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第13話:烈風、疾風、風雲児
#11
しおりを挟む超空間通信による『ヴァンドルデン・フォース』からのメッセージは、『クォルガルード』内でもすぐさま再生された。胸部から上のラフ・ザス=ヴァンドルデンのホログラムが、死刑宣告を告げる裁判官のような表情で話し始める。
「我は中立宙域を統べる『ヴァンドルデン・フォース』の総司令官、ラフ・ザス=ヴァンドルデンである―――」
口上の始まりに、ノヴァルナの視線は自然と鋭くなった。
「―――JWー098772星系に設置した、我が部隊の予備艦泊地を襲撃し、宇宙艦を強奪せし者共に告ぐ。我等『ヴァンドルデン・フォース』の威を恐れぬその行為、不届き千万。ついてはこの行為に対し、我等は報復を行う事を、ここに宣告するものである」
「報復?」
『クォルガルード』のラウンジで、キノッサと共にホログラムを見ていた、ネイミアが不安げな声を漏らす。
「その報復とは、これより三日の後…我らが任意に選出した皇国直轄植民星系に対し、徹底的な収奪と掃討を行うものである!」
これを聞いて『クォルガルード』の艦橋内は、さざ波のように各士官からの唸り声が広がった。ラフ・ザスが口にした“任意に選択した植民星系”とはつまり、どの星系を襲撃するかは、相手の思いつき次第…という意味だからだ。
「繰り返す…徹底的な収奪と掃討である。選ばれた星系の住民達は、惑星イスラハ以上の惨劇を覚悟するがいい。以上だ」
そう言い終えると、ラフ・ザスのホログラムはゆっくりフェードアウトして、視界から消え去った。
「………」
ノヴァルナをはじめ、ラフ・ザスのメッセージを見終えた者達は、一様に無言となった。『ヴァンドルデン・フォース』が、何らかのリアクションを起こすとは予想していたが、実際リアクションはその想定を超えるものだったからだ。
「任意の植民星系を襲うだと?…なんのつもりだ!?」
ササーラが、独り言にしては大き過ぎる声で、ラフ・ザスを詰る。
「俺達を炙り出すためさ」
ササーラの言葉に、ノヴァルナは吐き捨てるように言いながら、自分自身も苦虫を嚙み潰したような顔をした。
“ヴァンドルデンの連中…まずは俺達の情報収集に時間を割くと思ってたが、こういう思い切った手を使って来るとは、俺もまだまだ経験不足の青二才って事か…”
ノヴァルナにとってもラフ・ザス=ヴァンドルデンの、“任意の植民星系を攻撃する”という宣言は、思いも寄らぬものであった。予想では敵はこちらの情報を収集するため、相応の時間を要すると思っていたのである。そしてその間にザーランダの兵士達に訓練を課して、戦闘集団としての体裁だけでも整えるつもりだった。
だがそれも三日―――おそらく『ヴァンドルデン・フォース』、が戦力の集結を完了させるまでの時間しか、なくなってしまったのだ。
苛立って来そうになる気持ちを抑えて、ノヴァルナは考える眼をした。
三日でどこまで出来るか…問題は自然とそちらへ移動する。惑星ザーランダで、さらにどれぐらいの兵が集まるか知れないが、場合によっては奪った艦の数隻は放棄して、動かせる艦の数を絞らねばならない。
「先程仰せられた、訓示…どうされますか?」
マグナー大佐はノヴァルナに問いかけた。状況が急転したため、若き主君に少し時間を与えた方がいいのではないか、という配慮からだ。しかし大佐に振り向いたノヴァルナは、何事もなかったかのように、あっけらかんと応じる。
「んにゃ、やるぜ。言いてぇ事は変わんねーし」
それから約三時間後、『クーギス党』の移動本拠地母艦『ビッグ・マム』の居住区―――船倉の隔壁を取り外して作り出した巨大空間に、『クーギス党』とノヴァルナの家臣、そしてザーランダの兵士達が集まっていた。バラックのような小屋が天井まで積み重ね上げられている、『クーギス党』の居住区…つまり町の光景は、ザーランダの兵士達の目にも奇異に映るらしく、全員が物珍しそうに辺りを見回している。
ハルートとネイミアの親子も、キノッサの案内で居住区の通りを歩きながら、『クーギス党』構成員の家族の暮らしぶりを眺めた。決して裕福とは言えない様子の人々だが、その表情には明るいものが溢れている。何かの廃材で作ったベランダで、洗濯物を干しながら隣同士の主婦が冗談を交わし、路地を子供達が駆け回り、老人達は街角で昔話に花を咲かせていた。
するとハルートとネイミアがいる居住区の反対側で、住民達がざわめきだす。やがてそれには歓声が加わり、拍手も起きた。
「なにかな?」
不思議そうな顔で振り向くネイミアに、キノッサは笑顔で告げる。
「ああ。あれッスよ」
キノッサが顎をしゃくって示した先には、居住区の中央を走るメイン通りの反対側に、ササーラとランを連れたノヴァルナが、モルタナとともに姿を現していた。そしてそれを認めた『ビッグ・マム』の住民達が、親しげに集まり始めている。
「ノヴァルナ様だぁ!」
「おお、ウォーダの若殿様じゃ」
「まぁ。ようこそ、ノヴァルナ様」
声を掛けて来る住民達に、ノヴァルナは一々右手を軽く挙げ、「よう」とか「おう」とか応じながら、屈託のない笑顔で進んで来る。ネイミアが知り合ってから、ここまで見せた事のない笑顔だった。
「なんか…違うね」
常にどこか斜に構えたような、ノヴァルナしか知らないネイミアは、意外そうに言う。それに対しキノッサは、まるで自分の手柄のように告げた。
「そりゃあ、ここじゃノヴァルナ様は、大恩人の人気者ッスから!」
▶#12につづく
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