銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
210 / 508
第10話:花の都へ風雲児

#16

しおりを挟む
 
 キルラメルラの市警本部に収容されたノヴァルナ達は、事情聴取を受け、ようやく身元が確認された。ただノヴァルナに身元が判明したらしたで、市警本部は戦々恐々とし始める。オ・ワーリ宙域の暴れん坊の悪名は三年前、実際にロッガ家相手に中立宙域でひと悶着起こした事もあって、この惑星にも届いていたからである。

「なに?…襲って来た連中の身元が、判明しないだと?」

 そして翌日、広い応接室の中、ササーラがガロア星人の厳つい顔をグイ!…と突き出して問い質すと、彼等への応対を命じられているスキンヘッドの、太った警部が額に汗を浮かべた。実年齢から言えば二十三歳のササーラに対し、警部は父親ほどの年齢差があるのだが、迫力的に気圧けおされており、顔を引き攣らせて報告する。

「は…はい。発見した襲撃者の死体を調べたのですが、身元の手掛かりとなるような物は、何一つ所持していませんでした」

「奴らの装備はどうなんだ? 光学迷彩の装備や武器から、情報は得られなかったのか?」

「製造番号から元を辿りましたが、三年前にヤヴァルト宙域で消失した、皇国軍陸戦隊の装備品で、装備者は戦闘で死亡しているという事しか…」

「つまりは…死体から剥ぎ取ったって事か?」

 腕組みをして椅子にふんぞり返るノヴァルナは、怪訝そうに警部に尋ねた。別にそんな横着な態度を取る必要はないのだが、向こうが勝手に慄いているのなら、それを利用して優位に立っておくに、越した事は無いからだ。

 相手の警部は一つ頷いて「恐れながら…」と告げ、ノヴァルナの質問を肯定すると、ヤヴァルト宙域とその周辺の現状を伝えた。

 三年前の皇国暦1555年10月。アーワーガ宙域星大名ナーグ・ヨッグ=ミョルジは、隣接するカウ・アーチ宙域などの星大名や独立管領の中で、現状の星帥皇室と貴族達の在り方に不満を持つ者を糾合し、その改革を大義名分にヤヴァルト宙域へ侵攻した。
 約百年前の『オーニン・ノーラ戦役』以来、低迷の度合いを深める一方であった皇国の行政能力は、この争乱で完全にとどめを刺された状態になり、争乱後の処理もろくに行われていないのが現実である。そのために、このような戦死者から奪い取った装備から、修理可能な艦船にBSIユニットまでが、闇ルートを通じて大量に売り捌かれて傭兵組織や、宇宙海賊などの略奪集団の手に渡っているらしい。

「…ですので、今回のように装備者が誰か判明しただけでも、“御の字”というべき結果としか申し上げられないのが現状でして」

 恐縮しながら言い終えた警部に、ノヴァルナは「わかった。気にすんな」と応じた。自分でも最初から期待はしておらず、こんな事で身バレするような連中なら、最初から襲撃などして来ないと思っていたのだ。
 
 そして翌日、ノヴァルナ一行は二日遅れで惑星ルシナスを離れた。

 星大名家当主に対する襲撃であるから、キオ・スー=ウォーダ家に敵対するいずれかの勢力の襲撃である事は確実であったが、ノヴァルナはキルラメルラ市警本部とルシナス行政府に対し、中立宙域で活動する略奪集団による襲撃として、処理・発表するよう要請した。ルシナス側の態度に、彼等の主人であるこのアンソルヴァ荘園星系を領有する貴族が、キオ・スー=ウォーダ家と敵対勢力の争いに巻き込まれてしまうのではないか…と、懸念している様子がありありと見られたからだ。

 戦闘輸送艦『クォルガルード』のラウンジで、後方ビュアーに映る惑星ルシナスの青い姿を眺めながら、ナルマルザ=ササーラは苛立ちを帯びた口調で述べた。

「まったく…ルシナスの行政府にも、呆れたものですな。どこかの盗賊共の襲撃にしておけ、という殿下のご提案に、ああも簡単に同意するとは。事なかれ主義もいいとこで」

 ソファーに寝そべったノヴァルナは、軽く欠伸をしながら、大して興味も無さそうに応じる。

「まぁ、そう言ってやるな。今の貴族共には大した権力…いや、実力だな。それがねーから、下手に首を突っ込んで、とばっちりは喰らいたくないだろうしな。俺達の貸し切りにしてたから、一般客に死人も出なかったんだし、大目に見てやれや」

 するとその会話に、テーブルの上を片付けていたキノッサが加わった。

「そうそう。この中立宙域は名門貴族でもある星大名の、ロッガ家の意向に大きく影響されていますからねぇ。そしてノヴァルナ様は、ロッガ家と何かと因縁がお有りになる…となると、もし襲って来たのがロッガ家の手の者だった場合、事を荒立てたくはない。しかしそうなると今度はロッガ家と敵対し、今現在実質的に皇国中央を支配しているミョルジ家に、この星系の領有貴族はロッガ家と通じている、と思われてしまうのではないか…それが不安だというわけでして」

 それを聞いて、同席しているイーテス兄弟の兄の方、ヴェールが思った事をそのままノヴァルナに尋ねる。

「て事は、襲って来たのは、ロッガ家の奴等ッスか?」

「さぁなァ。なんせ疑わしいヤツは、山ほどいるかんな」

 冗談ぽく、あっけらかんと返すノヴァルナだが、それは紛れもない事実であり、寝そべるノヴァルナの隣に座るノアは、やれやれ…と首を軽く振る。

 実際にノヴァルナへの襲撃を画策しているのは、ノヴァルナの弟カルツェの側近クラード=トゥズークに、ミノネリラ宙域星大名ギルターツ=イースキーのラインだが、ノヴァルナ側の視点で見ると、襲撃して来る相手としてこの他にイル・ワークラン=ウォーダ家、ロッガ家、イマーガラ家とその従属勢力、旧キオ・スー派残党、敵対的独立管領…等が浮かび上がり、身に覚えがあり過ぎるのが現状だ。

 そして当のノヴァルナはそんな現状など、どこ吹く風。寝そべったまま良からぬ事を考えたのか、ノアの太腿に手を伸ばしたところを、“人前ではやめなさい!”とばかりに、ペチリ!と平手打ちを喰らって冷たく跳ねのけられていた………




▶#17につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

処理中です...