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第14話:死線を超える風雲児
#05
しおりを挟む「バッハハハハ!!」
旗艦『ゴルワン』の艦底部ハッチが開き、黒いパイロットスーツに巨体を包んだベグン=ドフが、笑い声を上げながらBSHO『リュウガDC』を宇宙空間へ解き放つ。頭部に四個のセンサーアイを持つ『リュウガDC』は、“四つ目の虎”のような印象を与える機体であった。
『リュウガDC』の発進に合わせて、『ゴルワン』から三機、二隻の戦艦から各二機のBSI『ミツルギ』が発艦。さらに後方に控えていた軽空母から四機の『ミツルギ』と、十機のASGUL『ジャルート』が続く。見たところBSIユニットは量産型『ミツルギ』のみで、ドフに対する護衛も親衛隊仕様の『ミツルギSS』ではないようだ。
「こちら“パンク・ドール01”―――」
ドフは自分の符牒“パンク・ドール01”で、配下のBSI部隊へ命令を下す。
「“パンク・ドール小隊”は敵の旗艦を叩き潰す。“バードマン中隊(軽空母艦載機部隊)”は、敵の宙雷戦隊を攻撃、撃滅せよ」
二手に分かれるドフのBSI部隊。その動きは当然、ノヴァルナの知るところであった。
「艦載機全機出撃。俺達も出る! 格納庫開け!」
命令を発したノヴァルナの眼前で、『クォルガルード』の格納庫ハッチが開く。
「出るとすぐに戦闘区域だ、気をつけろ。行くぜ!」
スロットルを開きながら命じるノヴァルナ。その言葉通り、ランとササーラが操縦する『シデンSC』を引き連れて宇宙空間へ出ると、ものの三十秒も経たないうちに、接敵警戒警報がヘルメットの中で鳴り始めた。
そして主君に遅れるなとばかりに、ヨリューダッカ=ハッチとカール=モ・リーラの『シデンSC』が、逆方向の発進口から『クーギス党』のASGUL『アヴァロン』八機と共に、飛び出して行く。
一見すると今度は逆に、BSI戦で先手を取られたような印象のノヴァルナ達であったが、この場合、艦載機の全てがスクランブル態勢で待機していたため、些か事情が違う。味方の各艦がBSI部隊に対し、迎撃誘導弾を放つのとタイミングを合わせて発艦。敵BSI部隊が誘導弾に対処を始めたところで、攻撃を仕掛けたのである。
「なんだ、あの艦!?…ただの軽巡じゃないぞ!!」
軽巡航艦のような外観の『クォルガルード』から、大量のBSIユニットが飛び出て来るのを初めて見た、『ヴァンドルデン・フォース』のASGULパイロットが、迎撃誘導弾を回避しながら驚きの声を上げる。その直後、宇宙へ飛び出したノヴァルナの『センクウNX』が超電磁ライフルを撃って来た。その光景がパイロットのこの世で見た最後の光景となる。
ノヴァルナの一撃を皮切りに、両軍のBSI部隊は入り乱れての戦いとなった。各パイロットが座するコクピットでは、機体を急激に機動させる都度、全周囲モニターが映し出す漆黒の宇宙空間に、星が、ユジェンダルバ星系の恒星が、そして敵味方の機体や宇宙艦が、上下左右に流れていく。
「ぬかるなよ、ハッチ!」
「てめぇこそ、カール!」
二人の『ホロウシュ』が乗る『シデンSC』が、『クーギス党』のASGULを四機ずつ率いて敵に立ち向かう。火を噴く超電磁ライフル。砕け散る敵。爆発の閃光が双方の機体を照らす。その閃光を視界の隅に認めながら、『ヴァンドルデン・フォース』のASGUL『ジャルート』と、『クーギス党』のASGUL『アヴァロン』が正面衝突直前で、攻撃艇形態から人型形態に瞬時に変型。手にしたポジトロンランスを打ち合わせた。
さらにBSI部隊同士の戦闘に対し、『クーギス党』の駆逐艦六隻が本格介入して、迎撃行動を開始する。速射力のある主砲で援護射撃を行うと、BSI戦はたちまち『クーギス党』へ有利となった。ノヴァルナの狙いは、自軍の艦列内まで、敵のBSI部隊を引き込み、乱戦に持ち込む事で、敵からの砲撃―――特に戦艦部隊からの主砲射撃を、躊躇わさせるというものだったのである。
だが『ヴァンドルデン・フォース』の首領、ラフ・ザス=ヴァンドルデンがこういう展開を予想して投入したのが、BSI部隊総監のベグン=ドフであった。
「バッハハハハ!、小賢しい! 小賢しいぞ!」
混戦状態となったこの状況でも、ベグン=ドフはご機嫌である。自慢の得物、銃身が二本の重超電磁ライフルをぶっ放すと、主砲を連射しつつ、『リュウガDC』のコースを塞ぐように前進して来ていた、『クーギス党』の駆逐艦の弦側に大穴が開いた。駆逐艦は破片を撒き散らしながら、あらぬ方向へ漂い始める。
「駆逐艦『ラハッド』中破!」
「なんだって!? 一発喰らっただけなのにかい!?」
オペレーターの報告に、眼光を鋭くするモルタナ。ドフの『リュウガDC』はさらにライフルを放った。新たな駆逐艦がやられて、艦尾が吹っ飛ぶ。
これに対し、『ヴァンドルデン・フォース』宙雷戦隊へ牽制攻撃を行っていた、海賊船の一部が仲間の仇とばかりに、『リュウガDC』へ攻撃を仕掛ける。
だがドフの護衛につく四機の量産型『ミツルギ』が、通常タイプのライフルを撃ちかけて、簡単には近寄らせない。機体こそ量産型だが乗っているパイロットの技量は、ドフの護衛を務めるだけあって親衛隊レベルだ。被弾した海賊船が何隻も、這いずるように撤退する。
そこにこの光景を見たのか、ノヴァルナの『センクウNX』から、モルタナのところへ通信が入った。
「ねーさん、あのBSHOには近づくな。ヤツのライフルは特注品だ! それに護衛の連中の腕も半端ねぇ!」
「どうやら、そのようだね!」
ノヴァルナの言葉はつまり、自分達が敵のBSHOと戦うという意味だと、モルタナは正しく理解し、配下の艦に命令を下した。
「野郎ども。あのBSHOは、キオ・スーのにーさん達が始末してくれるってさ。あたいらは他のBSI部隊を叩くよ! 全艦転進!」
物は言いようだがモルタナの命令は、要は“逃げろ”である。難敵と遭遇した場合の逃げ足の速さも、宇宙海賊の持ち味だ。旗艦『プリティ・ドーター』と四隻の駆逐艦、そして宙雷艇を改造した海賊船が一斉に、ドフの『リュウガDC』から距離を取ろうとする。
「バッハハハハ! おおい、逃げんなよ。一緒に遊ぼうぜぇ!!」
笑い声とともに陽気に言い放ったドフは、退避行動中の『クーギス党』駆逐艦に重超電磁ライフルの銃撃を浴びせた。ドフの小隊に砲撃を繰り返しつつ回頭中だった駆逐艦は、左後方からの二発の銃弾に絃側を抉り取られる。そしてさらにその駆逐艦の向こうには、モルタナの『プリティ・ドーター』が見えた。
「見つけたぜぇ、モルタナぁ~!」
敵部隊のもう一人の指揮官であるモルタナを捕えれば、戦況を落ち着かせるどころか、有利へ持ち込む事が出来る。そして何より、モルタナを自分のものと出来るのであれば、黙って見逃す手はない。
「バッハハハハ!」
下品な笑い声を上げてドフは『リュウガDC』を、『プリティ・ドーター』に向けて加速させた。護衛の四機が慌てて指揮官のあとを追う。
「待ちやがれ、モルタナ!」
全周波数帯通信で呼び掛けるドフ。それに対しモルタナは「はん!」と鼻を鳴らして応答した。
「あんたの相手はあたいじゃないよ、ドフ! あたいに手ェ出そうとした事を、あの世で後悔するんだね!」
「あぁん!?」
モルタナの言葉に怪訝そうな声を漏らした直後、ドフの『リュウガDC』のコクピットに近接警戒警報が鳴る。右下方向からだ。戦術状況ホログラムを見れば、星大名家当主を表す、金色の『流星揚羽蝶』紋を輝かせた反応が急速接近する。言うまでもなくノヴァルナの『センクウNX』だ。ドフのモルタナへの全周波数帯通信を傍受していた、ノヴァルナが言い放つ。
「ただ今、ねーさんからご紹介に預かった、あんたの死神だぜ!!」
それを聞き、ドフは興味深そうな眼をして応じた。
「おお、ノヴァルナ殿か! 御自らこの俺に挑んで来るとは、命知らずな! 噂にたがわぬ武編者でありますな!」
▶#06につづく
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