銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
184 / 508
第9話:退くべからざるもの

#10

しおりを挟む
 
 そのカルツェの旗艦『リグ・ブレーリア』では、新たな超空間転移先を選定し、残存艦に移動命令を出そうとしていた。

「TC-206691星系? 何がある?」

 緊張気味のカルツェが問い質すと、艦隊参謀は戦術状況ホログラムを広域宇宙地図に切り替える。位置が表示されたTC-206691星系は、オ・ワーリ=シーモア星系でもモルザン星系でもなく、ミノネリラ宙域の方向にあった。

「ミノネリラ宙域方面警備艦隊の、無人補給基地があります。ここに集結して応急修理と補給を済ませ、イースキー家へ応援を求めましょう。こちらの方面であればノヴァルナ様も、予測されていないでしょう」

「だがイースキー家の支援の条件は、ノア姫を引き渡す事ではないのか?」

 イースキー家の支援と聞いて、カルツェは表情を暗くする。自分でも否定的だったノア姫の拉致を指示して来た、イースキー家の手を借りようというのであれば、プライドが傷つきもする。しかし参謀達は、カルツェに降伏を受け入れる気が無いのなら、もはや主君のそのような体面などに構ってはいなかった。

「最終的にノヴァルナ様に勝ちさえすれば、拉致などといった卑怯な手段を使わなくても、ノア姫を手に入れる事も可能です。イースキー家に頭を下げる結果になってもここはご辛抱を!」

「そうです。ミーマザッカ様がノヴァルナ様を引き付けている間に、超空間転移を行える位置まで離脱を!」

 司令官席の両側から参謀にまくし立てられ、カルツェは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。また他家の威と力を借りるのか…との思いだった。考えてみればこれまで自分達は、常にどこか他家の力をあてにして来た。頭脳明晰、品行方正、当主には自分の方が相応しいと、周囲から持ち上げられていても、結局はそれが自分の限界なのかと苛立つ。

「カルツェ様!―――」

「ああ、分かった。おまえ達の好きにせよ!」

 参謀の言葉に突き放すように言うカルツェ。だがそれは、参謀の声ではなく、オペレーターの声であり、決定を督促するためのものではなかった。

「違います! 敵のBSIユニットに迎撃網を突破されました。急速接近中!!」

 それはジョルジュ・ヘルザー=フォークゼムの操縦する、『シデンSC』だ。

「CIWS! 迎撃!!」

 叫ぶ『リグ・ブレーリア』艦長。しかしここまでの戦闘で、艦の迎撃火器は半分も稼働していない。明らかに脆弱な迎撃砲火を躱して、フォークゼムの『シデンSC』はバックパックから、対艦誘導弾ランチャーを手に取る。
 コクピットの照準ホログラム上、オン・ターゲットのロックマンマーカーが緑色に点滅した瞬間、フォークゼムは「行けっ」と小さく叫んで、トリガーを引いた。

 フォークゼムが放った対艦誘導弾は二発。だが出遅れた焦りから、距離があり過ぎた。ミーマザッカ隊から一機の『シデンSC』が、カルツェの『リグ・ブレーリア』との間に割り込むように駆けつけて来る。
 その『シデンSC』は超電磁ライフルを放つと、フォークゼムが放った対艦誘導弾を二発とも破壊した。このままではカルツェの旗艦を逃がしてしまう。そうはさせません!…と、フォークゼムは敵の『シデンSC』に向けてライフルを放つと、ポジトロンパイクを構えて突撃した。

 しかしフォークゼムの相手も、親衛隊仕様機に乗っているだけあって、それに相応しい技量を有していた。敵機もフォークゼムに向けて数発のライフルを放つと、ポジトロンパイクを構えて仕掛けて来る。最初のパイクの打ち合いで、フォークゼムは、切っ先の鋭さと間合いの詰めの速さから、相手が自分より格上である事を見抜いた。

“これは勝てない相手。だけど私の目的は!―――”

 ポジトロンパイクの打ち合いを利用して、機体の位置を入れ替えたフォークゼムは、敵機をやり過ごすと、今まさに超空間転移を行おうとしていたカルツェの旗艦に、残り二発の対艦誘導弾を発射する。
 その直後だった。フォークゼムの機体は後ろから突き飛ばされるような、激しい衝撃を受けた。敵の『シデンSC』が背後から斬りかかり、バックパックを破壊したのだ。コクピットの内部でも、数か所からスパークが発生した。

“やられた!”

 無防備に向けた機体背後のバックパックが斬撃を受け、ダメージを被った対消滅反応路が緊急停止する。こうなるともう戦闘不能だ。敵の親衛隊機はこちらの予想より動きが速い。死を覚悟するフォークゼム。ところが敵機は、戦闘能力を失ったフォークゼムなど用はないとばかり、前方に飛び出すと超電磁ライフルを構えた。カルツェの『リグ・ブレーリア』を狙う、最後の対艦誘導弾を狙撃するつもりだ。

“ああ、これでも…駄目ですか…”

 無数の警告音に包まれながら、暗鬱な目をするフォークゼム。だがその時、敵の『シデンSC』は頭上からの銃撃に、頭部と胸部を撃ち砕かれた。フォークゼムの援護に急行して来た、ヨヴェ=カージェス機の遠距離精密射撃だ。爆散する敵機、その向こうでは、『リグ・ブレーリア』の残存していた重力子ノズルが、破壊される閃光が輝いた。続いてスピーカーから聞こえて来るカージェスの声。

「良くやった、ウイザード・トゥエンティワン!」

 一方、ノヴァルナとミーマザッカの戦いも、決着が着こうとしていた。一気に勝負をつけようと、カルツェ軍のBSI部隊が『センクウNX』向けて、群がって来るが『ホロウシュ』に加え、キオ・スー=ウォーダ軍のカーナル・サンザー=フォレスタ率いるBSI部隊も防御に参戦し、ノヴァルナに近づく事を許さない。

「くそっ! おのれぇえええっ!!」

 罵り声を上げながらポジトロンパイクで斬りかかる、ミーマザッカの『シデンSC-HV』。漆黒の宇宙空間に火花を散らし、ノヴァルナの『センクウNX』が振るうポジトロンパイクが、その斬撃を打ち払う。
 カルツェを当主に据えようと暗躍し続けたミーマザッカだが、これまで数々の実戦を重ねて来た武闘派であり、自分の技量に加え、この高性能の『シデンSC-HV』であれば、BSHOの『センクウNX』とも互角に戦えると思っていたのだ。

 ところがまず弾が当たらない。『ホロウシュ』の防御網を掻い潜ったミーマザッカ配下の『シデンSC』が三機、連携攻撃を仕掛けたのだが当たらない。それどころか、『センクウNX』から反撃の銃弾を喰らい、三機ともあえなく撃破されてしまうという体たらくである。ここに来てミーマザッカはようやく、ノヴァルナの恐るべき操縦技術を思い知る事になった。

「俺は認めん! 認めんぞぉおおお!!!!」

 ポジトロンパイクを何度も、激しく打ち振るいながらミーグ・ミーマザッカ=リンは叫ぶ。粗野なノヴァルナを斃し、御し易いカルツェを当主の座につけ、裏からキオ・スー家を支配する。そしていずれはウォーダ家そのものを排除し、自分達リン家がオ・ワーリ宙域星大名まで昇り詰める。その野望がこのようなところで途絶えるはずがない。策を仕損じても、一騎打ちでは負けるはずがない。

 繰り出される斬撃を何度も防ぎながら、ノヴァルナは冷静に言い返した。

「だからてめぇは、その程度なんだよ」

「!!!!」

 ノヴァルナの言葉にミーマザッカは、熊のようなベアルダ星人の顔をヘルメットの中で強張らせる。黒目の多い双眸をカッ!と見開き、体を覆う銀灰色の毛を怒りで逆立たせた。自分を嫌う相手を挑発し、冷静さを奪うのはノヴァルナの得意とするところである。

「ぬおおおおおおお!!!!」

 怒号とともに、ポジトロンパイクを大きく振り抜こうとするミーマザッカ。だがその雑な動きは隙を作るだけだ。瞬時に機体に加速をかけたノヴァルナは、居合抜きのように、すれ違いざまに腰のクァンタムブレードを一閃する。コクピットまで切り裂いたブレードの量子分解フィールドに、ミーマザッカは怒りの表情のまま消滅した………




▶#11につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

処理中です...