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第12話:風雲児あばれ旅
#03
しおりを挟む二機の蜘蛛のようなロボットは、機体前方の二本の脚を突き出して、先端部に装備されている、切断や溶接に使用するレーザートーチを作動させた。暗い縦穴の中に、青白い光が剣のように伸び出して来る。少し触れただけで人間など真っ二つに焼き切れる代物だ。
自分達に向かって来る多脚ロボットに、明かな悪意を感じ取ったノヴァルナは、懐からハンドブラスターを取り出してトリガーを引く。しかし武骨な建設用重機そのもののボディは、ブラスターで穴をあけられたぐらいでは止まらない。しかも操縦席を狙おうにも、太長い脚が盾のように操縦席をカバーしている。その間を狙撃するような余裕などない。
「やべぇ! 早いとこズラかれ!!」
こんなものに構ってられっか!…とばかりに、自分のバイクに飛び乗ったノヴァルナは、さっさとエンジンをスタートさせる。別に臆病風に吹かれた訳ではない。そうしなければ自分の親衛隊である『ホロウシュ』達が、自分の身を盾にして主君を守ろうとするからだ。追って来た多脚ロボットが、置き去りにしたササーラのバイクを蹴り飛ばした。跳ね上げられたバイクは宙を舞い、管理棟の外壁に激突。ひしゃげて落下する。
ノヴァルナ達は縦穴を地上へ向かう、螺旋状の坂道を登り始めた。本来ならバイクを反重力走行モードに切り替えて、路面の影響を受けずに速度を上げたいところだが、自分らが守るべきエテルナ達を乗せたトラックは昔ながらの、車輪走行しか出来ないタイプであり、置き去りにするわけにはいかない。ノヴァルナはトラックと運転席の横で並走すると、ハンドルを握るササーラに大声で告げる。
「急げササーラ!」
上り坂とはいえ相手は脚で走行するタイプである。急げば追いつかれる事は無いはずだった。ところが多脚ロボットは螺旋状の坂道を追って来るのではなく、レーザートーチを作動させていないあとの六本の脚を使い、縦穴の切り立った岩壁を先端の鋭い鉤爪で突き刺し、真っ直ぐによじ登り始めたのである。
「マジか!!??」
「ウソでしょ!?」
バイクを運転しながら、ノヴァルナとノアはこの光景に驚きの声を上げた。もしかしたらあの多脚ロボットには、重量を軽減するための反重力補助機関が、装備されているのかも知れない。宇宙空間と兼用で使えるものに見られる機能だ。
そして問題は地上への坂道が、縦穴の内壁を螺旋状になっているため、ショートカットで真っ直ぐに登って来る多脚ロボットのコースと、重なる箇所があるという点だ。
“こいつはマズいぜ…”
臍を噛む思いのノヴァルナ。自分達はともかくトラックをこれ以上急かして、事故でも起こされては元も子もない。
そして恐れていた事態は、ものの三分も経たないうちに訪れた。ノヴァルナ達と二機の多脚ロボットのうちの一方との、コースが重なったのである。ノヴァルナ達の目の前で、螺旋状の坂道に巨大な蜘蛛型の半身を潜り込ませて来る。ネジ穴のような形状の岩壁を抉って作り上げた坂道は、高さがそれぼどもなく、多脚ロボットは脚が長すぎて全身を入れられないのだ。それがノヴァルナ側のアドバンテージと言える。
「止まれ、迎え撃て!」
ノヴァルナは声を上げて命じた。バイクのスピードを上げれば、何台かは擦り抜ける事が出来るだろうが、守るべきエテルナ達を乗せたトラックは、道路幅もあってそうもいかない。
這いつくばるようにし、螺旋状通路の中へ体を挟みこんで来た多脚ロボットと、ノヴァルナ達の距離は五十メートルほど。多脚ロボットはレーザートーチを装備した前脚を伸ばして、こちらへ斬り掛かろうとする。ノヴァルナの号令でノアと『ホロウシュ』は、一斉にバイクを横向きにして停車すると、ハンドブラスターを両手で構える。
「照準はコクピットだ。集中攻撃! ともかくヤツを追い払え!!」
ノヴァルナの指示で『ホロウシュ』達は、次々にハンドブラスターを撃ち放ち始める。一斉射撃ではなく、敵ロボットのコクピットに対する間断ない射撃で、撃退しようというのだ。一種の我慢比べである。レーザートーチを振りかざして接近しようとする多脚ロボットに対し、ノヴァルナ達は落ち着き払った様子で、ハンドブラスターのトリガーを引く。
コクピットのある頭部への射撃の集中に、さしもの多脚ロボットもたじろぎを見せた。中に人間が乗っており、それが主君のためであるなら、命を懸ける事をものともしない『ム・シャー』ではなく、報酬第一で命を惜しむ傭兵であるなら、怯むであろうというノヴァルナの判断だ。
そしてその目論見は正解であった。
雨あられとコクピット周りへ攻撃を喰らった多脚ロボットは、ジリジリと後退を始める。巨大であっても軍用ではなく土木作業用であるから、ごついフレームの脚部はともかく、本体には装甲など施されていない。だが油断は禁物。多脚ロボットは後退しながらも長い前脚を突き出した。危うくレーザートーチの一撃を喰らいそうになり、ノヴァルナとモ・リーラは咄嗟に身を翻して回避する。
「ヤツの外部カメラを潰せ!」
多脚ロボットはコクピットのある頭部前面に、広角レンズのついた四つのカメラアイが取り付けられていた。ノヴァルナはそれを破壊して、敵の視覚を奪おうと考えたのだ。ブラスターのビームが集中し、カメラアイは次々に砕け散った。
▶#04につづく
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