銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第12話:風雲児あばれ旅

#20

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 ヨッズダルガとモルタナを、『クォルガルード』に呼び寄せたノヴァルナは、二人をラウンジに招いて、まずこの周辺の星々を荒らし回っている、皇国軍残党についての情報を求めた。彼等であれば、そういった連中の事も知っているに違いないからだ。

 そして案の定…というか、ノヴァルナが残党の事を知りたがっていると分かった瞬間、ヨッズダルガとモルタナは表情を険しくして顔を見合わせた。

「キオ・スーの。あんた、連中とやり合うつもりなのか?」

「おう」

 その時タイミング良く、ランがブランデーのセットを持ってやって来た。ブランデーはヨッズダルガ、ランが運んで来たのはモルタナの滑舌を良くするための、ノヴァルナの配慮だ。特にヨッズダルガは最近、生活に余裕で出来たらしくサイボーグの口腔内を生体ユニットで覆い、半生体味覚解析スキャナー…つまり人工の舌を装着して、再び食べ物の味が分かるようになった事で、飲食物に目が無くなっている。
 一方のモルタナは、早速ソファーの隣にランを侍らせてご満悦だった。いつも通りのモルタナに対する困惑ぶりを見せながら、ランはグラスにブランデーを注いで全員に配る。待ってましたとばかりに煽ったヨッズダルガは、「カーッ」と声を漏らして頷いた。

「いい酒じゃねぇか」

「だろ?」

 そう言いながらノヴァルナは、付き合い程度でグラスに軽く口をつける。近年になって酒も飲むようになったノヴァルナだが、非常に弱く、グラス一杯も飲めば顔が真っ赤になってしまうのだ。したがって、「だろ」とは応じたものの、ヨッズダルガの言う“いい酒”というのも、今一つ分からないでいた。

「んで、連中は何者なにもんなんだ?」

 ノヴァルナが話を本題に戻すと、ヨッズダルガはランにブランデーのお代わりを注いでもらいながら、重々しく告げる。

「ヴァンドルデン・フォース…中立宙域の裏業界じゃあ、そう呼んでる。やり口の汚さで評判は最悪…正直、みんな迷惑してんだ」

 そこでモルタナが話を補足した。

「あたいらはまぁ、あんたんトコが色々面倒見てくれてるから、それほど裏業界に関わっちゃいないんだが、武力にモノを言わせてさぁ、密貿易の交易ステーションを幾つか支配下に置いて法外な関税をかけたり、自分達の輸出品を高値で無理矢理買い取らせたり…やりたい放題さ」

「治外法権の密貿易ステーションで“法外”たぁ、変な話じゃね?」

「そういうツッコミすんじゃないよ。物には相場ってもんがあるって話さね」

 苦笑いで言い返すモルタナに、ノヴァルナは不敵な笑みで応じる。

「わかってるよ」
 
 この時代、密貿易の交易ステーションはどこの宙域の境目にも、多数存在していた。これらはブロック経済圏である宙域国、例えばノヴァルナのオ・ワーリ宙域とイマーガラ家のミ・ガーワ宙域のように、敵対する宙域間でも物品を流通させる役割を持っており、物流のグレーゾーンとして星大名も強く取り締まったり、排除する事はない。銀河皇国の直轄星系ばかりの中立宙域で、それに手を出すという事は銀河皇国軍であった『ヴァンドルデン・フォース』が、もはや銀河皇国と何の関係もない集団となっている事を示している。

「どうしてそんな事に、なっちまってるんだ?」とノヴァルナ。

「そんな事って?」と尋ね返すモルタナ。

「ザーランダみてぇな個々の植民惑星はともかく、中継ステーションにまで手を出しゃあ、本家の皇国軍…まぁ今は実質ミョルジ家の軍だが、皇国軍やロッガ家の軍も動きそうなもんだろ?」

 中立宙域の中継ステーションは、皇国やロッガ家にも利益をもたらすものであって、それを荒らすような行為は、双方から討伐の対象となっても不思議ではないからだ。しかしヨッズダルガが、ブランデーを煽りながらそれを否定する。

「ところがそういうワケでもねぇんだ。今は停戦しているが、皇国軍の主体になってるミョルジ家の軍と、ロッガ家の軍は一触即発の状態のままでな。『ヴァンドルデン・フォース』が中立宙域にいる事で…いる事で…なんつったけか?」

 言葉に詰まる父親に、モルタナが跡を継ぐ。

「緩衝材!…ヴァンドルデンの連中が小さいながらも、第三勢力で間に入っている事で、ミョルジ家もロッガ家も直に接触せずに済んでるってワケさね。で、ヴァンドルデンの連中もそれを心得てて、どちら側にもつかず、好き勝手にやってるって事だよ」

 モルタナの言葉を理解して、ノヴァルナはため息交じりに、「なるほど…」と応じた。ミョルジ家とロッガ家の緩衝材となっているのならば、『ヴァンドルデン・フォース』にも存在価値があり、道理でネイミア達が討伐を願い出ても、聞き入れはしないはずだった。彼等からすれば、逃げ出した貴族の所有していた惑星の住民の訴えなど、聞くに値しないのだろう。

「しかし、まさかあんたらが関わって来るとはねぇ…ホント、何にでも、首を突っ込んで来るんだねぇ…」

 呆れるように言うモルタナだが、その表情には納得ずくのものがあった。かくいう自分達も三年前、ノヴァルナが首を突っ込んで来た事で、救われたからである。そうであるから、次の言葉も自然に出るというものだ。

「ま、そういうトコ…嫌いじゃないけどね」




▶#21につづく
 
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