフは「この下はどうなっていると思う? オレは入ってるような気さえするんだけど」が正しいです。 BL小説をご覧になって頂き、誠にありがとうございました。このエッセイはクリスマスの25日に完結します。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...