銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第13話:烈風、疾風、風雲児

#14

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 ラフ・ザスが、『クーギス党』の後ろ盾となっている星大名の候補の名に、イースキー家と共に、オウ・ルミル宙域ノーザ恒星群を中心に勢力を持つ、アーザイル家を挙げたのには理由がある。
 一方、中立宙域のこの辺りに隣接するオウ・ルミル宙域は、星大名ロッガ家の勢力圏であった。アーザイル家はかつてはロッガ家に従属していたのだが、近年ではアーザイル家に独立の機運が高まっており、ロッガ家に敵対的な態度を取る事が多くなっていた。
 そして『クーギス党』は、ロッガ家の軍関係の宇宙船舶を襲っており、この周辺では、アーザイル家が『クーギス党』を支援しているという推測に、今ではロッガ家と和解に動き始めているイースキー家以上に、信憑性が置かれていたのだ。

 それらも踏まえて、ラフ・ザスは自分の考えを述べた。

「もしこれが、アーザイル家の艦隊派遣への時間稼ぎであった場合、攻め込まれると我等はかなり不利となる。なぜなら隣接するJW-098772星系泊地の、予備艦を失った今、リガント星系へ敵を引き込んで、泊地の予備艦で挟撃を行う防衛計画は頓挫したからだ。したがってここは、当初の想定通り、ユジェンダルバ星系へ攻勢をかける」

「何か、罠があるかも知れません…危険では?」

 参謀の一人が尋ねると、ラフ・ザスは首を振って応じる。

「奪った予備艦を戦力に加えても、『クーギス党』の戦力は知れている。罠を張っていたとしても、それほど大規模なものではなかろう。戦力差で圧し潰してしまえばよい。それに―――」

 そこでラフ・ザスは、硬い微笑みを浮かべて続けた。

「―――宇宙海賊流に言えば、“舐められたら終わり”…だ」



 こうして『ヴァンドルデン・フォース』は、ユジェンダルバ星系に対する攻撃計画を作成し始めた。

 だが彼等に対するユジェンダルバ星系へ戻ったノヴァルナ達。こちらには些か…というには、大きすぎる問題が発生していた。ネイミアの父のハルートが言っていた兵が、全然集まっていなかったのだ。
 ハルートらが『クーギス党』の輸送艦『プリティ・ドーター』で、ノヴァルナ達と合流している間、惑星全土から追加の兵を集めておくという話だったのだが、ノヴァルナ達が惑星ザーランダに戻ってみると、集まっていたのは三百人もいなかったのである。これでは最初に集まった四百人にも満たない。

 これを聞いて大声を上げたのが、ササーラだった。

「なんだそれは!? やる気があるのか!!??」

 『クォルガルード』の艦橋で地団駄を踏んで怒るササーラだが、ノヴァルナの反応は最初から期待していない風な、あっさりとしたものだ。

「ま、そんなもんだろ!」
 
 第二次の参集兵員数は、正確には286人。惑星ザーランダには地元出身の皇国軍兵士が一万人はいるはずであった。これだけの数が揃えば、『ヴァンドルデン・フォース』から奪った艦の全てを、完全運用する事も充分可能なだが、それが第一次の兵員と合わせても、実際に集まったのは七百人弱。ザーランダの臨時行政府も全部は集まらないと予想してはいたが、これはひどすぎる。

 ただノヴァルナには、期待を裏切られた感が微塵もなかった。宇宙港に停泊している『クォルガルード』の執務室で待っていた彼のもとに、ネイミアとその父親ハルートをはじめとする、臨時行政府の評議会議員が訪れ、這いつくばるようにして謝罪しても、あっけらかんと応じただけだった。

「気にすんなって。どうせ、そんなこったろと思ってたし」

「し…しかし」

 口ごもる評議員達を一渡り見回し、ノヴァルナは「アッハハハハハ!」といつもの高笑いを発する。そして諭すように告げた。

「あんたらひょっとして、この星の住民全部が俺達と共に…なんてったっけか?…そだ、挙国一致で、ヴァンドルデンの奴等と戦うとでも思っていたのか? そいつは些か、頭ン中にお花畑が出来かけてるってもんだぜ」

「………」

 無言になる評議員達にノヴァルナは続ける。

「いざとなると、どいつもわが身が可愛い。誰かが代わって戦ってくれるんなら、そいつに任せて、自分は安全なところに隠れていたいってなもんさ…たとえ元は、皇国の兵士だったとしても…な。まぁ、そんな中でも七百人ほど集まったのは、御の字っでとこだろ」

 斜に構えて言い放つノヴァルナ。その冷めた物言いに、父親の傍らにいたネイミアが、悔しそうに両手を握り締めて下を向き、絞り出すように言う。

「そんなの…そんなのって、無いよ―――」

 興味深げな視線を送るノヴァルナ。

「せっかく、ノヴァルナ様が助けに来てくれたのに、守ってもらうあたし達が、この程度だなんて…ノヴァルナ様はザーランダの人じゃないのに…ずるいよ」

 それを聞いてノヴァルナは淡々と述べる。

「そんなもんさ、現実の人間てのは。本当にギリギリまで追い詰められたら、また変わるだろうけどよ、そうじゃなきゃ安全な方を選ぶ。いや、場合によっちゃあ、非難したり、裏切ったりさえするさ。ただな―――」

 そこでノヴァルナは、いつもの不敵な笑みを浮かべて言い切った。

「―――そういう連中もひっくるめて…守るのが、星大名ってもんだ!」




▶#15につづく
 
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