銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第12話:風雲児あばれ旅

#05

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 捕らえて立ち退き承諾を迫っていたアルーマ峡谷の旅館主達が、天光閣の客に強引に取り戻されたという知らせをレバントンが聞いたのは、住まいにしているザブルナル市の高級ホテルで眠っていた時だった。

「なにっ!? それは本当の話か!!」

 ベッドの上で上体を起こし、トレードマークとも言える丸目のゴーグルを掛けながら、レバントンはNNLの通話ホログラムに、怒鳴り声混じりの詰問をする。

「武装した宇宙船を使っただと? それで鉱山の方に損害は?…分かった、すぐに修理にかからせろ!」

 強い口調で指示を伝えた下着姿のレバントンは、ベッドから降りて立ち上がり、ナイトガウンを着た。怒り心頭の頭を冷やそうと窓際へ歩み寄り、ザブルナル市の夜景を眺める。しかしそんな事で気が紛れるはずもなく、荒々しく鼻から息を吐き出した。

 アルーマ天光閣の客と言えば、あの生意気な若造とその手下たちに違いないと、レバントンはノヴァルナ一行の事を思い浮かべた。無論、その真の正体には気づいていないが、表向きの“ガルワニーシャ重工重役の子息とその婚約者一行”という情報は得ている。

“うぬぅ…あのガキ共が、調子に乗りおって!”

 どうせ、世間知らずの重役の放蕩息子が気まぐれに、正義の味方でも気取って温泉旅館の肩を持っているのだろうが、現実がどういうものか教えてやると、レバントンは再び、NNLの通話ホログラムを立ち上げた。大昔のスマートフォンと似た形の通話ホログラムを耳にあて、自分から連絡を入れたのは、三日月型衛星に建設された金鉱石輸送の中継基地である。

「ウォドル隊長か?…俺だ。峡谷への襲撃だがな、明日やってくれ…ああ、予定は変更だ」

 レバントンの通話の相手は中継基地に届けられていた、『アクレイド傭兵団』の陸戦仕様BSI『ミツルギ』を率いている、ウォドルという男だった。
 立ち退きを拒否し続ける旅館主達をネドバ台地の採掘場に二日間監禁し、その間に立退き承諾書へサインを行わないようであれば、三日後に略奪集団を装ったウォドルの隊と、傭兵達にアルーマ峡谷を襲わせるのが当初の計画だった。

 レバントンがそうまでして承諾を迫るのは、アルーマ峡谷温泉旅館の旅館主全員の署名がなされた天領返還申請書を、銀河皇国に提出しなければならないからである。旅館主達はすなわち星帥皇室直轄領を預かる者だ。そういう事もあって、レバントンは『アクレイド傭兵団』の上層部から、“好条件と引き換えの説得による穏便な”立退き承諾署名を、旅館主全員から得るように指示されていたのだった。

 だがそういった我慢もレバントンは限界へ達している。

「見てろよガキ共。世の中そんなに甘くない事を教えてやる!」

 ザブルナル市の夜景を丸目ゴーグルのレンズに映し、レバントンはノヴァルナ達へ向けて呪詛の言葉を呟いた。


 
 翌日は、曇り空の多い惑星ガヌーバにしては珍しく、アルーマ峡谷地方は空が晴れ渡っていた。峡谷から見上げるバンクナス大火山も、頂上からの黒煙が穏やかにたなびいている。

 ノヴァルナは救出した旅館主達を、『ホロウシュ』と『クォルガルード』の保安科員の護衛をつけてアルーマ峡谷へ降ろすと、ノアと妹達と共に一旦宇宙港へ戻っていた。命令で別行動を取らせていた、外務担当家老のテシウス=ラームを収容して、報告を聞くためである。その報告はアルーマ峡谷をレバントンら『アクレイド傭兵団』から守る、逆転打になり得る重要なものだ。

「おお、『オ・カーミ』。もう少し休んでおられた方が…」

 午後になり、自分の部屋から出て来たエテルナに、この業界で『オ・カーミ』に次ぐ地位を示す、『ヴァン・トー』を務める初老の男性が声をかけた。祖母の代からこの天光閣に勤める、一番の古株である。

「ありがとうございます。でも、大丈夫です」

 一日半以上眠っていなかったうえ、レバントンらに監禁され、消耗しきった体は確かにまだ重かった。ただそれでも少しは体を動かしたい。幾分気持ちが高まっているのもある。
 それは救出されてアルーマ峡谷へ帰る途中に、不敵な笑みを浮かべた、宿泊客の若者から聞いた言葉によるものであった。

「心配すんな、『オ・カーミ』。俺に任せとけ!」

 エテルナにはこの若者が誰であるか、もう分かっていた。ガルワニーシャ重工重役の息子、ノバック=トゥーダを名乗ってはいるが、自分達を助けに来てくれた時に、彼の仲間の青年から聞いた“ノヴァルナ様”という呼びかけと、乗せられた宇宙船の舷側に描かれた家紋『流星揚羽蝶』が、この若者の正体を雄弁に明かしている。
 オ・ワーリ宙域の若き星大名ノヴァルナ・ダン=ウォーダは、噂ではこの上ない傍若無人の乱暴者という事だが、客商売で培った眼がノヴァルナという若者の、本質を見抜いていた。それゆえに諦めかけていた中、この危機的状況をどうにかしてくれるものと希望が湧いたのだ。

「せっかくだから、警備してくださっている皆さんに、何か飲み物をご用意して。あまり冷たくしないようにね」

 エテルナはノヴァルナが各旅館に配置した、『クォルガルード』の保安科員に、飲み物を差し入れるよう『ヴァン・トー』へ指示する。だがその直後、アルーマ峡谷の空全体に響き渡る轟音が、急速に接近して来た。

 驚いて窓に駆け寄り、空を見たエテルナの眼に巨大な宇宙船が映る。昨夜乗せられた宇宙船ではない。

「あれは!?」

 表情を強張らせるエテルナ。すると宇宙船の底部が開き、BSIユニットとシャトルが次々と降下を始めた。予定を二日早めた、『アクレイド傭兵団』演じる“略奪集団”の襲撃が始まったのだ。




▶#06につづく
 
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