銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第13話:烈風、疾風、風雲児

#15

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 ノヴァルナの言葉に感じ入ったハルート達、評議員は何度も頭を下げたのち、執務室を退出して行った。ただその時にはもうノヴァルナは、彼等の事など眼中になく、最終的にこの人員数でどんな作戦を取るかで、頭が一杯になっている。するとしばらくして執務室の片隅で、ネイミアが立ったままでいる事に気が付いた。

「あれ? おまえ、何してんの?」

 声を掛けられるのを待っていたらしいネイミアは、椅子に座るノヴァルナのもとへ歩み寄って来て、真剣な眼差しで告げる。

「ノヴァルナ様、お願いがあります」

「言ってみ?」

「あたしを…ノヴァルナ様の家臣にして下さい!」

「へぇ…なんで?」

「少しでも役に立ちたいんです!」

「訓練も受けてねー女が、何の役に立とうってんだ?」

「出来る事だったら、何でもします!」

 それを聞いてノヴァルナはまた、ろくでもない冗談が頭をよぎったが、同じ部屋に控えるランの眼を見て、口にするのはやめにした。ランならノアに告げ口はしないだろうが、ノアの代わりに見張っているような気もするからだ。そうであれば、本題を続けるしかない。

「最前線の駆逐艦で、掃除係をやれって命じたら?」

「もちろん、喜んでやります!」

 上半身を乗り出して応じるネイミア。

「最前線だから、掃除中に奇襲喰らって、死ぬかもしんねーぞ?」

「構いません!」

「………」

 口をつぐんだノヴァルナは、“やれやれ…”といった顔をする。どうせ、ザーランダ兵が集まらなかった事を気にかけ、自分だけでも気持ちを示そうと考えて思いついたのだろう。さっきの自分の冷めた言い方に、傷付いたのかも知れない。そう思うノヴァルナに、ネイミアはさらに訴えた。

「あたし、納得できないんです。みんな『ヴァンドルデン・フォース』の支配で、生活に苦しんでしるのに、いざとなったら…命懸けでこの星から抜け出して、助けてくれる人を…ノヴァルナ様を、ようやく探し当てたのに…」

 話によれば、ネイミアと連れであった二人の男は、惑星ザーランダを抜け出してから中立宙域を、ひと月以上探し回ったらしい。そして直接、星大名家やその主要家臣を訪ねるのを諦め、彼等に伝手を持つような裕福な人間を頼ろうと、そういった人間が訪れそうな、リゾート惑星を巡っていたのだった。その訪問先の一つであった惑星ガヌーバのアルーマ温泉郷で、ノヴァルナ達と出逢ったのである。

 そのような天佑神助とも言うべき出逢いであるから、ネイミアの無念な気持ちも無理はなかった。
 
 ネイミアの訴えに耳を傾けていたノヴァルナは、それと同時に、『ヴァンドルデン・フォース』の…いや首領の、ラフ・ザスの支配の巧妙さを感じていた。

 それは初めてこの星を訪れた時に気付いたのだが、住民達の生活が困窮…というレベルにまでは、落ち込んでいないという点だ。
 日々の食料にさえ困るような、さらに餓死者まで出るような…または何らかの伝染病によって、パンデミックが発生するような状況であれば、住民達は命懸けで叛旗も翻すであろうが、そのレベルに達する寸前、つまりギリギリ生きていける社会環境を、ラフ・ザスは保たせているのである。これはこの男が軍政家としても、優れた手腕を持っている事を示している。

 搾取を我慢さえすれば、生きていける…それが問題である。ラフ・ザスはいわゆる“命あっての物種”という考え方を、支配地に植え付け始めていたのだ。そのための惑星イスラハの焦土作戦であり、恐怖による支配だった。ネイミアや評議員達は口にはしていないが、参集した兵士の少なさから、おそらく一般住民の中にも、諦観と、むしろ今回の戦いに否定的な空気があるに違いない。

「―――って、聞いてますか? ノヴァルナ様!」

 いつの間にか、自分の思考に没頭していたノヴァルナは、ネイミアの呼びかけで我に返った。

「ん?…おう、聞いてるって」

 ごまかすノヴァルナに、ネイミアは表情を明るくして言う。

「じゃあ、家臣にして下さるんですね!?」

「は?」

 本当はネイミアの話を途中から聞いていなかったノヴァルナは、間の抜けた声を漏らした。どうやら聞いていなかった部分で、ネイミアは家臣になる事を、念押ししていたらしい。

「ですよね!?」

「いや、あのな…」

 お得意の“やなこった!”を言いそびれて口ごもるノヴァルナ。するとそこで、執務机の中に組み込まれた通信モジュールが、呼び出し音を鳴らした。

「おう、俺だ」

 応答するノヴァルナ。連絡して来たのは『ホロウシュ』の、カール=モ・リーラである。

「ノヴァルナ様。『クーギス党』のモルタナ様から通信です」

 モルタナはユジェンダルバ星系外縁部へ移動し、『ヴァンドルデン・フォース』への通信メッセージを発信したあと、その場で留まっていた。相手から返信があった場合と、無返答で現有戦力による急襲を、仕掛けで来た場合への警戒のためだ。

「わかった。こっちへ繋げ」

 そう言ってノヴァルナの方も、通信モジュールを操作する。すぐに机の上に通信ホログラムスクリーンが浮かび上がり、モルタナの姿を映し出した。モルタナは画面の中でノヴァルナの執務室を見渡すと、ネイミアに一瞥し、ノヴァルナへからかう眼を向けて冗談を言う。

「あららー、いいのかい? ノアちゃんがいなくなったと思ったら、別のオンナを連れ込んじゃってさあ」

「はぁ? いーから、本題に移れよ!」

 苦笑を浮かべてノヴァルナは、モルタナに要件を促した。それに対し、モルタナも真顔になって応じる。

「奴等からの返信が届いたよ」




▶#16につづく
 
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