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第10話:花の都へ風雲児
#15
しおりを挟むドームからの脱出に成功した潜水艦『L-415』は、水面に向かって海の中を猛スピードで駆け上がる。
ただこれは“フェアン艦長”の命令ではなかった。圧搾空気の量を確認しているように命じられていた、『ホロウシュ』のヨリューダッカ=ハッチが、仕組みが良く理解できていないままに、数値がおかしいと思ってコントロールパネルを触り、誤って圧搾空気の調整弁を全開にしてしまったのだ。瞬時にバラストタンクから水が吐き出され、『L-415』は緊急浮上状態となった。
激しい振動に包まれた司令塔の内部で、座席や手摺にしがみついた全員が叫ぶ。
「ちょっと、ちょっと。ハッチくぅーーーん!!!!」とフェアン。
「てめぇ。ぶっ飛ばっそ!! ハッチぃぃぃ!!!!」とイーテス兄弟。
「ハッチてめ、帰ったら城の周り二十周だかんなぁッ!!!!」とノヴァルナ。
ハッチの「すんませぇぇぇーーーーん!!!!」という、悲哀に満ちた謝罪の叫びと共に潜水艦『L-415』は、まるで巨大なクジラがジャンプするように、その涙滴型の黒い艦体を海中から飛び出させた。大爆発を思わせる膨大な量の、白い水飛沫を上げて海面に落下する『L-415』。
「でぇええええっ!!!!」
「きゃああああっ!!!!」
海面に叩きつけられた衝撃で、ノヴァルナ一行は男も女も、等しく床をすっ転がされた。やはり古い艦らしく、そこかしこで火花が散る。そして静かになった艦内で全員が「いてててて…」とか、「やだ、もぅ…」とか零し、体のあちこちを手で摩りながら起き上がりだした。いち早く立ち上がったランがお怒りモードとなり、弟子扱いのハッチの頭に、無言で拳骨を落とす。
調べてみると、『L-415』は今の衝撃で機能不全に陥ったらしく、まともな水上航行も出来なくなっていた。しかし、ハッチのせいで盛大に上げた水飛沫が目印になり、タワーの異変に気付いたコーストガードの警備艇が、即座に駆け付けてノヴァルナ達を救助したのである。
ノヴァルナ達のこの脱出劇に切歯扼腕したのは、イースキー家から派遣されたキネイ=クーケン率いるノヴァルナ殺害部隊だ。
海中塔のセキュリティコントロールルームで、状況をモニターしていたクーケンは、ノヴァルナらが乗った旧時代の潜水艦が、海水で満たされた展示会場から抜け出ていく様子を見て、パネルに拳を打ち付けた。
「くそっ。あの潜水艦、使えたのか!」
迂闊と言えば迂闊なのだが、それはクーケン達にとっても対処のしようがない事案である。搭そのものを爆破してしまうと、セキュリティコントロールルームにいる自分達にまで、被害が及んでしまう事になっていたからだ。
キネイ=クーケンの補佐を務めるバクのような頭のアロロア星人が、クーケンに対応を求める。
「如何致しますか、クーケン少佐」
「仕方あるまい、ここは一旦引き上げる」
これ以上作戦に時間を消費するのは不可能だ。さすがにここまでの騒ぎに、キルラメルラの警察機構が動かないはずがなく、海上からはコーストガードの警備艇、空からは哨戒機が彼等のいるミショス島に群がって来つつあった。
彼等が使用しているシャトルにはビーム砲が装備されており、浮上したノヴァルナ達の潜水艦を空から攻撃する事は出来るが、そこまで時間を使えば、この惑星の警察機構や防衛軍に捕らえられる恐れがある。中立宙域にあるこの惑星で軍事行動を起こしたのが、イースキー家だと知れると大問題となる。そうでなくともイースキー家は、皇国貴族界との関係修復に力を入れているところであるから、そのような事態を招く事だけは避けねばならなかった。
「撤収。急げ!」
コントロールルームには、ノヴァルナ達を襲撃した隊員達もタワー内から上がって来ており、全員が一斉に退去を始める。
「セキュリティのメインコンピューターに、バグプログラムの注入を忘れるな」
「了解」
クーケンの指示に返答したアロロア星人が、赤い半透明のデータスティックを、メインコンピューターのポートに差し込んだ。まるで注射するようにスティックの先端から色が透明に変わっていくと、コントロールルームの全てのモニターやホログラムスクリーンに、赤と黒の幾何学的なパターンが映し出されたままになった。
青い海面に浮上停止した潜水艦『L-415』を、四隻のコーストガードの警備艇が取り囲む。船上でライフルを構え、こちらを睨んで来る隊員達に対し、ノヴァルナは不満ありありといった表情で言い放った。
「てめぇら、俺達ゃ犯人じゃねーって、言ってるだろが!」
しかしコーストガードの艇長らしき男は、まるで信用していないような表情で、冷たく言い返す。
「は? おまえらのその横柄な態度。信じられるわけがなかろう!」
「てめふざけんな! 俺を誰だと思ってやがんでぇ―――」
さらに言い返すノヴァルナに、たまりかねたノアが「もう。何かするたび、話をややこしくしないでよ」と、割って入ろうとしたその時、ミショス島から蒼空を貫くように、猛烈な勢いで垂直上昇していくシャトルが出現した。慌てて追い縋ろうとし始めるコーストガードの哨戒機だが、加速性能の違いからかあっという間に引き離され、置き去りになってゆく。
「あのシャトルの加速性能…民間機じゃねーな」
そのシャトルに乗っているのは言わずもがな、クーケンのノヴァルナ殺害部隊である。もはや光の点となってしまったシャトルを見上げ、ノヴァルナは視線を鋭くした………
▶#16につづく
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