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第12話:風雲児あばれ旅
#04
しおりを挟むカメラアイを全て破壊された多脚ロボットは、苦し紛れの当てずっぽうに、レーザートーチのついた前脚を振り回しだした。だが今度はノヴァルナ達も距離を取っているため、危険が及ぶことはない。
そしてその闇雲な動きが、命取りになった。半身を通路に捻じ込んでいた多脚ロボットの、切り立った岩壁に突き刺して機体を支えていた脚が、外れてしまったのだ。崩れる岩壁。多脚ロボットはまるで後ろから引きずり出されるように、通路から姿を消すと、縦穴を落ちていった。構えていた銃を下ろし、ふぅ…と小さく息をつくノヴァルナ達。
だがその時、後方で大きな金属音が響く。振り返れば、エテルナ達旅館主を二台に乗せたトラックが、片方の後輪を真っ二つにされていた。その近くを通路から出ていく、レーザートーチを灯した多脚ロボットの前脚。最初の一機と戦っている間に、もう一機が忍び寄って来ていたのだ。
「しまった!」
トラックが走られなくなると、エテルナ達を運ぶのは困難だ。しかもそれだけではなく、残りの一機は岩壁を素早く移動して前方に回り込むと、通路の外からレーザートーチの前脚だけを突き入れ、天井の岩を切り崩し始めた。落下する岩が通路を塞いでいく。
こうなるとノヴァルナ達に有効な打開策はない。ありがたい話ではないが、直接自分達を捕えようとした最初の一機より、優秀な搭乗者のようだ。
「クソッタレ!」
ハッチは毒づくと、モ・リーラに合図してバイクで坂道を引き返した。円形の縦穴を降りて、もう一機の多脚ロボットが見える位置に来ると、ブラスターを連続発射する。しかし至近距離からの射撃ではなく、距離が離れるにつれ威力が落ちる光線銃の一種であるブラスターでは、目立った効果は見られない。
「お客様…」
その声にノヴァルナが振り向くと、エテルナがよろめきながら歩み寄って来る。
「ここはお逃げ下さい。今ならあの端をバイクで擦り抜ければ、逃げられます」
そう言ってエテルナが指差したのは、ロボットの前脚が崩している天井の岩で出来た堆積の端だ。そこは脚が届いておらず、岩が落下していない。
「だけどあんたらをバイクに乗せるとなると…」
疲弊の激しい旅館主らはバイクでは運べない。そう判断してトラックを使ったのである。それをバイクに乗せるのであれば、よほど慎重な運転が必要だが、今はそんな事をしている状況ではない。そんなノヴァルナの心情を理解しているらしく、エテルナは気丈な振る舞いを見せた。
「私達はここに残ります。彼等の目的は、私達を殺す事ではありませんから、大丈夫です。ただ今の状態ではお客様達まで危険に巻き込まれます。それは『オ・カーミ』として看過できません」
エテルナの言葉にノヴァルナは奥歯を噛み締めた。確かにエテルナを残して行けば脱出は出来るだろうが、それではここへ来た意味が無い。
次の手を模索するノヴァルナ。しかし今度の敵は脚だけを通路内へ要れており、本体を叩かなければ埒が明かない。ハッチとモ・リーラが向こうで盛んに銃を撃っているが、効果は薄いようだ。
“クソ…なにか手はねぇのかよ”
ノヴァルナがそう思ったその時だった。吹き抜けとなった縦穴の上空から、甲高い金属音が降りて来る。ノヴァルナには聞き覚えのある金属音―――戦闘輸送艦の『クォルガルード』のエンジン音だ。サーチライトが照らされ、縦穴の穴に白く眩い光が注ぎ込まれた。そして外部スピーカーから鳴り響く、フェアンの元気な声。
「兄様ー。助けに来たよー!!」
「フェアンか!!??」
片手をかざして上からのサーチライトの光を遮りながら、通路の端から空を見上げるノヴァルナ達。
するとフェアンの指示なのか艦長のマグナー大佐の命令なのか、『クォルガルード』は強引な行動をとる。縦穴の中に垂直降下して来たのだ。速度は落としてはいるが、『クォルガルード』は全長255メートル。それに対して縦穴の直径はおよそ280メートルと、ギリギリだと言っていい。
さらに『クォルガルード』は高度を下げ、ノヴァルナ達と同じ高さにまで降りて来た。だが多脚ロボットに艦載砲やCIWS(近接迎撃兵器システム)を撃つと、威力が高すぎて岩壁まで破壊しかねない。そこで出番なのが、艦の両舷に格納してある作業用のバインドアームである。
ガクン!…という、小さな振動と共に動き出したバインドアームが、『クォルガルード』の絃側から動き出した。これはマズいと感じたらしい多脚ロボットが、逃げ出す。その姿はまるで鳥に見つかった蜘蛛そのものである。だがバインドアームの動きも素早く、多脚ロボットをつまみ上げると、ポイッ!という感じで穴の底へ投げ捨てた。呆気ないものだ。
「兄上。ご無事ですか!?」
滞空モードでエンジン音が小さくなった『クォルガルード』の、外部ハッチが開いて姿が現れたマリーナが問いかける。そこに後ろから来たフェアンが、出迎えの先を越された事に抗議の声をあげた。
「マリーナ姉様、ずるーい!!」
いつもと変わらぬ妹達の様子に、ノアと顔を見合わせたノヴァルナは、こちらもいつも通りの不敵な笑みを浮かべる。
この増援はランの機転であった。ノヴァルナがエテルナ達旅館主の救援に出発する直前、ランは『クォルガルード』へ連絡を入れ、宇宙港を発進してここネドバ台地の遥か上空の、衛星軌道上で待機するよう要請していたのだ。いつも無茶が過ぎる主君の扱いに慣れた、ランならではの判断である。
こうして『クォルガルード』に回収された一行は、アルーマ峡谷に帰って行ったのであった………
▶#05につづく
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