銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
269 / 508
第13話:烈風、疾風、風雲児

#12

しおりを挟む
 
 キノッサが口にした通り、ノヴァルナはかつて壊滅寸前に陥っていた、『クーギス党』の窮地を救った恩人…彼等からすれば英雄である。そうであるなら、その英雄が母船を訪れて、歓迎されないわけがない。ましてや『クーギス党』は、家族的繋がりの強い集団であり、ノヴァルナに対する接し方は、懐かしい親戚が帰って来たようなものだった。

 そのような中を歩き進んだノヴァルナは、通りの突き当りとなる隔壁のエレベーターを使って、隔壁の中ほどの高さに張り出した作業台へ上がった。全員に訓示するためである。まず最初に口を開いたのは、『クーギス党』の副頭領モルタナだ。

「みんな聞きな! キオ・スー=ウォーダの殿様から、話があるよ!!」

 胸を反らして凛とした声で宣するモルタナ。立場は副頭領だが、実質的な宇宙海賊『クーギス党』の指導者である彼女の声の勢いは、その地位に相応しく、居住区の通りに集まった『クーギス党』の兵士はもちろん、初対面のザーランダの兵士達の背筋を、伸ばさせるのに充分だった。

 そしてノヴァルナが進み出る。普段、腕まくりや胸のボタンを外して着崩している、ウォーダ家の紫紺の軍装だが、今はきちんと整えられていた。

「オ・ワーリ宙域星大名キオ・スー=ウォーダ家当主。ノヴァルナ・ダン=ウォーダである!―――」

 ノヴァルナのその声を聞いて、特にササーラ達直臣一同は、表情に緊張の度合いを高める。こういったパターンの場合のノヴァルナは、いきなり突拍子もない事を言い始めて聞き手を混乱させ、その間に言いたい事を言って終えるのが普通だったからだ。それが今回は違う。話す言葉も武家言葉だった。

「―――我はこの度、惑星ザーランダ臨時行政府からの要請を受け、中立宙域で悪逆非道の行為を繰り返す、『ヴァンドルデン・フォース』討伐の指揮を執る事と相成った。我が将兵はザーランダの、そして『ヴァンドルデン・フォース』の悪政に置かれた惑星の民の苦しみを、自らの苦しみとして事に当たれ!」

 それを聞いてマグナー大佐以下『クォルガルード』の乗組員と、『ホロウシュ』達が無言で頷く。

「また、自らの命の危険を顧みず、我の応援要請を快諾してくれた、シズマ恒星群独立管領クーギス家には、心より感謝の言葉を述べる。ザーランダの民をはじめ同じ中立宙域で生きる者として、『ヴァンドルデン・フォース』の悪行を許さぬその心意気、まこと賞賛されるべきものである!」

 ノヴァルナのその言葉に、『クーギス党』の人々からは「おおお…」と、控え目だが力強さを感じさせる声が、さざ波のように広がった。そこからノヴァルナは、ひと固まりでいるザーランダの兵士達へ向き直る。
 
「さて…ザーランダの兵士諸君―――」

 ノヴァルナにしては、また珍しい呼びかけ方をして一拍置き、兵士一人ひとりの眼を見るようにしながら続ける。

「己が意志で故国を守らんとするその士魂、このノヴァルナ、感服の極みである。そして諸君こそが、此度の戦いの主役とならなばならぬ事は、充分承知しているはず。なぜなら、ザーランダとユジェンダルバ星系を守った英雄は、オ・ワーリから来た我ではなく、ザーランダの民である、諸君らがならねばならないからだ!」

 口では力強くそう言いながら、ノヴァルナは胸の内で“…ったく”と、愚痴をこぼした。こういう煽り方は、自分の本意ではないからである。ただ、このタイミングで司令官として何も言わないわけにもいかず、さりとてノヴァルナという人間を知らないザーランダの兵士達に、いきなりいつものマイペースぶりを見せても、不安にさせて、逆に戦意を喪失させるだけだろうという思いから、このように“ありきたり”な訓示となっていたのだ。

「諸君。死を恐れるな…とは言わない。いや、むしろ我は命じる。“生きろ”と。だがそれは退く事であってはならない。戦場では背中を見せた者は、生き残れないからだ。だから命じる、前へ進めと! 前に進んで自分の手で生を掴め。自分達の守らねばならぬもの、守るべきもののために、生き、そして勝利するのだ!!!!」

 訓示を終えたノヴァルナが、右手に拳を作って軽く掲げると、ザーランダの兵士達は、『クーギス党』の人々以上に「おお!」と強い口調で声を上げ、双眸を輝かせた。ノヴァルナ自身の気持ちはともかく、ザーランダの兵士達が士気を高めたのは間違いない。

 ノヴァルナが去ってもしばらくの間、居住区では士気の高まった兵達から、何度か声が上がっていた。それを聞きながら歩くノヴァルナはササーラに、ザーランダの兵の中で、最上位の階級の者を会議室に集めるように命じる。訓示を終えても、忙しくなるのはこれからだった。
 『クォルガルード』と『クーギス党』の戦闘力は把握しているものの、士気は上がっても実際はどこまで使えるか分からない、ザーランダの戦力を加え、早急に作戦を練らなければならないのだ。事実、ラフ・ザスの宣告メッセージを観て以来、いや、『ヴァンドルデン・フォース』の未使用艦を奪って以来、ノヴァルナはひと休みもせず、動き回り、考え続けていたのだ。そこにランが問いかける。

「ザーランダの士官が集まるまで、いかがされますか?」

 シミュレーターで作戦の原案を試す。休んでるヒマはねーからな…そう応じようと思ったノヴァルナだが、不意に別れ際のノアの“ちゃんとご飯、食べるのよ”という言葉を思い出して考え直す。

「んー…メシを喰う」

 それを聞いたランは、一瞬意外そうな目をしたあと、小さく微笑んだ。




▶#13につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

子供って難解だ〜2児の母の笑える小話〜

珊瑚やよい(にん)
エッセイ・ノンフィクション
10秒で読める笑えるエッセイ集です。 2匹の怪獣さんの母です。12歳の娘と6歳の息子がいます。子供はネタの宝庫だと思います。クスッと笑えるエピソードをどうぞ。 毎日毎日ネタが絶えなくて更新しながら楽しんでいます(笑)

処理中です...