銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第9話:退くべからざるもの

#09

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 先に超電磁ライフルを撃ったのはミーマザッカだった。三発の銃弾が、宇宙の闇を切り裂く。だがその弾丸が目指した先に、ノヴァルナの『センクウNX』の姿はすでに無い。

 視覚ではついて行けない動き。ミーマザッカの『シデンSCーHV』のコクピットでは、コクピットの全周囲モニターにノヴァルナ機の移動位置―――上方へ、赤い矢印が警告表示され、ヘルメットのNNL端末から意識内にも、方向信号が送られて注意をそちらへ向ける。ミーマザッカはその指示に従って、即座にライフルを上に向けると一連射した。機体の予測反応速度は、従来の親衛隊仕様機『シデンSC』を上回る。

 しかし『センクウNX』の動きはそれ以上だった。不規則な急旋回を幾つも繰り返すスクロール機動で、ミーマザッカ機の射撃を悉く回避する。1589年のムツルー宙域で、同宙域のエースパイロットであった星大名マーシャル=ダンティスをして、「なんだコイツは!?」と歯噛みさせたノヴァルナお得意の回避操作だ。

「くそっ! 誰でもいい、ノヴァルナを取り囲め!」

 ミーマザッカの言葉に応じて、三機の『シデンSC』と四機の『シデン』、さらに六機のASGUL『アヴァロン』に七機の攻撃艇『バーネイト』が、一斉に『センクウNX』に向かって来た。彼等が『センクウNX』を撃破する事までは期待していないが、動きに制約をかける事が出来れば、仕留められる確率も上がるというものである。

 だが『ホロウシュ』の存在を忘れてはならない。特にラン・マリュウ=フォレスタとナルマルザ=ササーラは、通常ノヴァルナだけを護衛する役目を担っており、またそれを実践するだけの、高い技量を有している。

「ウイザード・ゼロスリー(ササーラ)。二手に分かれて殿下に近づく敵機を排除。油断するな!」

 ランがぴしゃりと言い。超電磁ライフルのトリガーを引く。速度の出る攻撃艇形態で『センクウNX』の頭を押さえようとしていた、二機の『アヴァロン』が直撃を喰らって爆散した。

「俺達二人でかよ」

 ノヴァルナ機に追い縋ろうとしていた『シデンSC』と、ポジトロンパイクの刃を打ち合いながらササーラは文句を言う。なにぶんノヴァルナを狙ってミーマザッカが率いて来た機体は、ノヴァルナと『ホロウシュ』達の三倍であり、さすがに他の『ホロウシュ』はそちらへの対処で手一杯だった。
 ササーラとて消極的な人物ではないが、そんな状況でも簡単に言ってのけるランに、やれやれと思うのも致し方ないところと言うものだ。
 ただそれでも、ササーラは三度目のパイクの打ち合いで、敵の親衛隊仕様機を斬り斃し、さらに脇を擦り抜けようとした『バーネイト』に、超電磁ライフルの銃撃を浴びせて撃破した。

 三倍の敵を相手取った乱戦の中、新米『ホロウシュ』のジョルジュ・ヘルザー=フォークゼムは、ここまで三機のASGUL『アヴァロン』と四機の攻撃艇『バーネイト』を撃破していた。初陣では大戦果と言っていい。ただ当人的には、目まぐるしいBSI同士の高機動戦闘に翻弄されるばかりで、それだけの数の敵機を撃破したことを知ってはいない。

 そこへ隊内通信が飛び込んで来た。『ホロウシュ』の指揮を執っているヨヴェ=カージェスからだ。

「ウイザード・トゥエンティワン!」

「こ、こちらウイザード・トゥエンティワン!」

「おまえから見て十時の方向プラス三十度。敵の旗艦が、戦場からの離脱を図っている。残った重力子ノズルを破壊し、動きを止めろ!」

「えっ!?…は、はい。了解!」

 カージェスからの命令で、フォークゼムはコクピットを包む全周囲モニターで、指摘された方向を見る。しかしモニター画面には何も表示されていない。おかしいな…と思って今度はコンソール前に展開している、戦術状況ホログラムに目を遣った。するとそこには確かに、移動を始めたカルツェの旗艦『リグ・ブレーリア』が表示されている。

 しまった…と思うフォークゼム。単純なミスだった。全周囲モニターの映像は基本的に、自分が乗る『シデンSC』のセンサーやスキャナーが解析した映像のみを映し出している。それに対し、戦術状況ホログラムは母艦からの情報や艦隊全体の情報、そして『ホロウシュ』のショウ=イクマが乗る、電子戦特化型『シデンSC-E』が独自に得た情報を総合的に表示していた。

 親衛隊仕様機のBSIユニットは、中隊長以上の指揮官機でもあるため、量産型に比べ、膨大な量の情報が送られて来る。これを全て全周囲モニターにリンクさせると、かえって混乱するだけであり、機体操縦に支障をきたす。
 それを防ぐために親衛隊仕様機では、戦術状況ホログラムに表示される情報の中から、操縦者の好みに合わせて全周囲モニターにリンクさせる情報の、重要度レベルが選べるのだった。親衛隊仕様機で初めて実戦に出たフォークゼムは、この事を失念して、リンクを全て外したままだったのである。

 慌ててコンソールを操作するフォークゼム。敵旗艦の位置は最重要度レベルの情報だ。すぐに全周囲モニターにもカージェスが指摘した位置に、敵旗艦の位置が赤く表示された。ただそれでも対処は遅い。カージェスから叱咤される。

「グズグズするな、ウイザード・トゥエンティワン! おまえが敵旗艦に一番近いんだ。急げ!!」

「り、了解!!」

 たとえ初陣の人間であっても戦場は優しくない。特に主君の親衛隊であるなら、初心者などという言い訳は通用するはずかない。フォークゼムは右手で自分の被るヘルメットを一つ叩くと、赤く表示されたカルツェの旗艦位置へ向け、スロットルを全開にした。




▶#10につづく
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